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―― 剣と魔法の異世界、リムリテイル王国 ――
おじいさんとおばあさんは乾いた大地が広がる土地に座っていた。
そしてVRゲームの時と同じようにアイテムボックスやHP・MP、そのほかのアイコンも表示されていた。
「ええと、ここは……」
「ええ……。どこかしら」
すると近くにいた黒猫が二人に答えた。
「ひろし殿、洋子殿。ここは大天狗殿が話していた世界……。我々のVRゲーム内の能力をそのままに送り込まれた異世界です」
それを聞いたおばあさんは思い出したように言った。
「ああ、そうだったわね。あの大天狗さんは、わたしたちがゲームの中で使っていた力を使ってこの世界を救ってほしいって言っていたわね」
それを聞いた黒猫は少し怒りをあらわにしながら答えた。
「はい、そのとおりです。しかし、今まで誰も救えなかったこの世界を救うという無理難題。さらに事情は説明できないという身勝手。我が主になんという事を!」
黒猫がそう言うと、おばあさんは少し笑いながら黒猫に言った。
「まあまあ猫ちゃん。わたしたちが選ばれたのだもの。一緒に頑張りましょうね。うふふ」
おばあさんはそう言いながら黒猫を抱きかかえると、黒猫は少し落ち着きを取り戻した。
◆
おじいさんとおばあさんとは黒猫に先導されるように歩いていると、視界の先に小さな村が見えてきた。
「あら、村があるわね」
「ああ、人がいるのかなぁ」
すると、それを聞いた黒猫が二人に話した。
「洋子殿、ひろし殿、少々お時間をいただけますでしょうか。というのも我の記憶には改ざんされた形跡がございます。これは大天狗の仕業かと」
それを聞いたおばあさんは黒猫に尋ねた。
「あら、それが分かるのね。じゃあ、何が改ざんされたのかしら」
「はい。この周辺の地図と基本的な情報。そして文化レベルなどでございます……」
「あら、それは助かるじゃない! さすが猫ちゃん!」
おばあさんはそう言うと黒猫は足を止めて話を続けた。
「洋子殿、ひろし殿。まずは、この世界の事をお話いたします。この世界はVRゲーム世界と同じように剣と魔法の世界です」
「あらあら、そうなのね」
「なるほど」
「ですが、ひろし殿の並行転職である僧侶職が無効になっており、お2人の転移魔法も無効になっております。その影響かひろし殿の戦闘スキル『剛力』なども使えないようです」
「あらあら……」
「なるほど……」
「そして、この地域の文化レベルは……、相当低いようです」
「相当低いっていうと……」
「文化レベルが、ですか?」
「はい。ここリムリテイル王国は、王族や貴族、金持ちや魔法使いは贅沢をし、平民はかろうじて仕立てた服を着ている程度。このような僻地にもなれば粗末な服や狩猟で得た皮を体に巻いているというデータがございます」
「そうなのね……」
「そうでしたか」
するとその時、村の方から声が聞こえてきた。
「大変だ、貴族様がいらっしゃったぞ! 早くご用意を! 急げ!」
その声を聞いた黒猫は素早く察しておじいさんとおばあさんに言った。
「洋子殿、ひろし殿。どうやら我々は貴族と間違われてしまったようです」
「ええ?」
「なんと」
「遠くに見えた村の者は皮の粗末な服を着ていました。しかし洋子殿は魔術師のローブ、そしてひろし殿は仕立てられたジャージを着ていらっしゃいます。この世界では貴族だと思われてしまいますでしょう」
「そうなのかしら」
「貴族ですか……」
そして程なくして村から使者がやって来ると、おじいさんたちは村の長の元へと案内された。
―― 辺境の村ベベ 長の家 ――
「ようこそベベの村へおいでくださいました貴族様!」
村の長が笑顔でおじいさんたちを迎え入れると、おばあさんは少し申し訳無さそうに答えた。
「ごめんなさい、わたしたちは貴族ではないんです」
すると村の長は目を丸くして尋ねてきた。
「貴族様ではないと……。しかし、そのような美しいお召し物。貴族様でないのなら、どのような高貴なお方でしょうか」
それを聞いた黒猫は改ざんされたデータから情報を集め、おばあさんの前に出て村の長に言った。
「このお方は旅の魔道士様とその夫。魔道士様はその階級を白金級とし、我は魔道士様の眷属である」
黒猫がそう言うと村の長は目を白黒させてひれ伏した。
「な! なな! なんと! 白金級の魔道士様でいらっしゃいましたか! ははーー!」
その様子を見ていたおばあさんは小声で黒猫に尋ねた。
「ねぇ猫ちゃん、白金級の魔道士ってなにかしら……?」
「はい。この世界の魔法使いは希少で貴族と同様の生活をしております。そしてこの世界では金よりも白金が至高とされ、白金級の魔道士とは最高の魔道士という意味です」
「えっ! 最高の魔道士?」
「はい。大天狗からのデータを照合すると、洋子殿の氷魔法はこの世界の白金級よりも優れております」
「あらあら、まあまあ……」
ドン!
するとその時、突然家の扉が開き、その向こうに小さな女の子が立っていた。
その女の子は目に涙を浮かべながらおばあさんに言った。
「魔道士様おねがいします! お母さんをたすけて!」
しかし、村の長は女の子を制止するように言った。
「こら、テテ! 魔道士様にお願いなど……」
おばあさんはそのやり取りを聞くと、笑顔でテテのところへ行って尋ねた。
「どうしたのかしら? お母さんが大変なのかしら?」
「……うん。昨日ね、お母さんと一緒に岩場に行ってきのこを採りをしていたの。でもお母さんが毒蜂に刺されて動けなくなっちゃったの」
それを聞いた村の長はおばあさんに経緯を説明した。
「魔道士様。毒蜂に刺されると少しづつ体が毒に侵されて最後には死んでしまいます……」
「それは大変!」
おばあさんはそう言うと、おじいさんと黒猫と一緒にテテの家へと急いだ。
―― テテの家 ――
テテの家はとても粗末な作りでベッドもなく、母親は床にそのまま横になっていた。
家に案内されたおばあさんはアイテム欄を開くと、毒状態を解除する「解毒薬」を選択して解毒薬を出現させた。
「大天狗さん、ゲームの世界の能力が使えるって言っていたものね」
おばあさんはそう言いながら母親の口に解毒薬を流し込むと、大きな声で母親に話しかけた。
「お母さん、この薬を飲み込んで。頑張るのよ、あなたが居なくなっちゃったら娘さんが悲しむわ」
意識が朦朧としていた母親はおばあさんの言葉に目の輝きを取り戻すと、解毒薬を必死に飲み込んだ。
んぐ……、んぐ……
パァァァァアアア……
すると母親の体が輝き出し、その光の粒は大きく発散されて消えていった。
そして母親は驚いたような表情を見せると、何事もなかったかのようにスッと起き上がった。
そして笑顔になると、テテに手を差し伸べながらテテを呼んだ。
「テテ……」
「お、おかぁさん!!」
テテは満面の笑顔で涙を浮かべながら母親に駆け寄ると、思いきり母親に抱きついた。
その様子を見ていたおばあさんはもらい泣きをしながらおじいさんと黒猫に言った。
「うふふ、良かったわ。助かったみたいね」
「洋子殿。さすがでございます」
「ああ、助かって良かった。ははは」
おばあさんたちはテテと母親を暖かく見守ると、笑顔になりながらテテの家を後にした。




