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「2000万プナです。2000万プナを用意できますか?」
和代の言葉にヤクウィー辺境伯は和代の言葉に表情を曇らせた。
そして冷や汗を流しながら答えた。
「わ、分かりました。では2000万プナを……」
しかしヤクウィー辺境伯がそこまで言った瞬間、和代は思わぬ言葉を口にした。
「それと、領地の半分を頂きます」
「なっ、何だと!?」
ヤクウィー辺境伯は思わず声を荒げたが、自分が劣勢であることを思い出し、平静を装いながら答えた。
「この領地は王から賜ったもの。その領地を他人に与えれば王に逆らう事と同じ。そして、その領地を得た者も同罪です。あなたは王の敵になりたいのでしょうか」
「そうですか。こちらは一向に構いません。王の敵になりましょう。私が交渉しているのはあなたです。領地を半分いただけますか?」
するとヤクウィー辺境伯は和代の言葉に怒りが頂点になり、思わず机を叩いて立ち上がって和代に叫んだ。
「ここは王から賜りし誇り高き土地、ヤクウィー辺境伯領だ! よそ者のお前らに渡す土地は少しもない!!」
しかし和代は動じす、しばらくヤクウィー辺境伯と目を合わせると、徐ろに手を叩いて拍手を贈った。
拍手をする和代に我に返った辺境伯は足を震わせながらソファに腰掛けた。
すると和代はヤクウィー辺境伯を称賛するように話し始めた。
「ヤクウィー辺境伯。あなたのような誇りある貴族がこの世界を変えるのでしょう。私はあなたの誇りを感じました」
すると和代の言葉を聞いたヤクウィー辺境伯は、まるで後ろで見守っている息子たちに語りかけるかのように和代に言った。
「このヤクウィー辺境伯領は私だけのものではない。領民のものであり、私の息子たちに残さなくてはならない誇りと財産だ。この土地を奪うというのならば、この命尽きるまで戦うのみ」
すると和代はスッと引くように優しく答えた。
「辺境伯様のその気概、感服いたしました。今までの話は無しにしましょう。そのかわり、3000万プナを無利子で融資していただけないでしょうか。返済は毎年500万プナ」
和代の突然の提案にヤクウィー辺境伯は驚いたように和代に言った。
「なっ……。融資で良いのか? それならば3000万プナはすぐに用意しよう。しかし、本当にそれで良いのか?」
「いえ、望みはそれだけではありません」
「……。な、何が望みだ」
「馬を10頭と荷馬車を3台。それと、自由に領地の外に行ける通行証です」
「な、なんだ、そんな事か。わかった。今すぐに用意しよう。それだけで良いのだな!?」
「いえ……」
和代の言葉を聞いたヤクウィー辺境伯は息を呑むと、顔を硬直させながら尋ねた。
「これ以上に何が望みだ……」
「私が最後に望むのは、ヤクウィー家の永遠の誇りです」
「なっ……。永遠の誇り……?」
「はい。あなたの領地への思いと御子息様たちへの愛情に、正直驚かされました」
「いや、それは……」
「その誇りこそ、父たる者がその子たちを照らす大いなる存在。あなたの子、エルジョルートは大きな間違いを犯しましたが、それすらも包み込む父の誇りと愛です」
それを聞いたヤクウィー辺境伯は堰を切ったかのように大粒の涙を流すと、胸に仕舞い込んでいた思いを溢れ出させるかのごとく和代に言った。
「和代様! そのように理解していただけるとは! 今まで、どれだけ苦労をして領民のため、そして我が子たちのためにこの領地を守って来たことか!」
「分かります、ヤクウィー辺境伯。しかし今、奥に控えるあなたの子どもたちにもその誇りと矜持が伝わったのです。どうか見てあげてください」
和代の言葉にヤクウィー辺境伯が振り返ると、長男、次男共に涙を流しながらヤクウィー辺境伯を見つめていた。
そしてなぜか和代と一緒にいたインメリアも号泣していた。
ヤクウィー辺境伯は涙を拭うと再び振り返って和代のほうを向き、そして腰に差していた剣を抜いた。
その様子を見たインメリアは即座に魔剣に手をかけたが、和代はそれを優しく静止した。
するとヤクウィー辺境伯は両足を揃えて和代を見つめ、剣を垂直に立ててそのまま会釈し、片膝をついて剣を仕舞った。
そしてヤクウィー辺境伯は頭を下げながら和代に言った。
「和代様。当家はあなたに最大の敬意をお払い致します。ご所望の3000万プナ、無利子の融資ではなく、そのままお受け取りください」
しかし、和代はヤクウィー辺境伯に静かに答えた。
「いえ、それでは私の商売人としての誇りが保てません。お金はぜひお返しさせてください。そうでなくては平等では居られないわ」
和代の言葉を聞いたヤクウィー辺境伯はさらに頭を下げると、和代にひれ伏すように言った。
「和代様。それならば、何かあればいつでも当家を頼ってくださいませ。息子たち共々、和代様のお力になりましょう」
こうして和代は交渉を哲夫の希望通りに終わらせ、さらに馬を10頭と荷馬車を3台、それと自由に領地の外に行ける通行証を手に入れたのだった。
◆
その帰り道、馬と馬車を引き連れながら村へ向かっていると、インメリアは目に涙を浮かべながら和代に話した。
「和代さん、あの辺境伯はなかなかの男でしたね。領民と子どもたちのために領地を守ってて……。わたし感動しちゃって……ズズッ」
それを聞いた和代は純真で無垢なインメリアを優しい眼差しで見つめると、本心を隠しながら答えた。
「そうね。私ももっと財産を奪ってやろうかと思っていたけれど、あんなお父さんだったから優しくしちゃったわ」
「うんうん、ズズッ。そうですよね! あの2人の子どもたちも頑張ってほしいな。ズズッ」
和代はそっと、インメリアの手を優しく握った。




