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その頃、ネイクは手下からの報告を受けて苛立っていた。
「どういう事だ!? 侵入者は何者なのだ!?」
「はっ! 報告によると、スケルトンの魔導師とミノタウロス、それにイフリートが加担していると……」
「何だと!? イフリートまでもか!? イフリートを管理しているネクロマンサーはどうした!?」
「あ、え、ええと……、5人で管理していたのですが、全く制御が出来ないイフリートに殺されかけて地上へ逃げて行きまして……」
「なんだと!? ネクロマンサーのくせに何をやっているのだ!! この私が命がけで蘇らせた大精霊を!!!」
しかし、それを聞いた手下は少しだけ怪訝そうに答えた。
「あの……、ネイク様。あんな強い魔力を持った魔族や大精霊は言う事を聞きませんよ……。我らのようなネクロマンサーでは扱えません。ええと、何と言うか……、丸投げされても困りますよ……」
「なんだと!? お前は何を言っておる!! 私の孫たちを助けるために必要な事だ!! お前たちも、優秀なネイクロとネイクラが必要だろう!?」
しかし手下はしばらく黙ったあと、意を決したようにネイクに言った。
「じゃあ、ネイクさんが1人でネイクロさんとネイクラさんを取り戻すために頑張ったらいいんじゃないですかね」
それを聞いたネイクは激昂して答えた。
「なんだと!? お前は今までの恩を仇で返すのか!?」
「恩……? ははは。どんな恩ですか?」
「お前は恩を感じていないのか!? お前はネクロマンサーの誇りを忘れたか!?」
「ええと、すみません。誇りとはなんでしょうか」
「お前は!! 我らネクロマンサーを冒涜するのか!!! ネクロマンサーはこの世で一番高尚な存在だ!! 死者を蘇らせる唯一無二の才能を持っている!」
「ですけど……。それが、僕を幸せにしてくれるんですか?」
「なっ!? あたりまえだ!! 死者を蘇らせる者は選ばれしものだ!! 誇りを持て!! お前にしか出来ない選ばれし才能だのだぞ!! お前は幸せだろうが!!」
それを聞いたネクロマンサーは、くだらないと思ったが冷静に答えた。
「ありがとうございます。大変、参考になりました」
ネクロマンサーがそう言うと、ネイクは機嫌を直して満足したように言った。
「なんだ、説明すれば分かってくれたか。いいか? お前はネクロマンサーとしての才能は薄いが、話は分かる奴だ。嫌いではないぞ」
「そうですか。ありがたき幸せ」
ネクロマンサーは感情を無くした表情で答えると、そそくさとネイクのいる部屋から出ていった。
ネイクはネクロマンサーが部屋から出ていくのを見届けると、突然独り言を呟いた。
「エディリラ、あの者をどう思う?」
するとその言葉に呼応するように風が渦巻き、その風の渦の中から黒いローブを身にまとった1人の若い女性が現れた。
そしてその女性は静かに笑みを見せるとネイクに言った。
「あのような雑魚など捨て置けば良いわ。何を心配しているの、ネイク?」
それを聞いたネイクは少し考えてから答えた。
「……いや。あのような者たちが増えれば、せっかく蘇らせた強力な魔族たちが暴走するのではないかと思ってな」
ネイクがそう言うと、エディリラは失笑してからネイクに言った。
「ふっ……。放っておけば良いわ。魔族が暴走したなら殺せば良いだけのこと。力で支配するのは昔から一緒。違う?」
エディリラが自身に満ちた声でそう言うと、ネイクは安心したように答えた。
「そうだったな。お主は全属性の魔法と古代魔法を操る伝説の北方の魔女にして、魔族をも従えていた者。お主がそう言うのならば、それが正しいのだろう」
「うふふふ。私はまた魔法で殺しが出来る事が嬉しくてたまらないの。それが人間だろうと魔族だろうと。私を蘇らせたあなたには感謝しているわ」
「そう言ってもらえるなら、こちらも嬉しい限り。お主を蘇らせた甲斐があったというものだ。……おお、そういえば先日お前が蘇らせたいと言っていた魔族を蘇らせる準備は順調だぞ」
「あら、さすがはネイクね。嬉しいわ」
エディリラはそう言うとニヤリと笑った。
◆
その頃、リッチたちはミノタウロスの案内でダンジョンの奥深くまで進み、ネイクがいる所まであと一歩というところまで来ていた。
そして大きな扉の前までやって来ると、ミノタウロスは大きな扉を見つめながらリッチに言った。
「リッチ殿。この扉の向こうがネイクの居場所だ。だが、先程からベヒーモスの気配がプンプンする。奴が待ち伏せしているに違いない。ここは私に行かせてくれぬか」
しかしリッチは冷静かつ的確に答えた。
「お待ち下さい。ベヒーモスが気配を察知させているという事は罠と考えるべきです。ミノタウロスさん1人を誘い出して多数の兵で奇襲をかけるかも知れません」
「……確かに。奴がこれほどの気配を放つのは不自然だ。……しかし奴ともあろうものが姑息な手段で私と戦おうとするであろうか……」
「ミノタウロスさん。私は数多の戦いで数え切れないくらいこのような場面に出くわしました。……恨みを持つ者は手段を選びません」
「……しかし、リッチ殿。奴は誇り高き魔獣の王ベヒーモス。まさか……」
「誇り高いと謳われる指導者ほど、最後は姑息な手段に出るものです。特に生まれながらの素養を持って地位を得た者は誇りに固執し、誇りに取り憑かれ、誇りを手放しません。……どんな手段を使っても……、です」
「……なるほど、それは一理ある。私は誇りなど持たぬ雑兵あがりの将軍。しかし、私が将軍を任命された時、前任のエリート将軍は私に毒を盛ろうと娘である魔族の美女をよこた」
「……そうでしたか。……もちろん、誇りを持って努力する者は報われます。しかし悪意を持ち、生まれ持っての素養で地位を得た者は、その世間知らずの誇りで部下を縛りつけ、どんな手段を使ってでもその誇りを守り通そうとするものです」
「……ふむ。リッチ殿の言葉、誠に道理にかなっている。さすがは百選練磨の魔導師、知略にも長けているのだな。私のような力だけの者が考えも及ばないご判断。その知性、誠に恐れ入る」
「い、いえ、そんな、ははは。しかし、罠が待っている事は間違いありません。ここは私もご一緒します」
リッチはそう言うと両手をかざして火柱を展開し、子供たちを囲うように壁を作った。
そしてリッチは火柱の隙間から優しく子供たちに言った。
「みなさん、待っていてくださいね。もうすぐ帰れますから、もう少し我慢してくださいね。ははは」
リッチが笑顔を見せると子供たちも嬉しそうに笑顔を返した。




