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ミノタウロスとリッチは大きな扉を開けて中へ入ると、リッチの予想どおりベヒーモスと、ベヒーモスの前で魔力の弱い大小様々な魔族たちが待ち構えていた。
ミノタウロスは斧を担いで失笑すると、静かにベヒーモスに言った。
「ベヒーモスよ、何をそんなに怖がっている。そんな大勢の魔族を従えて私を迎え撃つとは、お主は魔獣の王としての誇りを捨てのたか?」
しかしベヒーモスは焦りを見せながら答えた。
「捨ててはおらぬ! むしろ誇りを守るために待っていた!! ここい居る魔物たちは魔王に見捨てられた同胞たち。同胞たちは崇高な我が誇りを守るために集まったのだ!」
それを聞いたミノタウロスはリッチを見ながら言った。
「リッチ殿の言う通りだったな。奴は自分の誇りを守るために同胞たちを捨て駒にしようという魂胆が透けて見える」
「……ええ。このような指導者は飽きるほど見てきました。しかし悲しいですが、自然の摂理なのかもしれません。過去を振り返っても誇りや殉教という名目で大勢の人たちが亡くなりました」
「……そうか」
「しかし彼らは信頼する指導者の誇りのために戦い、その誇りを共有した仲間を守ろうと戦うのです。彼らには罪は無く……、だから私は……、できるだけ痛みを感じること無く……、一瞬で……、天の国へと……、お送りしたいの……、です……」
リッチは悲しそうにそう言うと、一度も見せた事のない大きな魔法の杖を出現させて禁忌とされている重力魔法を発動し、ベヒーモスの前にいる手下の魔物たちが居る空間を一瞬で爆縮させた。
◆
その頃、火柱に守られた子供たちの元へ1人の女性が現れた。
そして火柱の隙間から顔を見せると柔和な笑顔で子供たちに言った。
「みなさーん、もう大丈夫よー。この危ない火柱はお姉さんが消してあげますねー。うふふふ」
しかしその時、ミノタウロスと仲良くなっていたアイイがその女性に無垢な笑顔で言った。
「あははは。お姉さんじゃないよぉ、おばあちゃんでしょう?」
その言葉を聞いた女性は瞬時に子供たちから離れ、態勢を整えた。
そして、驚く気持ちをおさえながらアイイに尋ねた。
「な……、なんで……、おばあちゃん……、なのかしらぁ?」
しかしアイイは嬉しそうに答えた。
「だって、シワシワだもん! シワシワー!」
それを聞いた女性は舌打ちをすると、黒く重い光を放ちながら本来の魔族の姿を見せた。
そして顔を歪ませると、アイイに再び尋ねた。
「お姉さんは、怖いかい? あなた達を全員殺すけれども」
しかし、アイイは笑顔で答えた。
「怖くないよ! だってイフリートのお兄ちゃんがいるもん!」
アイイがそう言った瞬間、その女性を狙い撃ちするかのように炎の塊が落ちていった。
ドォォォオオ!!!
「くっ!!」
女性は突然の攻撃に吹き飛び、そしてその女性の前に立ちはだかるようにイフリートが立っていた。
しかしイフリートは女性を見ると、微妙な表情を浮かべて子供たちに言った。
「まじか……。まさか北方の魔女エディリラとはな。こいつは一筋縄じゃ行かねぇ。おい、お前ら! おれが篝火を焚くから、お前らは導く方へ走って逃げるんだぜ」
イフリートがそう言うと、子供たちを守っていた火柱が消えて安全な場所へと導くかのように篝火が灯った。
それを見た子供たちは篝火を頼りに走り出すと、イフリートは満足そうに笑って北方の魔女に言った。
「はっはー! 北方の魔女さんよぉ、久しぶりだな。こんな所で会えるとは光栄だぜ。おれと1対1で勝負したいんだろう?」
しかし北方の魔女は冷徹な目で受け流した。
「邪魔しないで。私の目的は別にあるわ。それに人間の子供たちの生気は、この身を若く保つのに必要なのよ。子供たちは逃さないわ」
それを聞いたイフリートは力で劣ると分かりながらも、子供たちを逃がすために、わざとらしく北方の魔女の前に出て睨みつけた。
「おいおい、何言ってんだよ! この大精霊と戦いたいだろうがよぉ? 力比べといこうじゃねぇか。おれの炎は全属性を屈服させる! お前の貧弱な魔法を見せてみろよぉ!!」
その言葉を聞いた北方の魔女は少しの怒りが根源となって子供たちの事を忘れ、顔をしかめながらイフリートに答えた。
「……炎が全属性を屈服させる……? 正気ですか?」
しかしイフリートは余裕の表情を見せながら答えた。
「やってみろよ。最後に立っているのはどっちだぁ?」
イフリートの挑発に北方の魔女はどの属性でもない、多次元の空間を歪曲するような高度な魔法を発動した。
「イフリート……。くだらないわね」
すると空間は歪み、イフリートはその歪みに引き込まれるように体を歪ませていった。
「くっ!! うぐぐぐ!! や、やるじぇねぇか、北方の魔女さんよぉ!!」
イフリートが顔を歪ませるとエディリラは不敵な笑みを浮かべながらイフリートに言った。
「イフリート。お前ごときの精霊が私に楯突くからでしょう? お前は異次元で死ぬこともなく永久に苦しむのよ」
北方の魔女はそう言ってイフリートを異次元の空間に送り込もうとした瞬間、予想もしていなかった事が起きた。
なんと、子供たちがイフリートの加護によって得た火の玉を一斉に北方の魔女に向けて放ったのだった。
「イフリートのお兄ちゃんを助けろ!!」
「やーーーー!!」
「みんな、助けるんだー!!」
ボボボボボボボォォォ……
「なんだこれは!!」
その攻撃に北方の魔女の服は焼けて集中力は切れ、思わず火の玉が来るほうへと振り返った。
するとその瞬間、イフリートは魔法から逃れて全身を爆発させるように炎を灯し、エディリラを睨みつけながら叫んだ。
「はっはー!! 正直、おれは全くお前に敵いそうもないのは分かってた! だから子供たちを逃がすための嘘をついて時間稼ぎをしてたんだがな!!」
イフリートはそう言うと、柔らかな表情を見せて火の玉を放った子供たちを見て嬉しそうに続けた。
「けどよぉ、見てくれよ。あの人間の子供たちは、おれのために……、あんな小さな火の玉なのに、おれを助けるために火の玉を放ったんだぜぇ……。誰かに優しくしてもらうと……、こんな気持になるんだなぁ。ははは」
するとイフリートは大きく笑顔を作って子供たち言った。
「安心しな! お前たちには指一本触れさせねぇからな!! けど、でっけぇ魔法をぶっ放すから向こうへ下がってな!!」
それを聞いた子供たちは笑顔で大きく頷いて下がっていった。




