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その頃、おじいさんたちは軽トラに乗って村から少し離れた岩場にやって来ていた。
おじいさんたちは軽トラから降りると、魔王エヴが嬉しそうにおじいさんに言った。
「ひろし様、では早速あの魔法の玉を投げさせていただきたいのですが」
「ええ。はい、どうぞ」
おじいさんは火薬玉を手に出現させて、魔王エヴに手渡した。
しかし、魔王エヴは火薬玉の重さに少し戸惑いながらおじいさんに尋ねた。
「ひろし様、この玉は少々重たいのですね。ひろし様は昨日の戦いで、この重さの玉をあの距離投げたのですか……。投擲魔法でしょうか?」
するとおじいさんは火薬玉をもうひとつ手に出現させて笑顔で答えた。
「いえいえ、投げ方にコツが有るのです。この火薬玉は少々重たいので最初はわたしも苦労しました。ははは」
おじいさんはそう言うと、20mほど先にある小さな岩を見つけて投球フォームに入った。
おじいさんは大きく振りかぶって左足を力強く踏み出すと、低い姿勢から体を開いて腕をしならせた。
そして二本の指に力を込めると、一気に腕を振り抜いて弾丸のように火薬玉を放った。
シャァァァアアアア!
火薬玉は自動点火して飛び出すと、そのまま小さな岩を正確に捉えた。
ドガァァン!!!
投げられた火薬玉が正確に岩を破壊する様子を見ていた魔王エヴは、おじいさんの美しいフォームと火薬玉の勢いに感動しながらおじいさんに言った。
「おおお! ひろし様、これは素晴らしい攻撃魔法です! あんなに遠くの小さな岩を正確に!!」
「いえいえ、そんな……。ははは」
おじいさんが照れ笑いしていると、後ろで見ていたアカネたちも思わず声を漏らした。
「いやぁ、やっぱじいちゃんの球はスゲェなぁ」
「ストライクですな」
「そうですね。ははは」
魔王エヴはおじいさんの投球に触発されると、少し遠くに岩を見つけて走っていった。
「ひろし様、良い的を見つけました! ちょっとやってみて良いでしょうか!」
「わかりました、どうか扱いにはお気をつけて」
おじいさんがそう言うと魔王エヴは嬉しそうに頭を下げながら岩のほうへ走っていった。
そして岩から10mほど離れた場所で立ち止まると、魔王エヴは体から紫色のオーラを発して揺らめかせながら、ゆっくりと投球フォームに入った。
魔王エヴは大きく振りかぶって左足を力強く踏み出すと、そのフォームの美しさに思わずおじいさんは呟いた。
「おお、きれいな投球フォームですね……」
後ろで見ていたアカネたちも感心しながら声を漏らした。
「あれ、意外といいんじゃない?」
「ほう。真似をする魔法でしょうか」
「ええ、ひろしさんソックリですね」
そして魔王エヴは火薬玉を握る手に力を込めると、一気に腕を振り抜いた。
ゴッ!!
しかしなんと、火薬玉は魔王エヴの手からうまく離れず、わずか2m先くらいに勢いよく叩きつけられた。
「あっ!!」
魔王エヴが声を漏らした瞬間、
ドゴォォオオオオ!!
「ぎゃーーー!」
魔王エヴは火薬玉の勢いで吹き飛ぶと、慌てておじいさんたちが駆け寄ってきた。
「魔王さん、大丈夫ですか!」
「エヴっち、ケガは!?」
「ん? いや、これは」
「ええ、無傷ですね」
魔王エヴは服の汚れを手で払いながら立ち上がると、頭を下げながらおじいさんに言った。
「ご心配おかけしました。投げる前に紫色の防御魔法をかけておいたので助かりました。ですが、さすがに至近距離の爆発には驚きました……」
その様子を見ていたアカネは、少し疑問に思って魔王エヴに尋ねた。
「エヴっちは魔王なんだよね? 魔王ってあれだよね、魔族の王なんだよね?」
すると魔王エヴは姿勢を正して答えた。
「うむ、その通り。私は全ての魔族の頂点に立つ者」
「じゃあ、めっちゃ強いってこと?」
「……ううむ。そうだな、戦闘になれば強いかもしれぬな」
「もしかして魔法がスゴいとか!?」
「魔法……。確かに高度な魔法は使えるが、その魔法を呼び出すための詠唱というものがある。ひろし様のような無詠唱の魔法に比べれば見劣りするものだ」
「あ、詠唱って知ってるよ。あたしの友達のめぐも詠唱して魔法使ってたからね」
「おお、アカネ様のご友人も魔道士でありましたか」
「まぁね。めぐの魔法は凄かったんだぜ。空から大っきな雷を呼び出して『ドカーン』って大爆発するんだから」
「ほう、なるほど。それは高等魔法のイグナイト・ザ・サンダーバーストのようなものであろうか……」
「え、エヴっちもできるの?」
「うむ」
魔王エヴはそう言うと右手に禍々しい魔法の杖を出現させた。
そして体の前に垂直に立てると、静かに目を瞑って詠唱を始めた。
「無情、無慈悲、無惨。この世の禍々しき悪しき魂たちよ、歓喜してこの魔王の元へ集え。我は悪の根源であり命じる者。今こそその悪しき魂を震わせ、雷の姿として現じるが良い……」
魔王エヴが詠唱を終える頃には、空は暗い雲に覆われていた。
そして魔王エヴはカッと目を見開くと、瞳を赤く光らせながら魔法の杖を振るった。
「爆ぜろ! イグナイト・ザ・サンダーバースト!!」
チッ……
バリバリバリバリ!!
ズゴゴゴゴゴォォォオオオオ!!
なんと魔王エヴが空から呼び寄せた雷は大きな塊となって遠くの大岩に落雷し、大爆発を起こして大岩を消し飛ばした。
それを見ていたアカネは驚きながらも喜んで魔王エヴに言った。
「エヴっち、すげぇじゃんか! さっすが魔王!」
しかし魔王エヴは喜びの表情も見せずに答えた。
「いえ、確かに魔法の破壊力はありますが、詠唱中に剣で斬られでもしたら死んでしまいます。現に村でも茂雄様の拳で失神してしまいましたし……」
すると魔王エヴはどんどん暗い表情になってブツブツと呟き始めた。
「それに黒猫様の見た事もない魔法で死にそうになるし、それより何より貧乏でご飯が食べられなければ魔法なんか出せやしないし、そもそも部下が100人くらいの魔王って……。ふふっ。笑っちゃいますよね」
それを聞いたアカネは少し困ったように魔王エヴに言った。
「自己肯定感の低い魔王だなぁ。すっごい魔法使えるんだからイイじゃん。詠唱してる時が危ないんだったら、詠唱終わるまでアカネ様が守ってあげるからさ。元気出せよ」
アカネは魔王エヴの背中を勢いよく叩いて元気づけた。




