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―― 昼前 ――
村の前の道には武器を没収されたエルジョルートと兵たちが馬に乗って待機していた。
そしてそこへヤクウィー辺境伯との交渉役を任された和代と、護衛役のインメリアがやって来て用意された馬に乗り込んだ。
インメリアは先に馬に乗ると、和代の手を引いて後ろに乗せた。
「和代さん、大丈夫ですか。この先揺れるので私の腹をしっかりと掴んでいてください」
「え、ええ。わかりました。わたし馬に乗るの初めてで」
和代はインメリアの後ろに乗ってインメリアに掴まると、少し懐かしい気分になってインメリアに言った。
「なんだか懐かしいわ。昔ゲームの中でこうして孫のオートバイに乗ったの。楽しかったわ」
インメリアは和代の柔らかで優しい言葉に釣られて優しい気持ちになると、優しくしてくれた自分の祖母の事を思い出しながら和代に言った。
「そうでしたか。そのオート……なんとかは分かりませんが、優しいお孫さんだったのでしょうね」
インメリアはそう言うとゆっくりと馬を走らせた。
おじいさんたちは総出で和代たちを見送ると、おばあさんは気になっていた事を哲夫に尋ねた。
「あの、哲夫さん。交渉役は和代さんで良かったのかしら」
すると哲夫は笑顔で答えた。
「はい。ウチの交渉は和代の専売特許(その人だけが得意とする技術)でして」
「えっ? 和代さん、交渉が得意なんですか?」
「ええ。私が経営のためにどんな無理な交渉をお願いしても、一度も失敗したことがありません」
「そうなのね……。あの和代さんが……」
おばあさんが物思いにふけっていると、誰かに服の裾をひっぱられた。
おばあさんは思わず笑顔になって下を向くと、満面の笑顔のテテが居た。
「洋子おばあちゃん! キノコすりつぶしたよ」
「まぁテテちゃん! じゃあ早く行かないとね。うふふ」
「うん!」
おばあさんはテテと手を繋ぐと、一緒に回復薬を作る作業部屋へと向かった。
おじいさんは2人の後ろ姿を笑顔で見送ると、近くに居た魔王エヴが珍しく話しかけてきた。
「ひろし様。お時間ございますでしょうか」
「え、あ、はい」
「昨日の炎の魔術、感服いたしました。無詠唱な上、あの速度で敵に襲いかかるとは……。やはり、ひろし様も洋子様と同様に魔道士でございますか?」
「いえいえ、あれは火薬玉というものでして」
おじいさんはそう言うと火薬玉を手に出現させて魔王エヴに見せながら説明した。
「この火薬玉は投げると自動で火が着きまして、地面や物に当たると爆発するんです」
「おお、それは素晴らしい。その玉は私でも投げられるのでしょうか」
「ええ、もちろんです。投げて見ますか?」
「よろしいのですか?」
「はい。ですが大きな音がしますので村から離れたところで投げたいのですが」
「はい、私は構いません」
「そうですか、では村から少し遠くへ行きましょうか……。ええと、そうだ、もしかしたら……」
おじいさんは、なんとなくゲームの中の頃の事を思い出して、アイテム欄をスワイプした。
すると、なんとアイテム欄には軽トラがあった。
「軽トラが……、ありますね」
おじいさんはアイテム欄の軽トラを選択してみた。
ボワン!
すると、なんと軽トラが現れた。
「なっ、なななな!」
魔王エヴは予想もしなかった事に驚いたが、おじいさんは嬉しそうに軽トラの荷台をポンポンと叩きながら昔の事を思い出していた。
「ああ、懐かしいなぁ。転移魔法が使えるまでは、この軽トラで色々なところへ行ったなぁ」
すると軽トラを見てテンションが上がったアカネが荷台に駆け上がると、満面の笑顔でおじいさんに言った。
「うわぁ! この軽トラ懐かしいね、じいちゃん!」
「ははは、そうですねアカネさん。荷台はアカネさんの特等席でしたね」
「そうそう! めぐと黒ちゃんと一緒にコーシャタ行ったの思い出すよ。イリューシュさんとタッちゃんはいつも助手席だったよね」
すると大熊笹と茂雄も荷台に上がって笑顔で話し始めた。
「我らはこの荷台で戦いましたな」
「ええ、思い出します」
それを聞いたおじいさんも恥ずかしそうにしながら2人に言った。
「懐かしいです。あの時は私が狙われていましたね。ははは」
するとアカネが荷台で飛び跳ねながらおじいさんに言った。
「じいちゃん、せっかくだからドライブしようよ!」
それを聞いたおじいさんは笑顔で答えた。
「ははは、そうしましょう。ささ、魔王さん。こちらからどうぞ」
おじいさんは運転席に乗り込むと、内側から助手席のドアを開けた。
そして助手席に魔王エヴを乗せると、ゆっくりと軽トラを走らせて村を出発した。
その様子を見ていた村の者たちは、驚きながらも魔道士様の夫であればそういう事もあるだろうと、いつも通り回復薬の材料集めに出かけて行った。
―― その日の昼下がり ヤクウィー辺境伯邸 ――
和代とインメリアは山を1つ越え、ヤクウィー辺境伯邸にたどり着いた。
武器を持たない兵たちとエルジョルートの手に縄がかけられた状態での帰還を2階から見たヤクウィー辺境伯は全てを悟り、素早く交渉の準備を整えた。
そして和代とインメリアは邸宅の応接室に通された。
◆
ヤクウィー辺境伯の長男エエウヤスと次男エルジョルートが見守る中、和代はヤクウィー辺境伯との交渉に臨んだ。
ヤクウィー辺境伯は上等なお茶で和代たちを出迎えると、厳かに自己紹介を始めた。
「私はガリドレ・フォン・ヤクウィー辺境伯。後ろに控えている彼が長男のエエウヤス。そして彼が次男の……。いえ、すでにお見知りおきかと……」
長男と次男が深く頭を下げるとヤクウィー辺境伯も頭を下げてソファに着席し、静かに話し始めた。
「この度の息子の愚行は全て私の指示によるもの。罰は甘んじて受ける所存でございます」
すると和代はお茶も飲まずに答えた。
「私は翼与和代です。私の希望はそちらの全財産を頂くことです。こちらの誓約書にサインを」
「なっ!」
「えっ!?」
和代の言葉にヤクウィー辺境伯だけでなく、護衛として付いてきたインメリアも驚いて思わず声をあげた。
ヤクウィー辺境伯は動揺を隠せず、手を震わせながら和代に言った。
「そ、それはどういう事でしょうか。この度の罰は甘んじてお受けしたいと思っておりますが、その条件では当家が……」
「そうですか。そちらは相応の事をしたのです。では交渉決裂でよろしいのですね。失礼いたします」
和代は厳しい表情で立ち上がると、ヤクウィー辺境伯は慌てて和代を止めた。
「お、お待ち下さい! ぜ、全財産は難しいですが、1000万プナであれば差し上げます! どうかお考え直しを」
しかし和代は毅然とした態度で答えた。
「2000万プナです。2000万プナを用意できますか?」
ヤクウィー辺境伯は和代の言葉に表情を曇らせた。




