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「変な格好しやがって。お前のタイミングで、いつでもかかってきな。って、ビビッてできるわけねぇか」
勝者はそう言って手を出して手招きすると、一瞬でその手は大熊笹の腕に巻き込まれた。
「えっ?」
ババッ!
勝者は今起きている事が理解できずにいると、次の瞬間にはその体は宙に浮いていた。
「えええっ!!」
勝者が驚いた瞬間、
バンッ!!
勝者は地面に叩きつけられ、受け身を取れなかった勝者を激痛が襲った。
「い、いてぇ!!」
しかし大熊笹は、ゆっくりと腕を固めながら勝者に言った。
「大丈夫です。骨や頭は守りながら投げました。しばらく筋肉が痛むだけです」
大熊笹はそう言って勝者の腕を反らすと、勝者は思わず声をあげた。
「痛ててててて! わ、わかった! おれの負けだ! おれの負けだ!」
カーン、カーン!
その声を合図にゴングが鳴ると、会場から割れんばかりの歓声と拍手が巻き起こった。
◆
大熊笹は賞金を受け取って茂雄と一緒に会場を出ると、突然大勢の人たちに囲まれた。
そしてその中の1人が前に出ると、大熊笹と茂雄に話し始めた。
「私はマツリ子爵・格闘兵団の第2位格、ナグリという。先程の試合を見ていました。貴殿の強さ、尋常ではない。まさかスパイではあるまいな」
それを聞いた大熊笹は丁寧にお辞儀をして答えた。
「いえいえ、スパイだなんて」
「では、この街の人間か?」
「いえ、事情を説明するとややこしいのですが……」
しかし大熊笹がそう答えた瞬間、ナグリは突然大熊笹に襲いかかった。
ナグリは大きく足を開いて抉るようにボディーブローを仕掛ると、なんと大熊笹は自分から後ろへ飛び、ボディーブローの勢いを殺して受け身を取った。
そして立ち上がると、少しだけ真剣な眼差しでナグリに言った。
「これは、ご挨拶ですな」
するとナグリは笑いながら答えた。
「はっはっは! さすがに優勝者を倒したお主も私の拳には防御するしかなかったか」
しかしそれを聞いた茂雄はナグリに言った。
「いえ、ナグリ様。彼は意図的に拳の勢いを殺したのです。その証拠に手応えが無かったのでは?」
ナグリは茂雄の言葉を聞くと、怒りを顕にして茂雄に言った。
「お主に何が分かる、老人。あまり調子に乗るなよ。今ここで殴り殺してやっても良いのだぞ」
茂雄はその時、大熊笹に殴りかかったナグリを快くは思っていなかった。
しかし茂雄は、ふぅと息を吐いて心を落ち着けると、ナグリに言った。
「では、ぼくと殴り合いましょうか」
茂雄はそう言うとオーラを滾らせながらファイティングポーズをとった。
それを見たナグリは不敵な笑みを浮かべながら茂雄に言った。
「ほほう、素人ではないようだな。だが老いぼれのお前に何ができる? 死にたいのだな。いいだろう」
ナグリはそう言うと笑いながら茂雄に殴りかかった。
「後悔するんだな!!」
バチン!!
「ぐふっ!!」
しかし顔を歪ませていたのはナグリのほうだった。
ナグリは茂雄の伝家の宝刀、右フックをまともに食らって、顔を歪ませていた。
その様子を見ていた格闘兵団が驚いていると、茂雄はそのまま体を捻り込んで、ナグリのレバー(急所のひとつ)にボディーブローをねじ込んだ。
ドバン!!!
「うぐぇっ!!!」
茂雄はさらにナグリの顔面に右ストレートを放とうとしたが、すでにナグリが白目を剥いているのを見て、咄嗟に倒れるナグリを支えた。
バッ
そして茂雄はゆっくりとナグリを地面に下ろすと、大熊笹がやってきて茂雄に言った。
「いやぁ、さすが茂雄さん。鮮やかなパンチでしたな」
「あ、いえ、ははは」
するとその時、2人は誰かの殺気を感じて少し下がった。
「茂雄さん、どうやら真打ち登場というところでしょうな」
「ええ。格が違うようですね」
するとなんと、1人の老兵がやってきて大熊笹と茂雄の近くで足を止めた。
そしてその老兵は大熊笹と茂雄を見ると、殺気を消して話しかけてきた。
「お主ら、相当強いな。私と手合わせ願えないか」
すると大熊笹が前に出て老兵に言った。
「では、わたしがお相手致しましょうか」
老兵は大熊笹の構えを見ると、少し嬉しそうに言った。
「初めて見る構えだが隙はない。面白い。だがお主の構えは組み手主体の格闘術だな。ならば、これならどうだ!」
老兵はそう言うと低い姿勢から飛び出して大熊笹の足を狙った。
それを横で見ていた茂雄は思わず呟いた。
「大熊笹さんの構えを見て足を封じに行くとは、只者ではない……」
しかし大熊笹は素早く老兵の突っ込んでくる腕を掴み取ると、そのまま巴投げに持ち込んだ。
「はいっ!」
「しまった!」
大熊笹の巴投げで宙に浮かされた老兵は逃れようとしたが、大熊笹は巴投げの遠心力を使って回転し、そのまま老兵の上に乗って腕を押さえつけた。
しかし大熊笹はすぐに腕を解いて立ち上がると、改めて老兵に尋ねた。
「先程から目的が分かりません。あなたたちの目的は何でしょうか」
すると老兵も立ち上がって答えた。
「お主らのその強さ、ゲンゲゲロ侯爵のスパイなのではないのか?」
「ゲロゲーロ?」
大熊笹の答えを聞いた老兵は少し表情を緩ませると、大熊笹に経緯を説明した。
「これは本当にすまなかった。お主らはゲンゲゲロ侯爵の者ではなさそうであるな。……こちらの早とちりであった。心よりお詫びする」
老兵はそう言って大熊笹に頭を下げると大熊笹は老兵に尋ねた。
「何か理由があるようですね」
こうして老兵はゲンゲゲロ侯爵とマツリ子爵の関係を説明することになった。
ゲンゲゲロ侯爵は貴族連合の主要な立場だが、ライズ、ラゴ兄弟が居たラド公爵家と手を結んで、貴族連合が得られる利益を独占している事を話した。
そして、マツリ子爵の主な兵力は格闘兵団であり戦闘となれば回復薬が必要だった。
しかし、ゲンゲゲロ侯爵はベベの村から回復薬を持ってくるマツリ子爵領の商人を不正に買収し、マツリ子爵領に分ける分の回復薬を独占するようになっている事を説明した。
そして裏ではゲンゲゲロ侯爵が密かにガンデロ帝国と繋がっており、ガンデロ帝国からのスパイを王国領内に送り込んでいることも説明した。
そこまで聞いた大熊笹は持たされていた回復薬を10個、アイテム欄から出現させて老兵に差し出した。
そして茂雄も同じく10個出現させて差し出した。
回復薬を見た老兵は驚きながら大熊笹に尋ねた。
「こ、これは回復薬……。どうして!?」
「わたしたち2人はベベの村から来たのです。少ないですが、この回復薬は皆さんでお使いください。そして、この状況は哲夫さんに……、ええと回復薬を管理する者に伝えておきます」
それを聞いた老兵は大熊笹と茂雄にひれ伏し、周りを取り囲んでいた格闘兵たちも慌ててひれ伏した。




