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インメリアはメロナッカ男爵の熱烈な誘いに驚いたが、丁寧に会釈をして断った。
「すまない。私には主人がいるのだ。だが大会の邪魔はしない。あいつの怪我が治り次第、領内を偵……、いやその観光して帰るつもりだ」
それを聞いたメロナッカ男爵は残念そうにしながらインメリアに言った。
「そう……。それは残念だわ。でも、あなたほどの剣士の主人って、どちらの貴族の方かしら」
「いや、貴族ではない。とある村人だ」
「村!? 人!?」
「ああ、そうだ」
「まさかあなた、その村人に何か弱みでも握られているのかしら!? それなら、わたしが全力で助けるわ!」
「いや自分から申し出たのだ。主人は氷の魔道士で、ご友人にも凄い方が何人もおられてな。無詠唱の火の魔道士や、あっと言う間に大金を稼ぐ商人、そして異国の格闘家に拳闘士……」
「なっ……」
「それに、私の剣を軽々と弾き返し、あの魔王様まで殺しかけた魔道士もいる」
「まっ! 魔王までもっ!? まさか……、村の人たちは、その魔道士たちに奴隷にされているのでは?」
「いやいや、みなさん村の人たちと一緒に働いたり、洗濯したり、子どもたちと遊んだり、とっても仲良くやっているんだ。ああ、そういえば勉強を教えてくれたり、一緒に体操したりも……」
それを聞いたメロナッカ男爵はありえない村の状況に興味が湧き、インメリアに申し出た。
「あの子が回復したら、私が直々《じきじき》に領内を案内するわ。その代わり、私をその村に連れて行ってくれないかしら?」
それを聞いたインメリアは少しだけ困った表情を見せると、メロナッカ男爵は素早く察して言い直した。
「あらやだ、私としたことが。うふふ。じゃあ、こうしようかしら。お2人のために色々手配しておくから、お2人で領内の観光を楽しんできて」
それを聞いたインメリアは思わず笑顔になって答えた。
「あ、ああ! すまない」
「あとこれ。回復薬よ。あの子に使ってね」
メロナッカ男爵は回復薬を2つ差し出すとインメリアは受け取りながらお礼を言った。
「メロナッカ男爵、何から何まで助かる。ありがとう」
「いいのよ。お2人で観光を楽しんだら男爵邸まで来てね。待ってるわよ」
「ああ」
インメリアは満面の笑顔で答えた。
―― 翌日 ――
インメリアは回復薬で回復したラゴと一緒にメロナッカ男爵の領内を観光していた。
用意されていた高級な馬車に乗り、街の朝市で屋台飯を楽しみ、剣術ショーを見て歓声をあげ、そして湖の上に浮かぶ高級レストランの個室で昼食を楽しんだ。
そして男爵領で一番大きな街では従者が付き、インメリアにドレスを、そしてラゴには仕立ての良いスーツを選んだ。
そして2人はドレスとスーツを着て夕方までショッピングを楽しむと、馬車で街一番の高級レストランに招待された。
2人はレストラン中央のVIP席へと通されると、楽しそうにしているラゴとは対象的にインメリアは緊張した面持ちで、小声でラゴに言った。
「お、おいラゴ。ランチは個室だったから良かったけど、こんな高級なレストランのど真ん中でみんなに見られてるじゃないか。私、テーブルマナーなんか知らないぞ」
「大丈夫ですインメリアさん。ご心配なく」
パン
ラゴはそう言うと軽く手を叩いて給仕係を呼んだ。
そしてやって来た給仕係に小声で言った。
「本日は私が彼女を最高に饗したい。料理はすべて一度私に届けてくれ。私が彼女のために切り分けてお渡しする」
「はい」
給仕係は返事をすると、給仕係はインメリアの前にあったフォークを残して、他のナイフ類を下げていった。
それを見たインメリアは驚いてラゴに尋ねた。
「これは……?」
「ディナーは全て私が仕切りますので、マナーは気にせず食べてください」
ラゴはそう言うと、インメリアは少し照れながら答えた。
「ありがとうラゴ。やさしいな」
「いえ。インメリアさんのためなら、これくらい」
ラゴは柔和に笑った。
◆
その頃、大熊笹と茂雄は早くもべべの村まで戻ってきていた。
そして、大熊笹は仕事を終えた哲夫に回復薬の事を報告していた。
「というわけで、マツリ子爵領の商人がゲンゲゲロ侯爵に不正に回復薬を横流ししているようでして……」
「そうでしたか……。やはり予想通りの事が起きてしまいましたね。ですが大丈夫です。そのためにも商会を作ったのですから」
「ほう。哲夫さん、何か策があるようですね」
「はい。我がヨクヨ商会から商品を仕入れる商人には身分を証明した会員証が必要なのです。マツリ子爵領からの商人は1人しか居ませんので犯人と見て良いでしょう」
「おお、なるほど」
「その商人はいつもゲンゲゲロ公爵領からの商人と一緒に来ます。何かありそうですね……」
哲夫がそう言ったその時、家の扉が開いてアカネと魔王エヴが帰ってきた。
「ただいまー!」
「もどりました」
すると哲夫たちは笑顔で迎えた。
「おかえりなさい」
「おお、戻ったのですね」
「おかえりなさい」
「おかえり、お2人とも」
しかし哲夫は予想より早く戻ったアカネに尋ねた。
「アカネさん、思ったより早かったですね。コラナッカ男爵の領地はいかがでしたか?」
「いや、ちょっとトラブってさ。あの、ええと、ウィルスのさぁ」
アカネがうまく説明できずに困っていると魔王エヴが代わりに説明した。
「コラナッカ男爵は直々にウィルスを研究させ、その過程の実験で伯爵領の熊にウィルスを感染させたのです。結果、熊は自制心を失って凶暴化し、伯爵領の街を襲ったのです」
「なんと……」
「我々はそのウィルスを拡散させた研究者を偶然捕まえ、先ほどヤクウィー辺境伯に手渡してました」
「そうでしたか。まさかこの世界でウィルス兵器が出来ていたなんて」
「人間の領地はこれまで何度か流行り病が蔓延しています。もしそのウィルスを研究されて意図的に感染させられるとなれば、剣や魔法を凌ぐ戦力になるでしょう」
「確かにそうですな。しかし、その研究者を捕まえることが出来たのは幸いです。少なくとも研究のスピードを遅らせる事ができ、辺境伯の交渉材料に……」
すると、それを聞いていたアカネが哲夫に言った。
「辺境伯さん、もう兵を出したよ。コラナッカ男爵領に」
「「ええっ!?」」
哲夫たちは思わず声をあげて驚いた。




