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その頃、南の果の海岸では、おじいさんとおばあさん、そして魔族たちが半魚人のおもてなしを受けていた。
半魚人の父親は次々と魚を焼いて串に刺し、みんなに渡しながら魚の説明をしていった。
「これは身が赤くて見た目が悪いけど、この塩を振れば美味いんですよ! こちらは小さくて骨が多いけど、絶品ですぜ!」
おじいさんとおばあさんは久しぶりの焼き魚に嬉しそうにしていた。
「ああ、久しぶりだなぁ」
「そうね、とっても美味しそうだわ」
おじいさんは半魚人から渡された赤身の魚をまじまじと見ると、一口食べておばあさんに言った。
「おや? これは……。ブリ……、のような?」
それを聞いたおばあさんは、おじいさんが手に持った赤身の魚を横から一口食べてみた。
「……。ええ、うん。ブリに近いわね。でもブリよりも脂が甘くて美味しいわ」
そして、おばあさんは半魚人から渡された小さい魚を食べてみた。
「あ……。これは、そのまんまアジだわ。うふふ、美味しい」
おばあさんが笑うと、半魚人とその子どもたちも嬉しそうにした。
魔族の者たちも飛竜も、美味しい焼き魚を笑顔で頂いた。
―― ヤクウィー辺境伯邸 ――
その頃、ヤクウィー辺境伯の邸宅には和代と哲夫がやって来ていた。
ヤクウィー辺境伯は2人を応接室に通すと、少し緊張した面持ちで和代と哲夫の前に座った。
和代は辺境伯に笑顔で夫の哲夫を紹介した。
「ヤクウィー辺境伯様。こちらは私の夫、哲夫でございます。以後お見知りおきを」
すると辺境伯は立ち上がって丁寧に頭を下げながら哲夫に挨拶をした。
「これはこれは、哲夫様。ようこそお越しくださいました」
哲夫はそれを見て立ち上がると、深々と頭を下げて辺境伯に挨拶を返した。
「とんでもございません。どうぞ宜しくお願い致します」
すると哲夫はさっそく商売の話を切り出した。
「辺境伯様。本日は商売の話しをしに参りました。この商売は、この辺境伯領を潤し、ひいては王族や貴族連合の圧力を払拭できる力になるのではないかと」
それを聞いたヤクウィー辺境伯は和代の信頼もあり、乗り出すように言った。
「哲夫殿。本音で言わせていただくと、私は最近その事ばかりで頭を悩ませているのです……。ぜひ話をお聞かせ願いたい」
すると哲夫は一礼して辺境伯に話し始めた。
「ご寛大なご返答、大変感謝致します。まず、驚かないで聞いていただきたいのですが、私共の仲間には氷の魔道士だけでなく魔法を使う者、そして魔族の者たちがおります」
「なっ! 魔族ですと!?」
「はい。ですが魔族の者たちは我らに忠誠を誓い、危険はございません」
「そ、それは本当なのですか?」
「はい。しかしそれが今回の商売と関係しているのです」
「魔族と商売が……?」
「魔族には羽のあるものや空を飛ぶ飛竜がおります。その者たちに新鮮な海の魚を運ばせるのです」
「海の魚……? まさか、そなた……」
「はい。海から遠いヤクウィー辺境伯領の町で魚を売って、近隣貴族領の商人たちの度肝を抜くのです」
その話を聞いた辺境伯は驚いたものの、感心しきった様子で哲夫に言った。
「はっはっは! 和代殿といい哲夫殿といい、私が考えもしない事を次々とお考えになられる。しかし目立ってしまっては私が国王に目をつけられてしまいますぞ。はっはっは!」
辺境伯は冗談交じりに笑うと、哲夫は少し真剣な眼差して辺境伯に迫った。
「辺境伯様。ならば、あなたが国王になれば問題ありません」
「……うん?」
辺境伯は様々な感情が混ざり合って、微妙な声色で哲夫に聞き返した。
するとそれを聞いていた和代は柔らかな声で辺境伯に言った。
「辺境伯様、私の夫が突然大きな話をしてしまい申し訳ございません。国王の話はお忘れください。魚の話だけをお許しいただければ問題ございません。よろしいでしょうか」
「お、おお、そうでしたか。和代殿の申し出であれば構いませぬ。領内で好きに商売をなさってください。いやいやしかし、さすがに国王の話には驚きましたぞ。ははは」
「申し訳ございません。あとで厳しく夫に言っておきます。ですが辺境伯様。この領内の経済が潤えば国王も夢ではありません。その時は改めてお話をさせてくださいませ」
すると辺境伯は少し表情を緩ませながら答えた。
「う、うむ、承知した。しかし、まずはお二人のご活躍をお祈りするとしましょう。ははは」
辺境伯は話を微妙にはぐらかしたが、哲夫と和代は笑顔で雑談を始め、辺境伯の功績を称えながら、辺境伯から様々な情報を聞き出した。
◆
その頃、南の端の海岸ではおばあさんたちと魔族の者たちが絶品な焼き魚を食べながら幸せな気分を存分に味わっていた。
その中で、おじいさんだけは、おばあさんがアジだと言った魚を波打ち際で指で開きながら呟いていた。
「やはり、この魚は指で開けるほど身が柔らかいですね……。小さい頃にやらされていたのを思い出すなぁ。ははは」
おじいさんはそう言いながらアジと似た魚を手で開いていくと、半魚人の子どもたちが寄ってきて、おじいさんに尋ねた。
「ねえ、なにやってるの?」
「あはは、お魚はんぶんこ」
「ほんとだ、ぺったんこだ」
するとおじいさんは、開いた魚を何枚か海水に沈めて石で固定すると笑顔で答えた。
「後でこの魚を乾かすのだけど、そうすると美味しくなるんだよ。でも海水の塩分だと薄いかなぁ……」
「へぇぇ」
「お魚干からびちゃう」
「あはは、しわしわ!」
半魚人の子どもたちが笑うと、おじいさんも釣られて笑った。




