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その頃、ベベの村では回復薬の販売が始まり、昨日同様クジ引き付きの回復薬が大人気だった。
哲夫は回復薬を売りながら、隣で果物の買い取り終わらせた和代に嬉しそうに話しかけた。
「いつも交渉させて済まないね。だけど驚いたよ。3000万プナだけじゃなくて馬に馬車、それに通行証まで手に入れるなんて」
「ええ。きっとあなたの事だから3000万プナを元手に大きな商売を始めたいんでしょう? だから移動手段は確保しておかないと」
「いやぁ、さすがだなぁ。いつも支えてもらってばかりで済まないね。ははは」
「今さら何を言ってるんですか。あ、そうそう、それに、あなたきっとヤクウィー辺境伯を巻き込みたいと思っているんでしょう?」
「おお、分かってたか。だけどまだお膳立てが全く出来てなくてな」
「やっぱり。そうかと思って、辺境伯からの信頼は得ておきましたよ。お膳立てが出来たら言ってくださいね」
「お、おお。いつも感心する手際の良さだな……」
「いいえ、いつもの事をしたまでです」
和代はそう言うと、ふと、村の門の外に上等な馬に乗った青年が馬から降りる姿が視界に入った。
「あら? あの方、もしかしたら」
和代が思わず声を漏らすと、その青年は村の中をキョロキョロと見回し、そして和代を見つけると嬉しそうに駆け寄ってきた。
その青年が和代の近くまでやってくると、和代は少し驚いて思わず声をあげた。
「やっぱり! ご長男のエエウヤスさん!?」
「はい! ヤクウィー辺境伯家の嫡男、エエウヤスです!」
「あら、驚いたわ! どうしてこちらへ?」
「はい。父の命により、この地で作物を育てるようにと」
「えっ、このカラカラに痩せた土地にですか?」
「はい。僕は王立学校で農業を学びました。今も我が父の領地は痩せた土地が多いのですが、僕の研究成果でだいぶ改善されました。そこでその成果をこの村で試したいのです」
「まぁ、それは心強いわ! あ、ええと、ちょっと待ってくださいね……。ちょっと哲夫さん、この方は辺境伯のご長男で……、こういうのは誰に取り次いだら良いのかしら」
すると哲夫は少し考えてから和代に言った。
「ええと、そうだなぁ、洋子さんかな。今なら調合も終わって少し手が空いてるんじゃないだろうか」
哲夫はそう言うと、近くに居た村の若者に声をかけた。
「ちょっと申し訳ないのだけど、洋子さんを呼んできてくれないかな」
「あ、はい! 今すぐに!」
村の若者は走って洋子の調合部屋へと向かった。
◆
その頃、魔王の配下の魔族たちは、人のように見える魔族は人間に扮して村で手伝いを、そしてその他の魔族や巨人、そして羽のある者たちは村から少し離れた岩場の谷にいた。
その岩場の谷には古代遺跡があり、ガーゴイルのガーとゴブリンのゴゴが中心となって遺跡を改良しながら住処を造っていた。
ゴブリンのゴゴは巨人の魔族ギガンテスに岩を運ぶ指示を出しながら、難しい表情で地面に何か書いているガーゴイルのガーに話しかけた。
「な、ガー。よかったな。おでたち、腹へらない。村の人たちも優しい。な」
「ああ。だがゴゴ、あの村の人たちは特別だ。我々を受け入れてくれた。おそらく長い間貧しい暮らしをしてきたのだろう。だから腹を空かせた我々を助けてくれたのだと思う」
「腹へったら悲しいからな。おで、今げんきになったから、おでは村の人たち助けたいんだな。な」
「そうだな。だが、まずは我らの住むところを作らないとな。魔王様やインメリア様のように人にも見える魔族は良いが、我々はこの通りだ」
「このとおり?」
「ああ。我らは、どこからどう見ても魔族だ。だから村の人たち以外の人間は怖がってしまう。そうなれば、あの村に人が近づかなくなるだろう?」
「そうか、わかった。そしたら、村のカイフク薬、売れなくなるな。な」
「おお、ゴゴ。そのとおりだ! 良く分かっているな」
「ははは。おでは、かしこいゴブリンなんだな。な」
「ああ。ゴゴは賢いゴブリンだ。ははは」
「へへへ」
ゴゴは嬉しそうに笑ったが、少し奇妙な匂いで我に返った。
「あで? な、なんだ、このにおい……」
それを聞いたガーはゴゴに尋ねた。
「どうしたゴゴ。何かあったのか?」
「ええと……。だれかちかくで……、たき火かな。な」
「焚き火?」
「さかな? 焼いてる?」
「魚……。ということは誰かが近くにいるのか?」
「すこーし、にんげんのにおい……。するな。な」
「……。これは確認しに行かなくてはなりませんね。ゴゴ、行けますか?」
「うん。おでにまかせろ。な」
ゴゴはそう言うと、棍棒を持って谷の奥へと向かった。
◆
ゴゴは匂いのする方へ谷の中を進んでゆくと、少し開けた場所に出た。
そして少し先には川が流れ、その河原で焚き火をしている男の子がいた。
「あで? にんげんだ」
ゴゴは人間の男の子を怖がらせないように岩の陰に隠れながら近づいていくと、男の子は涙を流しながら下を向いていたのが見えた。
ゴゴは思わず岩の陰から声をかけた。
「だ、だいじょうぶか? かなしいのか?」
その声に驚いた男の子は、思わず声をあげた。
「誰!? お父様?」
するとゴゴは申し訳無さそうに答えた。
「ごめんなんだな。おでは、おとうさんじゃないんだな。な」
男の子は誰かが居ることに少しだけ嬉しくなると、岩の陰に隠れているゴゴに話しかけた。
「ねえ、君はだれ? ぼくはマテリオーロ。君は?」
「お、おではゴゴ」
「ゴゴ! ねえ、姿を見せてよ! ぼく1人で寂しかったんだ」
「お、おでは……。おでは、こわいから。にんげん、こわがるから。な」
「だいじょうぶだよ! ぼく何も怖くなんか……」
マテリオーロがそう言った瞬間、空から大きな声が聞こえた。
ピャァァアアアアア!!!
ゴゴはその声に驚いて空を見上げると、驚いて思わず声を漏らした。
「あ、あでは、にんげんを食べる、おっきな鳥なんだな。な」
その大きな怪鳥は大きく空を旋回すると、一気に急降下してマテリオーロを狙った。




