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その頃、ベベの村からヤクウィー辺境伯邸に続く道をインメリアを乗せた魔馬と辺境伯邸から貰い受けた馬たちが全速力で疾走していた。
ドドドドドドドドド……
魔馬は先頭を走りながら後続の馬たちに声をかけた。
「今、お主たちは大勢の敵兵に追われてると思うのだ。お主たちが力尽きれば、乗せている主人は死ぬ。よいか!」
「はっ!」
「は、はいっ!」
「ひひぃぃぃん!」
「うぐぐっ!」
ドドドドドドド……
なんと後続の馬たちは魔馬の話に触発されて奮起し、和代とインメリアの許可を得て戦馬としての訓練を受けることになったのだった。
魔馬の背に乗るインメリアは魔馬のあまりの力強さに驚いて魔馬に言った。
「お主の脚力、今まで乗ってきたどの馬よりも力強い。そしてこの安定感。きっと今までのお主の主人たちは安心して戦えたのだろうな」
その言葉を聞いた魔馬はその誇りを称えられたように感じ、インメリアに答えた。
「わしの役目は主人の勝利を助け、そして生きて帰すこと。そのために訓練を積んできた」
魔馬はそう言うと、突然左右ジグザグに跳躍しながら走り始めた。
その姿を見た後続の馬たちは驚いて声をあげた。
「あんなに跳躍しながら速い!」
「それに、あの鞍を見てみろ!」
「ああ、背中は殆ど揺れてない」
「インメリア様も揺れてないぞ」
「あ、あれが戦馬の実力なのか」
そして魔馬は目を輝かせると、インメリアに言った。
「主人よ、これから全速力で走りましょう。ご準備を」
「分かった」
インメリアは腰を高く上げて前傾姿勢を取ると、魔馬は土煙を巻き上げながら一気に加速していった。
ドドドドドドドド……!
魔馬はその脚力で恐ろしいほどの加速をし、後続の馬たちをどんどん引き離していった。
後続の馬たちは小さくなってゆく魔馬の後ろ姿を見ながら口々に言った。
「う、うそだろ……」
「あれが本物の戦馬」
「どうなってるんだ」
「ああ、本当に……」
―― ヤクウィー辺境伯邸 ――
インメリアと馬たちはヤクウィー辺境伯邸にやって来ると、警備に当たっている兵士が驚きながら出迎えた。
「こ! これはこれは!! よくぞ、おいでくださいましたインメリア様!」
その兵士は、以前村でインメリアに叩きのめされた側近の兵士だった。
するとインメリアは魔馬から降りて兵士に言った。
「今日は辺境伯には用事はないのだ。だが、厩舎(馬を飼育する場所)に案内してもらえないか? 私の愛馬が会いたい馬がいるのだ」
その言葉を聞いた兵士は驚きながらもインメリアたちを厩舎へと案内した。
―― 厩舎 ――
魔馬は遅れて到着した馬たちと一緒に厩舎へ入ると、ひときわ体格の良い老馬を見つけて馬たちに尋ねた。
「あの体格の良い老馬。もしや」
するとベベの村で魔馬の戦話を熱心に聞いていた馬が嬉しそうに答えた。
「はい! わたしの父でございます!」
その馬は父の元へ走り寄ると、父の馬に魔馬の事を話し始めた。
「父さん! あちらの方はガララ川の戦いで騎士団長のライズ様を乗せて戦った戦馬様なんだ! 父さんに会いたいって来てくださったんだよ!」
その言葉を聞いた父は、頭を下に下げて魔馬に言った。
「これは大変名誉なことでございます戦馬様。このような老いぼれに会いに来てくださるとは……」
「いや、本日は礼を言いに来たのだ」
「礼……、でしょうか」
「あの戦いでは、ライズ様を乗せていたわしだけが英雄の戦馬とされてしまった。だが本物の英雄は大勢の怪我人を命がけで運び出した補給隊の馬たちだ。心より感謝したい」
その言葉を聞いた馬の父は目に涙を溜めると、少し柔らかい表情になって話し始めた。
「身に余るお言葉、感謝致します。あの日はガンデロ帝国の兵に追われながら我々は必死に走りました。天に昇っていった、共に走った仲間たちも喜んでいるでしょう」
するとその時、魔馬は馬の父の体に微かに残る古傷の跡に気づいて馬の父に尋ねた。
「もしや、その古傷は……」
「……はい。大勢の負傷兵を乗せた荷馬車は重く、我らと荷馬車を繋ぐ馬具が食い込んで裂けた跡です。しかし、戦場で戦う戦馬様たちの傷に比べればこのような傷など……」
「いや、それは違うぞ。お主のその傷は私の体に残る傷のどれよりも尊い。そなたは本物の英雄だ。誰が何と言おうとも、わしがそなたを英雄と認めよう」
すると馬の父は凛と姿勢を正すと、静かに、そして厳かに答えた。
「戦馬様。そのようなお言葉、身に余る栄誉でございます」
しかし馬の父は姿勢を戻すと、息子の馬を見ながら魔馬に言った。
「しかし、息子は甘やかされて育ってしまいました。脚力も無ければ根性もない。軽い荷馬車を引くだけのひ弱な馬にございます」
それを聞いた息子は驚いた表情を見せたが、魔馬は大きく笑いながら答えた。
「はっはっは! 我々の時代はガンデロ帝国との争いが多かったが、今は友好条約が締結されて戦いは無くなった。それは仕方のないことであろう」
しかし馬の父は息を荒くしながら魔馬に言った。
「しかし、いつまた戦いが起こるやも知れません。どうか、どうか、このひ弱な息子を鍛えて頂けだけませんでしょうか」
「心配せずとも良い。お主の息子は進んでわしの訓練を望んだ。次ここに来る時には、お主も納得する強い馬になっている事を約束しよう」
「ありがたき幸せ。戦いとなれば、いかなる馬も戦場に行かされるでしょう、そうなれば……」
「うむ。そうなれば弱い馬は乗せている主人も守れずに野垂れ死ぬであろう。だが、わしがお主の息子を預かった以上、そのような事にはさせぬ」
それを聞いた馬の父は頭を深く下げて魔馬に言った。
「どうか、どうか、未熟な息子を宜しくお願い致します」
「父よ、心配するな。お主の息子のみならず、ここに居る馬たちは必ず立派な戦馬にしよう」
すると、その場にいた馬たちは皆、自分たちが強くならなければならないという使命感を強く感じ、凛と首を伸ばした。
そして、やはりなぜか馬たちの会話を聞いていたインメリアは号泣していた。




