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クラクモはデウ子爵を見ながら今までの経緯をおじいさんたちに説明し始めた。
「私は魔王城から逃げてヤクウィー辺境伯領に入ったのですが、痩せた土地ばかりで食べ物が無く、森を求めて彷徨っていたらデウ子爵の領地に入ったのです」
クラクモは天井に糸を伸ばすと、その糸にぶら下がってゆっくりと降りてきて話を続けた。
「そうしたらデウ子爵と、そこの娘のナララハが森に山菜を取りに来ていて、あまりの空腹に『食べ物をよこせ』と脅したら、デウ子爵が笑顔で食べ物をくれるっていうから、この家に来て……」
すると突然、ナララハがクラクモに言った。
「なのに、お父さんを糸で捕まえたの! それで食べ物をもってこいって!」
それを聞いたクラクモは慌てながら釈明した。
「だ、だから何度も言ったじゃない! お父さんは目に黄疸が出ていて、糸で包んで診断してみたら肝機能が低下してるから治療するって! そりゃ、ちょっと調子に乗って食べ物欲張ったけど……」
しかしナララハはクラクモの「診断」の意味が分かっていなかったため、クラクモに涙ながらに言った。
「だって、お父様を捕まえておいて、家のみんなに内緒にして食べ物を持ってきてって言ったじゃない」
「いや、だから、治療してるけど、さっきの状況見たら私がデウ子爵を食べようとしてるみたいに見えるから……」
その時、デウ子爵はすべて理解してナララハの頭を撫でながらナララハに言った。
「ありがとうナララハ。お父さんを信じて話を聞いてくれるかい?」
「う、うん」
「あのクモさんは、お父さんの病気を治してくれていたんだよ」
「……え?」
デウ子爵はクラクモに会釈をして言った。
「病気の治療、感謝致します。しかし、私も眠るようにしていましたが意識がありました。あなたは『はぁ、やっと治ったわ』と呟いてから、何日も食事を召し上がって……」
クラクモはその言葉に顔を硬直させたが、デウ子爵は柔和な笑顔を見せてクラクモに言った。
「きっと、あなたは私の治療で力を使ってしまい、体力を回復していたのですね。感謝いたします」
その言葉にクラクモは目を泳がせた。
するとデウ子爵はナララハを抱き上げてナララハに尋ねた。
「こちらのお方は?」
「賢者様だよ!!」
「ええっ!?」
「ええっ!?」
デウ子爵とおじいさんは同時に驚いた。
しかしデウ子爵は突然両膝をつくと、語り継がれる「賢者の詩吟」の一節を思い出して呟き始めた。
「……その者、緑の衣をまといて荒野の地に降り立つべし。失われし平和との絆を結び、ついに人々を緑の豊かな地へ導かん」
デウ子爵はまるで聞いたことのあるような一説を漏らすと、思わずおじいさんに尋ねた。
「ご老人、ご出身は!?」
「あ、ええと、ヤクウィー辺境伯様の領地に……」
「ヤクウィー辺境伯の……、あそこは痩せた土地が多い……。それはまさに荒野! ……その者、緑の衣をまといて荒野の地に降り立つべし。やはり!!」
するとデウ子爵は突然おじいさんにひれ伏して嘆願した。
「賢者様! このデウ子爵の領地においでくださったのは間違いなく神のお導き! どうか我らをお救いください!」
「あ、ええと、わたしはただの……」
おじいさんは慌ててひれ伏すデウ子爵に膝をついた。
◆
その頃、アカネと魔王エヴは、魔王エヴが持ってきていたタイヤの無い電動キックボードのような魔道具「LOOPY」に乗って、偵察先のコラナッカ男爵領に入っていた。
ヒュィィィイイン……
アカネはLOOPYを運転しながら、魔王エヴに言った。
「さっきの関所の人、このLOOPYめっちゃ怪しんでたね。ってか、浮いて走ってるし怪しさしかないけど」
「うむ。だが空を高く飛ぶほど浮くわけでもないし、魔族の世界では結構メジャーな乗り物だったんだがな。魔王領が貧乏になる前はシェアリング・サービスもあったし」
「へぇぇ。でも確かに地元にもあったなぁ、こんなの。けど、辺境伯さんの通行証で一発だったね。やっぱ辺境伯さんって凄いんだなぁ」
「そうだな。辺境伯はアカネたちが来てからだいぶ変わった。昔は荒れた土地と隣接する我が魔王領の脅威を押し付けられただけの底辺貴族だったが、今は違うな」
「へぇ、そうだったんだ」
「うむ。あの通行証も先に子爵、男爵領に根回ししていたようだ。そしてさっき立ち寄った街の……」
「うん! コレ・マイウでしょ!? まじ美味かったよな!」
「あ、ああ。うむ。美味かったな。……ええと、いや、そうではなくて、死熊の群れを覚えているか?」
「え? あ、居たね、そういえば」
「まぁ、兵士は劣勢だったが、あのようなトラブルがあっても兵をすぐに派遣できるほど財力も増やしてるようだ」
「へぇぇ。エヴっちは何でも分かっちゃうんだな。あたし、そういうの苦手だからホント尊敬するよ」
「そ、尊敬……? いや、私は……」
魔王エヴが少し照れると、アカネは思い出したように魔王エヴに尋ねた。
「そういえばさぁ、さっきの街のヤバい熊って結構いるの?」
「いや、あれは異常だな。死熊はウィルスに感染すると熊から死熊になる。しかし熊は通常群れでは生活しない生き物。あの数がウィルスに感染したのは普通ではない」
「そっか、確かに。鹿の群れってよく聞くけど、熊の群れって聞かないもんね」
すると突然、魔王エヴは表情を暗くしながら呟き始めた。
「そうなんだ。だが、こういう異常な事が起きると大抵『魔王が』と言われて濡れ衣を着させられるんだ。だいたい魔王疑惑の99%は私に関係のない所で……」
魔王エヴが禍々しいオーラを発し始めると、アカネはLOOPYを加速させて、口笛を拭きながら先に行った。




