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その頃、隣接するメロナッカ男爵領を偵察していたインメリアとラゴは、成り行きでそれぞれ剣術大会、槍術大会に参加し、どちらも決勝戦に進出していた。
大会は同じ会場で交互に行われていて、インメリアとラゴは同じ控え室にいた。
決勝戦に緊張しているラゴはインメリアに言った。
「イ、インメリアさん。緊張してきました!」
しかしインメリアは表情も変えずに答えた。
「今まで順調だったんだから大丈夫だよ。お前も思ったより戦えているし、問題ない」
ラゴはインメリアの言葉に落ち着かされると、自ら気合を入れて息巻いた。
「よし! 優勝してインメリアさんに褒めてもらうぞ! よし!」
インメリアはそれを聞いて思わず「私はお前の母親じゃないぞ」と言いそうになったが、真っ直ぐな目で自分の事を見るラゴに励ましの言葉をかけた。
「そうだな、勝ったら褒めてやる。そうだ、なんなら夕食も奢ってやろうか」
それを聞いたラゴは顔を赤くして答えた。
「そ、それってデートですか?」
しかしそれを聞いたインメリアは驚いて思わずラゴに言った。
「あっ! あほか! 私が奢るのにデートって、どういう事だ! デートならお前が奢るべきだろうが!」
「じゃあ、私が奢ります!! 勝ったらデートしてくれますか!?」
ラゴはこの時、強くて色々と気にかけてくれるインメリアに恋心を抱きつつあった。
しかしその時、試合開始の声が鳴り響いた。
「これより槍術大会の決勝を行います! ンヤヤ選手、ラゴ選手、闘技場へ!」
その声を聞いたラゴは真剣な表情になると、少しだけ笑って闘技場のほうへ歩き出した。
インメリアはラゴの後ろ姿を見ると、少し恥ずかしそうにラゴに言った。
「お……、おまえの奢りなら! ……デ、デートしてやってもいいぞ……」
それを聞いたラゴは一瞬立ち止まると、突然大声をあげた。
「おっ! おねがいします!!!」
そしてラゴは全速力で闘技場へ走っていった。
―― 1時間後 ――
ラゴは顔をボコボコに腫らしながら裏の通路に横たわっていた。
そしてその横には剣術大会の優勝賞金を片手でポンポンと弄びながら笑っているインメリアがいた。
ラゴは鼻血を出しながらインメリアに言った。
「く……、くやしいです」
するとインメリアはラゴの頭を優しく小突きながら言った。
「悪いけど、回復薬は持ってきてないぞ。それにしても、お前は突っ込みすぎなんだよ。だから膝蹴り食らって盾で殴られるんだ」
「返す言葉もありません……」
「まぁでも、突っ込んで行く後ろ姿は格好良かったよ。けど、か弱い私をデートに誘いたいんだったら、もっと強くなってくれないとさ」
「か弱いって……。インメリアさん剣術大会なのに決勝の相手が剣を抜いた瞬間、蹴り飛ばして失神させちゃったじゃないですか」
「あれ、そうだったっけ?」
インメリアがそう言うとラゴは痛む体を無理やり起こしてインメリアに言った。
「私はいつか強くなって、インメリアさんをデートに誘います! 絶対に諦めません!」
それを聞いたインメリアは顔を赤くして答えた。
「なっ、急に何言ってるんだよ。だいたい、私みたいな剣を振る事しか能がない女なんかデートに誘ったってさ……」
するとラゴは鼻血を出しながらインメリアに言った。
「私は剣を振るインメリアさんが美しくて大好きです! だから! だから……」
必死のラゴを見たインメリアは布でラゴの鼻血を拭いながら笑った。
「……わかったから、鼻血を止めろって」
そしてインメリアはラゴの頭の後ろを優しく抱えて横にすると、笑顔を見せながらラゴに言った。
「まぁさ、今日はお前も頑張ったからさ。傷が治ったら私の奢りでデートしてやってもいいぞ」
しかしそれを聞いたラゴは突然ピーンと立ち上がり、色々な所から出血しながらインメリアに言った。
「あ、あああ! ありがとうございます! よろしくおねがいします! 私はインメリアさんとデートがしたいです!!」
インメリアは出血しているラゴを見て慌てて言った。
「おいおい落ち着け、いろいろ血が出てるぞ! ってか、なんで目から血がでてるんだよ! 耳からも! 横になれって!」
「……」
ラゴは血まみれになりながら気を失った。
◆
「……うう」
ラゴが薄っすらと目を覚ますと、なんとインメリアが誰かと戦っていた。
それを見たラゴは体を起こそうとしたが貧血で体を動かすことが出来なかった。
インメリアは対峙する敵の剣を冷静に受け流しながら、少し迷いのある剣筋に違和感を覚えて敵に言った。
「お主、奇襲をかけながら、なぜ迷いがある!?」
すると敵の剣士は剣を止めて大きく後ろへ下がった。
そして身を隠していたローブを脱ぎ捨てると、大柄で引き締まった男性の身体と、美しくメイクされた顔が顕になった。
それを見たインメリアは剣を構え直しながら敵に言った。
「おまえ、女の子だったのか」
しかし、インメリアの素直で真っ直ぐな目を見た敵は、思わず目に涙を浮かべながらインメリアに答えた。
「この姿を見て女の子って言ってくれるのね……。私は身体は男、でも心は女。あなたは後ろの男の子を守りながら戦っている。同じ女として、そこは応援したいの」
それを聞いたインメリアは剣を下げると、敵もそれを見て剣を下げた。
インメリアはその様子を見ると表情を緩ませて敵に尋ねた。
「何か事情がありそうだな。良かったら話してくれないか?」
すると敵の剣士は剣を納めて話し始めた。
「私は、この領地を収めるメロナッカ男爵。名誉騎士の称号を授かっております」
それを聞いたインメリアも剣を納めて答えた。
「男爵殿だったのか」
「はい。私の兄コラナッカも男爵として隣の土地に領地を与えられているの。だけど何かの研究に没頭するあまり軍事費を使い込んで兵力がないの」
「兵力が無いだと?」
「はい。だから私が兄の領地の兵力も賄っていてね、あなたみたいに出来る子が現れると戦うの」
「ほう、なるほど。出来る者は潰すと?」
「え? あら、やだ! そう聞こえちゃったかしら? ちがうの。出来すぎた子は直接戦って圧倒するのよ。それで私の兵士になってもらって沢山お給料をあげてウチで兵士として働いてもらうの」
「え? そういう事?」
「ええ、そうよ。そのための剣術と槍術の大会なんだから。それに大会は王侯貴族の賭博場でね、あなたみたいに強すぎる子は引退してもらわないと……」
「なるほど、賭博にならないって事が」
「ええ、そうなのよ。ところであなた、ウチに来ない? あなたなら将軍になってもらっても構わないわ」
メロナッカ男爵はキラキラした眼差しでインメリアを誘った。




