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パニックになっている兵の中で、エルジョルートと側近の兵たち数名だけは冷静を保っていた。
エルジョルートは周りの状態を把握すると、側近の兵たちに伝えた。
「今の混乱に乗じて敵の兵がこちらに侵入してきた。となれば敵も先程の火を吹く玉は使えないはずだ。我らの極めた剣技をもってすれば敵を必ず討ち取れる! いくぞ!」
「「おお!!」」
エルジョルートは側近の兵たちを鼓舞して立ち上がると、なんと目の前には魔剣に手をかけたインメリアが立っていた。
しかしインメリアは魔剣の鞘に取り付けられた紐を魔剣の鍔に巻き付けて魔剣を抜けないようにすると、ゆっくりと構えてエルジョルートに言った。
「君たちは剣を抜いて構わない。君たちの極めた剣技とやらを私に見せてくれ。まぁ、私には勝てないだろうがな」
それを聞いたエルジョルートは思わず激昂すると、剣を抜いてインメリアに叫んだ。
「おい女! 今なら許しを請えば許してやる! だが、殺されたいならかかってこい……、へぶっ!!」
なんとエルジョルートが「かかってこい」と言った瞬間、インメリアの鞘はエルジョルートの頬を殴っていた。
キンッ!
カラン……
そして剣を返してエルジョルートの剣を叩き落とすと、靴のヒールでエルジョルートの鼻を蹴り上げた。
バキッ!!
「ぎゃぁあ!」
エルジョルートは思わず後退すると、側近の兵たちが束になってインメリアにかかってきた。
しかしそれを見たインメリアはニヤリと笑うと魔剣を真っ直ぐに立てて目を閉じた。
そして精神を統一するとスッと目を見開き、小さく呟いた。
「魔剣技、散花」
インメリアがそう呟いた瞬間、インメリアは残像も残らないほどの速さで側近の兵たちを殴打していった。
ズドッ ズドドッ ドドドッ!
インメリアが剣を止めると、側近の兵たちは次々と倒れていった。
インメリアは魔剣をクルリと回してから腰に戻すと、少しだけ笑顔になって声を漏らした。
「殺さないのも悪くない」
インメリアはそう言うと、残りの兵へ向かって歩いていった。
―― しばらく後 ――
エルジョルートの率いる兵たちは完全に翻弄されて全員捕縛された。
哲夫は落ちていた蹄鉄(馬の蹄に取り付ける金具)を持ってエルジョルートの前にやって来ると、エルジョルートに蹄鉄を見せながら尋ねた。
「村の者に聞きましたが、こちらの蹄鉄に刻まれた紋章はヤクウィー辺境伯家の紋章ですな」
エルジョルートは何も答えずに下を向いた。
その様子を見た哲夫は再び尋ねた。
「では質問を変えましょうか。これから我々は後ろ盾である貴族連合へこの事を伝えるつもりです。良いですか?」
それを聞いたエルジョルートは慌てて声をあげた。
「ま、待ってくれ! それだけは頼む! この事が貴族連合に知れたらヤクウィー辺境伯家はおしまいだ!」
「そうですね。ヤクウィー辺境伯家が貴族連合が後ろ盾の村に独断で攻め込んだのですから、大変な事になるでしょう。ですのでここで取引をしませんか?」
「取引?」
「はい。ヤクウィー辺境伯家では、この兵の方々を維持するのにどのくらいの予算を割いていらっしゃいますか?」
「当家の一年分の予算の約三分の一だ」
それを聞いた哲夫は思わずエルジョルートに言った。
「当家、とおっしゃいましたね。やはり辺境伯家の身内ですな。肌艶が良く、髪も艶があるので、そうではないかと思っていました。はっはっは」
「くっ!」
「そして剣の腕も磨いているとなると、辺境伯の御子息。違いますかな?」
エルジョルートはそこまで言われると思わず表情を緩めて笑い出した。
「お主は全てお見通しのようだな。もう隠すのも馬鹿らしい。私はヤクウィー辺境伯家の次男、エルジョルートだ」
その様子を見た哲夫も表情を崩して答えた。
「お名前を頂きありがとうございます。私は商売人の哲夫と申します」
哲夫は軽く頭を下げると、エルジョルートも会釈をした。
―― 翌朝 ――
「ええっ! 3000万プナ!?」
アカネが思わず大声を出すと、哲夫は思わずアカネの口を塞いた。
昨日の戦いから一晩明け、おじいさんたちは朝食をとりながら哲夫の話を聞いていた。
哲夫はアカネの口から手を離すと、話を続けた。
「ええと、ヤクウィー辺境伯家の全財産は5000万プナほどだそうです。年間の収入は約1500万プナで、500万プナは兵を維持するのに必要だそうです。そこで3000万プナを無利子で融資して頂く計画です」
すると、それを聞いたアカネが哲夫の方を向いて右手を挙げた。
「はーい、はーい」
「はい、アカネさん」
「ってか、3000万プナって3000万円と同じくらいの価値があるって聞いたんですがー、融資ってなんすか?」
「融資とは簡単に言うとお金を貸して頂くことですな」
「え、じゃあ3000万プナは返すの?」
「そうですね。ヤクウィー辺境伯家が兵を1年維持するのに500万プナですから、毎年500万プナを返す約束であれば聞き入れてくれるのではないかと思います」
「でも3000万プナをそのまま貰っちゃうのはダメなの?」
「はっはっは。もし3000万プナをくださいと言えば相手も必死に拒むでしょう。ですが将来返ってくるのなら出せる金額です」
「そっか。たしかに来月返すから1万円貸してって言われたら渋々1万円渡すけど、1万円ちょうだいって言われたら渡さないもんね」
「その通りですアカネさん」
「でもその3000万プナって何に使うの?」
「将来の投資ですな」
哲夫は嬉しそうに笑った。




