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その頃、岩場の遺跡にある魔族の集落では、メメが女性の魔族のハーピーたちと一緒に縫い物仕事をしていた。
ハーピーたちは、まだ緊張しているメメに明るく話しかけた。
「メメさん、あなたの髪とてもキレイね」
「それに肌もきれい」
しかし1人のハーピーが悪気なく耳の事が気になって尋ねてしまった。
「その耳って掟破りなのよね。もしかして、人間と駆け落ちしたとか? うふふ」
するとメメは表情を無くして答えた。
「いえ。私は仲良くなった人間の子が大怪我をして、救いたい一心でエルフの霊薬を勝手に持ち出しました。それで長の怒りを買い、耳を落とされ、捨てられました」
「え、あ……。ご、ごめんなさい。そんな事だなんて知らずに……」
「いえ、大丈夫です。一般的に片耳のエルフは人には言えないような悪事を働いた者たち。世間は私をそう見ます。もう慣れました」
メメの言葉を聞いたハーピーは申し訳無さそうにすると、メメの手をそっと握りながら言った。
「本当にごめんなさい。私、あなたと仲良くなりたくて……。でも何を話したら良いか分からなくて、思わず耳の事を言ってしまったの」
メメはハーピーの言葉を聞くと、我に返って少し驚いたように答えた。
「あ、いえ、こちらこそごめんなさい……。今まで私の耳の事を言う人は、みんな私を蔑んで見ていたから、思わず心を閉ざしてしまって……」
その言葉を聞いたハーピーは思い出したようにメメに言った。
「あ! ちょっと待ってね。あたし、あなたにプレゼントあげる!」
ハーピーはそう言うと、背中の羽根を広げた。
そして、ぎゅっと目を瞑って歯を食いしばると、右手で左の翼の羽を数本抜き取った。
バリバリッ!
「うっ!!」
ハーピーが痛みに顔を歪めると、その様子を見ていたメメはハーピーに心配そうに声をあげた。
「だ、大丈夫ですか!?」
しかしハーピーは笑顔でメメに答えた。
「うん、大丈夫だよ、これくらい」
そしてハーピーは抜いた羽根を丁寧に束ねると、手元にあった糸で固定した。
ハーピーは完成した羽の束を見て満足そうに頷くと、満面の笑顔でメメの失った耳のところへ髪飾りとして羽根の束を挿した。
「はい、プレゼント! うふふ、我ながらエルフさんの耳にそっくりの羽飾りができたわ」
すると他のハーピーが両手をかざして水の鏡を作り出し、メメの顔を見せた。
メメは自分の顔を水の鏡で見ると、ハーピーの美しい羽飾りがエルフの耳の形ようになっているのを見て驚いた。
メメは静かに涙を流すと、思わず言葉が漏れ出した。
「ありがとう……。ありがとうございます。こんなに優しくされて、私は良いのでしょうか」
「ううん。こちらこそ、ごめんなさい」
「もっと優しくしちゃうからね!」
「メメさん、仲良くしようね!」
ハーピーたちは優しくメメを抱きしめた。
◆
その頃、魔王エブはおじいさんの元で投球練習をしていた。
「ひ、ひろし様……。なぜでしょうか、私の球は全くと言って良いほど飛びません」
「ええと……、ははは。魔王さんは極度にお力が無いようですね……」
「力……、ですか? ふむ……、かつてはこの世界を手に入れんばかりの力を持っていたのですが……」
「あ、いえ、筋力という意味です」
「きん……、りょく……?」
「はい。例えばインメリアさんが剣を振るような力です」
「それはたしかに……。私は家宝の魔剣が重すぎて扱えず、インメリアにあげてしまったほどですので。その筋力というものは持ち合わせていないかもしれません」
「なるほど、そういう事でしたか」
「はい。本来、魔王は代々魔剣を受け継ぐのです。というのも、魔法の詠唱をしている時に攻撃されても魔剣で撃退できるからなのですが、どうにも私には重すぎて……」
「そうでしたか。では、トレーニングをしませんか?」
「トレー、ニング?」
「はい。わたしはこの世界でも若い頃の力を使えるのですが、魔王さんはそうでは無いようですので」
「はあ……」
―― 夕方 ――
ベベの村に回復薬を買い付けに来た商人たちは去ってゆき、村の篝火に火が灯る頃、インメリア率いる魔馬と馬たちは辺境伯邸から帰ってきた。
馬たちは足をガクガクとさせながら馬小屋に戻ったが、満足そうな表情で仲間の馬たちと話し始めた。
「いやぁ、今日は色々あったな」
「ああ、お前の親父、かっこ良かったぜ」
「い、いや、そんな。でも自慢の父さ」
「それにしても魔馬様は凄かったな」
「ああ、でも少しでも追いつこうな」
「「ああ!!」」
馬たちは一致団結した。しかし疲労には勝てずに一頭、また一頭と眠りについた。
魔馬とインメリアは馬たちを見送ると、ゆっくりと歩いて村の中程にやって来た。
すると、なんと魔王エブが上半身裸で必死に腕立て伏せをしていた。
それを見たインメリアは慌てて駆け寄ると、魔王エブに話しかけた。
「魔王様、ご無理をなさらずに! そのご様子では相当な回数の腕立て伏せを……」
しかし、インメリアは魔王の口から呪のように漏れ出す声を聞いて驚いた。
「ろぉ~~く」
「なっ!! ろ、ろ、6!? 6回ってこと!?」
魔王エブは腕立て伏せ6回にして、必死の形相になっていた。
そして、
「ぐはっ!!」
魔王は腕立て伏せ6回にして力尽きた。
そして干からびたような顔でインメリアを見ると、かすれた声でインメリアに尋ねた。
「インメリア、つかぬことを聞くが、お主は腕立て伏せを何回できるのだ?」
「あ、ええと、私は毎朝、腕立て腹筋スクワットをそれぞれ500回ほど……」
「ごひゃっ!!」
魔王はその言葉に、今まで感じたことのない至高の恐怖を感じた。




