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その夜、哲夫は偵察を頼んでいたガーゴイルからの報告を受けて考えを巡らせていた。
「ふむ。ゴゴさんの言っていた食料がヤクウィー辺境伯領に入りましたか……。ベベの村まであと1日……、いや1日半というところか」
それを聞いていた和代は哲夫に尋ねた。
「哲夫さん。まさかその食料、素直に受け取るわけではないでしょうね」
「はっはっは、もちろんだ。貴族連合の代表の公爵からの食料だからな。もし我々が受け取れば、賄賂とも見なされる。そうなれば」
「ええ。貴族連合の貴族たちは公爵が代表の地位を利用して抜け駆けしたように見るでしょうね」
「ああ。貴族連合と言っても大勢の人々を抱える貴族同士の集まりだ。中ではタヌキ同士の化かし合いだろうからな」
「そうね。今回は公爵が息子を助けてもらったお礼として村に食料を送ろうとしているけれど、受け取ってしまっては貴族連合に亀裂が入るかもしれないし、王族のほうだって」
「そうだな。だが、この村は貴族連合の庇護の元にある。だから公爵の食料も無下にはできない。困ったものだな」
「それなら哲夫さん、その食料が盗賊に奪われたのなら問題ないんじゃないのかしら?」
「盗賊? ……ああ、そうか、それは良いな! ……そうだそうだ、商人から手に入れたガンデロ帝国特産の腰巻きが役に立ちそうだな」
―― 翌日の早朝 ――
村の人々は朝の体操を終えると、哲夫がインメリアのところへやって来て話し始めた。
「インメリアさん。お願いがあるのですが」
「はっ、哲夫様の申し出であれば何なりと」
「ええと、申し訳ないのですが仲間を連れて盗賊をやってもらいたいのです」
「……盗賊、ですか?」
「はい」
◆
その日の昼下がり、魔馬に乗ったインメリアを中心に、魔族の戦士たちとゴゴとメメは、食料を積んだ公爵家の馬車隊の前にいた。
インメリアの後ろに控えていたガーは、少し疑問に思っていた事をインメリアに尋ねた。
「インメリア様、なぜこのような明るい時間に盗賊をするのでしょうか。夜のほうが良さそうなものですが……」
「私もよく分からないが、このガンデロ帝国の腰巻きをチラチラと見せるのが目的らしい」
「ほう、ガンデロ帝国の……。なるほど、そういう事でしたか。さすがは哲夫様ですね」
黒い外套で正体を隠したインメリアたちは隊列を整えると公爵家の馬車隊と対峙した。
すると、どこからともなく単騎の騎士が戦馬を全速力で走らせながら突っ込んできた。
その騎士は大きな体格を活かした重装備で、太く長い槍を構えて突進してきた。
それを見た魔馬はインメリアに言った。
「ご主人。あの者はこちらの先頭にいるご主人と一騎打ちに持ち込み、揺動しようとしております。どうか誘いに乗らぬよう」
しかし目を大きく見開いてアドレナリンが極限まで達したインメリアは魔馬に言った。
「はっ! あの単騎の騎士は私に一騎打ちを仕掛けて来ているのだろう!? そんなもの返り討ちにしてやれば揺動などされぬ! そうだろう!?」
「ふっ」
ドドドッ!!
インメリアがそう言うと、魔馬は賛同するように飛び出し、一直線に敵の単騎の騎士へと向かっていった。
インメリアは加速してゆく魔馬にニヤリと笑うと、魔馬に声をあげた。
「あの単騎の騎士に正面から突っ込むぞ! ヤツの馬に力負けするなよ!!」
すると魔馬はそれに答えた。
「承知!!」
ドドドドドド!!!
その時、敵の単騎の騎士が名乗りを上げた。
「我こそは英雄ライズの息子ラゴ!! その栄誉にかけ盗賊など蹴散らしてくれる!!」
魔馬はその言葉を聞いた瞬間、その騎士が乗る戦馬が自分の息子だとすぐに悟った。
「ライズ様の息子……。ならばあの戦馬は我が息子……」
しかし魔馬は大きく嘶き、更に加速しながら目を尖らせた。
「ここで我が息子と相まみえるとは何たる幸運! この父の力、思い知るが良い!」
魔馬はそう言うと一直線に息子の戦馬をめがけて突進し、頭からぶつかり合った。
ドガン!!
ヒヒィィィイイン!
そして馬上ではインメリアが魔剣を抜いて敵の騎士に斬りかかった。
その様子を見ていたガーゴイルのガーは魔族の戦士たちに指示を出した。
「今だ! あの荷馬車を奪うのです!」
それを聞いた魔族の戦士たちが一斉に荷馬車に向かうと、なんと荷馬車から弓兵が降りてきた。
それを見たガーは冷静にメメに指示を出した。
「痺れ矢をお願いします!」
「はい」
メメは背中から弓を取り出すと、素早く痺れ矢をつがえて放った。
ヒュッ……
ドッ!!
「ぎゃぁ!!」
メメの痺れ矢は弓兵の腕を正確に射止め、弓兵は弓を引けなくなってしまった。
そしてメメは矢継ぎ早に痺れ矢を放ち、弓兵だけでなく荷馬車を引く御者まで麻痺させて動けなくした。
その一方、インメリアとライズの息子の戦いはインメリアが剣技で勝り、ライズの息子は防戦一方となっていた。
そして魔馬も息子の戦馬を散々叩きのめし、息子の戦馬は痛めつけられて弱腰になっていた。
その姿を見た魔馬は息子の馬に声をあげた。
「何をやっておる!! お主はあの英雄ライズ様の息子の命を預かっているのだぞ!! ここで主人と共に力尽きるのか!!」
その声を聞いた息子は鼻息を荒くして体勢を立て直し、魔馬に突進してきた。
ドガン!!
しかし魔馬はその突進をものともせず、勢いよく息子の突進を弾き返した。
ヒヒィッィイイン!!
そして、魔馬はそのまま突撃すると頭を低くして息子に突っ込み、そのまま首を跳ね上げて息子の首に叩きつけた。
バチン!!
その攻撃に怯んだ息子は思わず体勢を崩し、上に乗っていたライズの息子も体勢を崩した。
それを見た魔馬は息子の戦馬に叫んだ。
「主人を守れ!! 次の一撃でお前の主人は死ぬぞ!!」
その言葉と連動するようにインメリアは魔剣を真っ直ぐに突き出し、ライズの息子の首元を狙った。
しかしライズは体勢を崩していて何も出来ず、恐れ慄くことしかできなかった。
しかし次の瞬間、
ヒヒィィィイイイン!!!
魔馬の息子の戦馬は体を大きく反らせて前足を上げ、インメリアの剣を受けるかのごとく、主人の盾となった。
それを見たインメリアは即座に剣を止め、魔馬は満足そうに笑った。
「はっはっは! 悪くないぞ!」
その時、すでに食料を積んだ荷馬車は魔族の戦士たちの手で奪われていた。
それを確認したインメリアは剣をライズの息子に向けて言った。
「今のお前では力不足だ。お前の命を救ったその戦馬に感謝するんだな」
インメリアはそう言って背を向けると、残りの魔族に撤退の指示を出しながら去っていった。




