20
それから2日後、ゴゴたちは早朝のべべの村にたどり着いた。
すると戦馬はゴゴに話しかけてきた。
「ゴゴよ。ここがお主の村か?」
「うん。お、おでが、おせわになってる村だ」
「そうか。ならば、此度の任務は終わったのだな」
戦馬はそう言うと、前足を折って身をかがめ、そのまま伏せてしまった。
ゴゴとメメは急いで戦馬の背から飛び降りると、メメは戦馬の顔の前にしゃがみ、戦馬の鼻筋を撫でながら涙を流した。
「戦馬様。あなた様の数多の武功、私のような者が労うことをお許しください……。戦馬様、あなた様のお陰で多くの人々が救われました。心よりの感謝を……」
それを聞いた戦馬はメメの目を見つめて答えた。
「これほど老いぼれた身でも、誰かの労いを受けられるとはな。ありがとう。お主の気持ちを持って天へと赴こう」
戦馬がそう言って天に召されようとしたその時、村の門から魔王エヴとインメリアが現れた。
その姿を見た戦馬は魔王エヴとインメリアの頭に直接話しかけた。
「お主たち。只者ではないな」
しかし魔王エヴは表情を変えずに戦馬に答えた。
「いかにも。私は魔王エヴ。そしてそのゴブリンのゴゴは私の配下。だから迎えに来ただけの事だ。しかし馬よ。お主の気迫は凄まじい。この魔王エヴに仕えてみないか?」
「なにっ!? 魔王に仕えろと!?」
「その通り。馬よ、お主の現世の命はもう尽きるようだ。だがもし、お主がこの魔王エヴに忠誠を誓うのであれば、魔馬として全盛期の力を授けよう。どうだ」
それを聞いた戦馬は少し躊躇したが、真剣な眼差しで魔王エヴに尋ねた。
「もし、わしがお主に忠誠を誓うというのであれば、わしは悪魔の手先となると言う事か」
しかし魔王エヴは表情を崩して笑顔を見せながら答えた。
「いや、そういう事にはならぬ。なにしろ私自身が洋子様の眷属なのでな。ただ、この村の発展のために手伝ってほしいだけだ。お主には馬車もひいてもらうかもしれぬ」
それを聞いた戦馬は拍子抜けしたように答えた。
「はっはっは。馬車をひくとはなんと平和な役割か。魔王よ、なかなか面白いことを言うのだな」
すると魔王の横にいたインメリアは戦馬の近くにやってきて戦馬に話しかけた。
「私はインメリア。魔剣の使い手だ。あなたほどの気迫を持った戦馬に出会ったのは初めてだ。ぜひ私が戦うときは、その背に乗せてはくれまいか」
インメリアは伏せている戦馬の前で片膝をついて頭を下げると、突然、戦馬は伏せた体を渾身の力で起こそうとした。
それを見たゴゴは慌てて戦馬に言った。
「む、むりしちゃ、だめなんだな! な!」
しかし戦馬は体を震わせながら、息を切らして立ち上がった。
そしてゴゴに優しい目線を送ると、真っ直ぐに片膝をつくインメリアを見つめ直して厳かに話し始めた。
「よかろう。わしはお主の戦馬になろう。わしはお主の疾風の足となり、そしてお主を守り抜く盾となろう」
すると、その様子を見ていた魔王エヴは大きな魔法陣を戦馬の下に出現させて、戦馬に言った。
「覚悟は決まったようだな。では今からお主を魔馬へと転生させよう」
魔王はそう言うと魔法陣から黒く禍々しい光を生み出し、戦馬を魔馬へと転生させた。
その様子を見ていたゴゴは、魔王にひれ伏しながら必死に嘆願した。
「ま、まま、まおうさま! お、おでにも、お、おおお、おねがいが!」
魔王エヴはゴゴの言葉を聞くと、ゴゴに尋ねた。
「どうしたゴゴ。なにが望みだ」
「こ、この、メメさんが! あの、メメさんの……、ええと……」
ゴゴがメメのほうを見ながら必死に訴えると、魔王エヴは少し笑いながらゴゴに言った。
「この娘の力を縛り付けている魔法だな? その、くだらない魔法を解いてほしいのだな」
「は、はは、はい! どうか! どうかなんだな! な!」
しかし、魔王エヴは冷たい目でメメを見ると試すかのように尋ねた。
「お前はエルフだな? エルフから見ればゴゴは相当に醜いであろう?」
しかしメメは真剣な表情で答えた。
「いえ、ゴゴ様は醜くなどございません。美しい心をお持ちになる優しいお方です」
それを聞いた魔王エヴは、さらに試すかのように言った。
「ならば、お前はゴゴの妻となれるか?」
魔王エヴがそう言った瞬間、メメは恥ずかしそうにしながら笑顔になり、ゴゴは驚きのあまりひっくり返った。
その様子を見ていた魔王エヴは完全に感服し、優しい笑顔でメメに言った。
「すまぬ。試すような事をした私を許してくれ。詫びにお前を縛り付けている魔法を壊し、さらなる力をやろう」
魔王エヴはそう言うと、片手を突き出して魔法陣を出現させた。
そして魔法陣をメメの体に近づけると、少し悲しげな笑みを浮かべながら呟いた。
「こんな幼稚な拘束魔法で、この娘の人生まで奪おうとするとは……」
パァァァアアアアン!!
その瞬間、メメを縛り付けていた魔法は弾け飛び、メメの力は一気に戻っていった。
すると魔王エヴは手招きをしながらゴゴたちに言った。
「私は今から、ひろし様が主催する朝の体操に参加しなくてはならぬ。お主らも付いてくるがよい!」
「お、おでもいいのか?」
「は、はい!」
ゴゴたちは村の中へ走っていく魔王とインメリアを追いかけるように村へと入っていった。




