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その頃、ヤクウィー辺境伯を乗せた馬車は辺境伯領の騎兵100騎を連れて、途中の街でエルジョルートの騎兵100騎と合流した。
そして、他の街から戻ったラジジら老兵たち100騎とも合流して、合計300騎でコラナッカ男爵領を目指していた。
すると前から、早馬を走らせてコラナッカ男爵領に行っていたヤクウィー辺境伯の使者が戻ってきた。
そしてヤクウィー辺境伯の馬車と並走すると、馬車の中にいるヤクウィー辺境伯に報告した。
「報告いたします! コラナッカ男爵は男爵領の関所で辺境伯様を歓迎するとの事! 謝罪の品を用意しているとの事です!」
それを聞いたヤクウィー辺境伯は馬車の扉を少しだけ開けて答えた。
「承知した。このまま後列に付け!」
「御意!」
使者は馬の速度を落とすと、馬車の後列に並んだ。
その頃、さらに後列に居たエルジョルートは側近の兵と話していた。
「父上はなぜこんなに大勢の兵を連れて行くのだ。コラナッカ男爵は兵を持たないと有名ではないか」
「エルジョルート様、コラナッカ男爵は兵を持ちませんが、弟のメロナッカ男爵が兵を出すのです」
「なに!? あの名誉騎士の称号を持つメロナッカ男爵がか?」
「はい。メロナッカ男爵家の兵の数はそれほど多くないのですが、兵の質は高いのです。だから辺境伯様も警戒されているのでしょう」
「なるほど、そういう事だったのか。しかし、それにしても今夜は眠気がひどい。これから戦いになるかもしれないというのに……」
「同感です。実は私も先程から眠気に耐えるので精一杯で……」
するとその時、兵の一人が眠りに落ちて落馬した。
ドサッ!
それを皮切りに次々と兵は眠りに落ちて落馬し、馬たちも足を止めて眠り始めてしまった。
結局、辺境伯の兵士たちは全員眠りに落ち、後列にいた老兵たちも次々と馬から飛び降りるように地面に落ちて、その場で眠ってしまった。
そして先頭を走る辺境伯の馬車も止まり、辺りは静けさに包まれた。
すると、何処からともなく黒装束に身を包んだ者が2人現れた。
「やっぱり男爵様の睡眠薬は効くなぁ~」
「だな。さて辺境伯を人質に取ろうぜ」
黒装束の2人は辺境伯の馬車に近づくと、なんと突然馬車の扉が開いてラジジが飛び出してきた。
「我が名はラジジ! お主らの命もらった!!」
「なっ!」
「うそだろ!」
2人は慌てて逃げようとすると、後列にいた老兵たちが一斉に起き上がって取り囲み、2人の退路を経った。
「や、やべぇ!」
「眠ったはずじゃ……」
2人の元へラジジがゆっくりとやって来ると、2人は驚きながら声をあげた。
「な、なんで眠らないんだ!」
「男爵様の睡眠薬が効かないなんて」
それを聞いたラジジは剣を抜いて答えた。
「お主らもガンデロ帝国との戦いを知らぬ世代なのだろうな。確かに私も眠い。が、戦場では寝れば死ぬ。これくらいの眠気で眠る甘ったれと一緒にしないでもらおう」
そしてラジジは2人のふくらはぎを素早くそして浅く刺した。
ドスッ ドスッ
「ぎゃぁぁあっ!」
「うわぁぁああ!」
ラジジは剣をしまうと2人に言った。
「ギャーギャー騒ぐでない。刺したのは浅い筋肉だけだ。致命傷にはならぬが、傷が治るまでは痛みで逃げられぬ。お主らには人質になってもらうぞ」
こうしてラジジと老兵は2人を縛り上げると、眠っているエルジョルートたちと、馬車で眠っているヤクウィー辺境伯を見て老兵たちに指示を出した。
「本日は安全確保のためここで一泊する。落馬した若い兵士たちが体を傷めないよう、仰向けにしてやれ。男爵領への到着は、辺境伯様が起床されてからご指示を頂く」
「「「はっ!!」」」
老兵たちは若い兵士たちの元へと走った。
◆
その頃、メロナッカ男爵の計らいでディナーを楽しんだインメリアとラゴは、男爵が用意してくれた宿屋に到着していた。
そして、2人はスイート・ルームに案内されると、案内役の女性が嬉しそうに2人に言った。
「こちらはラブラブ・スウィ~トでございます。極上なベッドと極上なお風呂がございますので、どうぞご堪能くださいませ~!」
案内役はそう言うと、足早に去っていった。
インメリアとラゴは部屋に入ると、ピンクの大きなベッドが1つだけしかない豪華な部屋だった。
そして、部屋の奥には壁で仕切られていない風呂にお湯が張られ、バラの花びらが散らしてあった。
「お、おい! こ、ここ、この風呂はなんなんだ!」
「あわわわわわわ!」
インメリアとラゴが慌てていると、突然部屋の外で打ち上げ花火が上がった。
ドォン! ドドォン! ドォン!
2人はその美しさに我に返ると、花火を見ようと一緒にバルコニーに出た。
するとバルコニーにはメモが置いてあり、そこには柔らかな文字でメッセージが書いてあった。
(最高の夜に、最高の花火をプレゼントするわ。メロナッカ)
「ええっ!」
「メロナッカ男爵からの花火ですか!?」
インメリアとラゴは驚いたが、お互いに顔を見合わせると笑い合って言った。
「なんだか私は男爵に好かれたみたいだな」
「ははは、そのようですねインメリアさん。少し驚きましたが」
ラゴはそう言ってインメリアのすぐ横に立つと、インメリアと一緒に美しい花火をゆっくりと楽しんだ。




