148
イフリートが姿を消すと、ミノタウロスは微妙な表情でリッチに言った。
「イフリート……。強制的にリッチ殿のお友達になってしまったようですな……」
「ええ。ですが、根は悪い人では無いようですね。今もうっすら気配が感じられるくらいの距離を保って見守ってくれているようです」
「はぁ……。それにしても氷の監獄を一瞬にして破壊するとは。最初から壊す事ができたのに、……かまって欲しかったのだろうか」
「……そうかもしれませんね。ははは」
◆
リッチと子供たちはしばらくケンケンパで遊んでから、ゆっくりとダンジョンを進んでいった。
すると少し広い所へ出たところで、突然3人のネクロマンサーたちが声をあげた。
「うわっ!」
「ぎゃっ!」
「わぁあ!」
その声にリッチたちが振り返ると、なんとダンジョンの天井に上半身は女性、下半身は蜘蛛の魔物がネクロマンサーたちを蜘蛛の糸で吊し上げていた。
その魔物はリッチたちを見るとゆっくりと自己紹介をした。
「はじめまして。私はアラクネー。なんだか美味しそうな子供たちが沢山いるわね」
アラクネーがそう言うと、それを聞いた子供たちは身を寄せ合って怖がった。
するとアラクネーの言葉を聞いたミノタウロスがアラクネーに言った。
「アラクネーよ。この子たちに手を出すのならば容赦しない」
しかしアラクネーは高笑いしながら答えた。
「あーっはっはっは! さすがは子供好きなミノタウロスね。でも、容赦しないなんて言われたら、こちらこそ容赦しないわよ?」
その様子を見ていたリッチは冷静にアラクネーへ進言した。
「アラクネー様、口を挟んで申し訳ございません。私の話を聞いていただいても宜しいでしょうか」
アラクネーはリッチの紳士的な態度に機嫌を直すとリッチに答えた。
「あら。野蛮なミノタウロスと違って、まともに話せる者も居るようね。話とは何かしら?」
「ええと、我らはダンジョンの奥から地上に出て帰りたいのです。そのためにここに居ります。アラクネー様のお邪魔をしてしまったのでしたら謝罪致します」
「ほう。まぁ、私の役目はこのネクロマンサーたちを連れ戻す事。あなたたちの邪魔はしないわ。……と言いたいところだったけれど」
「え、ええと……、それは、どういう……?」
「子供たちが腹をすかせていてね。人間の子供は栄養があって良さそうだから」
アラクネーがそう言うと、なんとダンジョンの奥から大型犬くらいの大きさの蜘蛛たちが一斉に現れた。
するとアラクネーはネクロマンサーたちを蜘蛛の糸で縛り付けて地面に放り投げると、両手の爪を鋭く輝かせながらリッチに言った。
「あなた、強いでしょ? だから子供たちが食事を済ませるまで、お母さんが足止めしなくちゃね」
アラクネーはそう言うと、蜘蛛の糸を無数に広げ、先端を尖らせて素早くリッチとミノタウロスを狙った。
それを見たリッチは炎の魔法で応戦し、ミノタウロスは蜘蛛の糸を切り刻んだが、その隙に子供の蜘蛛たちは人間の子供たちの元へと勢いよく走り出した。
その様子を見たリッチとミノタウロスは慌てて子供たちの蜘蛛に攻撃しようとしたが、アラクネーは蜘蛛の糸を束ねて壁を作り、リッチたちの攻撃を阻止しようとした。
リッチは想定外のピンチに思わず声をあげた。
「ミノタウロスさん! どうか子供たちを!!」
しかしミノタウロスも蜘蛛の糸の連続攻撃に防戦一方になっていて、そこから動くことが出来なかった。
「すまない!! ここから動けぬ!!」
その時、人間の子供たちは迫りくる蜘蛛たちにパニックになっていた。
「うわーー!!」
「たすけて!!」
「きゃー!!!」
するとその時突然、子供たちの体が赤いオーラで包まれた。
「え?」
「これって」
「なにこれ」
子供たちが驚いていると、遠くからイフリートの高笑いが聞こえてきた。
「はーっはっは! 仕方ねぇから、おまえら全員にイフリート様の加護をやるよ! 魔力がチョットしか無くったって、火の玉くらいは投げられるぜ! 頭の中で大っきな火の玉をイメージして投げてみな!」
それを聞いた子供たちは迫りくる蜘蛛たちに必死になりながら火の玉が出るようにイメージして腕を振った。
「火の玉、出ろ!」
「やぁーーーー!」
「わたしだって!」
するとなんと子供たちの手から大小様々な火の玉が飛び出して、迫りくる蜘蛛たちとの間の地面に落ち、勢いよく炎が燃え広がった。
それを見た蜘蛛たちは突然現れた炎を怖がり、逃げ帰るようにダンジョンの奥へと消えていった。
その様子を見た人間の子供たちは飛び上がりながら喜んだが、アラクネーは表情を険しくして人間の子供たちを狙った。
「私の子供たちを怖がらせて! 許さないわ! なら、殺してゆっくり食べさせてあげるしかないわね!!」
アラクネーはそう言って無数の蜘蛛の糸の先端を尖らせ、子供たちに向かって放とうとした。
しかしその瞬間、
「おい、アラクネー。お前、おれが加護与えた子供たちに手ぇ出すんじゃねぇだろうな?」
なんとイフリートが異様な殺気と共にアラクネーの頭のすぐ後ろから囁やいた。
「ひっ!!」
アラクネーは恐れ慄きながら振り返ると、イフリートはなぜか顔を硬直させながらアラクネーに言った。
「おっ、あ、いや、ええと! おれは怒ってるワケじゃねぇぞ! 誤解するなよ! おれは怒らねぇって決めたんだ。だろ? おれは怒ってねぇだろ?」
しかしそれを聞いたアラクネーはさらに恐怖を増して答えた。
「え、あ、は、はは……。まさかイフリート様がこのような所へいらっしゃるなんて……。ですが、イフリート様は怒ってらっしゃるようにしか……」
それを聞いたイフリートは慌ててアラクネーに言った。
「ああ!? おれは怒ってねぇって言ってんだろぉ……、いや、ええと……、怒ってないだろう? な、アラクネー……、……さん?」
「さん!?!?」
アラクネーはイフリートが突然付けた敬称にさらなる恐怖を覚えると、逃げ出そうとキョロキョロとした。
するとその時、リーダー的存在の少年の提案で、子供たちが一斉にイフリートにお礼をした。
「「せーのぉ、イフリートさん! ありがとー!!」」
それを聞いたイフリートは今まで感じたことのない沸き上がるような喜びの感情を感じて、思わず満面の笑顔を浮かべながら答えた。
「お、おう! な、なんだよお前ら急によぉ……。い、いいって事よ! な、なんだか照れるじゃねぇか」
イフリートが子供たちに答えて隙が出来た瞬間、アラクネーはネクロマンサーたちを抱えて全力で飛び跳ね、蜘蛛の糸を使ってダンジョンの奥へと逃げていった。




