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おじいさんは女の子の近くまでやって来ると、笑顔で女の子に話しかけた。
「お嬢さん、あの岩に石を当てれば願いが叶うのですね」
すると女の子はほっぺたを膨らませながら答えた。
「その通りよ! 今は、わたしがやってるんだから待ちなさい!」
それを聞いたおじいさんは少しだけ考えて女の子に言った。
「では、わたしの願いが『お嬢さんの願いが叶いますように』だったら、わたしが石を岩に当たれば、お嬢さんの願いが叶うことになりますね」
おじいさんの言葉を聞いた女の子は、顔をパァァっと明るくすると持っていた石をおじいさんに手渡しながら言った。
「爺よ、そう言うからには相当な自信があるのだな! ならば頼んだぞ!」
女の子は嬉しそうに石をおじいさんに手渡すと、おじいさんは笑顔で答えた。
「はい。では投げてみますね。お嬢さんの願いが叶いますように」
おじいさんはそう言って軽く石を投げると、石はそのまま一直線に岩へ飛んでいった。
カンッ!
そして石は見事に池の岩に当たると、女の子は大喜びして飛び上がり、嬉しそうにおじいさんに抱きついた。
「爺よ! お主は凄いぞ! 褒美をつかわす! 何が良いか? お金か? それとも宝物か?」
しかし、おじいさんは照れ笑いをしながら答えた。
「ははは。褒美なんて大層なものは頂けません。お嬢さんのお願いが叶えばそれで良いですから」
すると女の子は慌てておじいさんに聞き返した。
「そんな……。褒美が欲しくない者など……」
するとその時、女の子の従者が女の子を制止するように言った。
「お嬢様。あの老人の着ている上等で奇抜なお召し物……、そして褒美を欲さない高潔なお人柄……、あの方は賢者様なのではないでしょうか。ここは大聖堂ですし……」
「えっ、そうなの!? 賢者は、この世界を変えるくらいの力を持ってるって……」
「はい。賢者様は絶大な力を持つと聞きますが、その反面、高潔で無欲だとお聞きします。もし、あの老人が賢者だとすれば褒美は逆に失礼になり、お嬢様の心からのお礼が最上かと心遣いかと……」
それを聞いた女の子は顔を硬直させた。
そして心を入れ替えて姿勢を正すと、緊張した面持ちのまま両手でスカートの裾を持って頭を下げ、おじいさんにお礼をした。
「この度のご助力、心より感謝いたします。ありがとうございました」
すると女の子が精一杯お礼をしている姿を見たおじいさんは、感心しきって目に涙を浮かべると、女の子に頭を下げながら答えた。
「いえいえ、お礼をして頂けるような事は何一つしていません。それよりも、お嬢さんはそれほどまでにお願いを叶えたかったのですね」
女の子は頭を下げたままおじいさんに言った。
「はい……。私の……。うっ……。わたしのお父様が……。う、ううっ、うぇーーん!」
女の子は突然泣き出した。
―― しばらく後 ――
おじいさんとおばあさん、そしてメメは、デウ子爵の邸宅に居た。
なんと女の子はデウ子爵の三女、ナララハだった。
ナララハはおじいさんを賢者だと思い込み、おじいさんの手を強く引いてデウ子爵の寝室へ連れて行ったのだった。
おじいさんもナララハの真剣な表情を見て、おばあさんとメメと一緒にデウ子爵の寝室へとやってきてしまった。
そして、おじいさんたちが寝室に入ると、驚くべき光景が目に入った。
デウ子爵は眠りながら巨大な蜘蛛の巣に囚われ、天井近くには上半身は人のような姿で下半身が蜘蛛の女性の魔族がいた。
その蜘蛛の魔族はおじいさんたちを見ると不敵な笑みを浮かべて挨拶をした。
「もう食事の時間かしら? って、あら。あなたたち、見ない顔ね。私はかつて魔王領で上級魔族だったクモラモ。ナララハ、他の人間は誰も入れるなって言ったでしょう?」
するとクモラモの話を聞いたおばあさんが、クモラモに言った。
「あら。魔王さんが言っていたけれど、上級魔族がお金を使い込んで魔王領が貧しくなったんでしょう? あなたはお金を使い込んだのかしら」
クモラモはおばあさんの言葉を聞くと、顔面蒼白になって動きが止まった。
すると追い打ちをかけるようにメメが弓を構えながらクモラモに言った。
「あなたの弱点は額の魔石。動いたら射抜きます。逃がしません」
メメの言葉を聞いたクモラモは硬直しながら冷や汗を流すと、突然取り乱したように声をあげた。
「ま、待って! デウ子爵は離すから! ね、ね! だから殺さないで!」
クモラモはそう言うと、巨大な蜘蛛の巣を引き裂いてデウ子爵をベッドの上に落とした。
それを見たナララハは走ってデウ子爵に抱きつくと、クモラモは小さくなって天井の角に縮こまった。
その様子を見たおばあさんはクモラモに尋ねた。
「あなた、お金を使い込んだのは本当なのかしら?」
「……い、いえ、厳密には違うのですが……。ご、ごご、ごめんなさい」
「でも、あのガン……なんとか帝国がそそのかしたのでしょう?」
「は、はは、はい……。ガンデロ帝国の魔道士が手引していました……」
「まぁ……。これは一度エヴさんにお話したほうが良いかしら」
それを聞いたクモラモは取り乱したように言った。
「おっ、おまっ! おまちください!! わ、わわわ、わたしは1000プナほどしか!! 本当です! 返せと言うなら……、いや、ええと、お返しさせてください!」
その様子を見たおばあさんは不審に思ってクラクモに尋ねた。
「1000プナじゃ魔王さんの所も貧しくはならないわよね。じゃあ、もっと持っていった魔族が居たって事かしら」
「は、はは、はい! ひどい者は1億プナほど……。わたしは怖くて手を出せなかったのですが、上司に金庫から1000プナ持ってきてと言われて持っていったら……」
クモクラはそこまで言うと涙を流しながら話を続けた。
「そしたら上司は『お前は、もう共犯だ。バラされたくなかったらもっと金庫から金をもってこい』って言われたんです。でも怖くて出来なくて必死で魔王城から逃げいたらお腹が空いて……」
するとその時、デウ子爵が目を覚ました。
「ん? おお、ナララハか? どうしたのだ」
ナララハはその言葉に嬉しくなって父のデウ子爵を見つめると、やたら肌がツルツルで、髪までキラキラしている事に気づいた。
「お父様、肌ツルツル。それに髪もきれい」
その言葉を聞いたデウ子爵は自分の顔を触ってみると、今まで触ったことのないほどモチモチだった。
「なっ! 私の肌が!?」
すると、その様子を見ていたクラクモがデウ子爵に言った。
「それは私が栄養を送っていたので……」
デウ子爵はその言葉に天井を見上げると、クラクモの姿を見つけて全てを思い出した。




