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リッチは慌てて立ち上がると、炎の柱を張り巡らせて子供たちを矢から守った。
すると、アイイはリッチに言った。
「リッチ隊長、高い音がたくさん聞こえるの。あの音、弓の糸の音……」
それを聞いたリッチは冷静に分析して呟いた。
「弓の糸の音……? 弓の糸は極限まで張られているから音はしないはず……。とくに風のないダンジョンでは……」
その時、アイイが大声で言った。
「こっちの人が矢を放つよ!!」
アイイがそう言って指を刺すと、アイイが指さした方角から矢が放たれ、炎の柱の隙間を狙ってきた。
ヒュヒュヒュヒュ!!
しかし、アイイの言葉で警戒していたリッチは炎の魔法で矢を一瞬で一掃した。
するとアイイが振り返って声をあげた。
「うしろから来る!」
その言葉にリッチは魔法を放つ準備を整えると、なんとアイイの言う通り無数の矢が飛んできた。
しかしアイイのお陰で先手を取っていたリッチは炎の魔法で全ての矢を撃退した。
すると、しばらく静寂が続いた後、突然アイイがミノタウロスに言った。
「居なくなったみたい。弓の音がしない」
それを聞いたミノタウロスはアイイに尋ねた。
「アイイ様。弓の音が聞こえるのですか?」
「うん。弓はね、歩いても音が鳴っちゃうの。ヒンヒンって。でね、矢をつがえるとね、ギギギギっていうんだよ!」
「……なんと。アイイ様は弓にお詳しいのですね」
「うん。だって、お父さんもお母さんも弓で仕事してたの。お父さんもお母さんもハーフエルフなんだよ!」
「ハーフエルフ?」
「うん! えっとね、ハーフって半分だから、えっとね、ううんとね、……えっと、たぶんね、アイイはちょっとエルフなの! あはは!」
「なるほど、そうでしたか! でも、アイイ様のお陰で助かりました! ありがとうございます。さすがエルフの血を引くお方!」
「でもね、お父さんもお母さんも弓が得だったから兵隊さんに連れて行かれたの。そうしたらね、優しいおばさんが来てね、難民の町に連れてこられたの」
そこまで聞いたミノタウロスは涙が止まらなくなり、アイイに言った。
「では、お父さんとお母さんは……」
するとリーダー的存在の少年がやってきてミノタウロスに言った。
「ミノタウロスさん。それ以上は、すみません。僕が言葉を遮った事がお気に召さなければ命を差し出す所存です。ですが……」
しかしそれを聞いたミノタウロスは、その少年の覚悟に自分が発した言葉が浅かったと理解し、真摯に答えた。
「少年よ、気を使わせて済まなかった。お主はなんと大人であろうか」
「……いえ、とんでもございません。……正直に話せば、私は力が無いゆえ、皆を家に帰すために力のあるミノタウロスさんに媚びているだけかもしれません」
「少年よ、そんな事を言わないでくれ。力を持つ者は力のない者を助け、君のように勇気と優しさを持つ者は不安になる者たちを助ける。そうだろう?」
「……いえ、僕などは……」
「ずっと君の言葉は聞こえているぞ。君は立派に子どもたちを助けている。ならば私も君を助けなければならない。はっはっは!」
ミノタウロスが大きく笑うと、肩車をされているアイイも腰に手を当ててミノタウロスの真似をするように笑った。
◆
その頃、ダンジョンの奥では弓を持ったアーチャーデーモンたちが集まって話し合っていた。
「おい。あの骸骨の魔導師は厄介だな」
「ああ。俺たちの矢を焼き尽くしたぞ」
「あいつら矢をどうやって察知した?」
「どうする? 失敗したって言うか?」
「いや、ネイクに言ったら消されるぞ」
「くそっ! じゃあ、どうしたら!?」
するとその時、ダンジョンの奥からゆっくりと足音が近づいてきた。
そしてその足音はアーチャーデーモンたちの前までやって来ると、足音の主はアーチャーデーモンたちに声をかけた。
「おれの力が必要か?」
その声を聞いたアーチャーデーモンたちは歓喜して答えた。
「おお! イフリート様ではありませんか!!」
「炎の大精霊イフリート様、お久しぶりです!」
「イフリート様! 積年の恨みを晴らす時が!」
その言葉を聞いたイフリートは少し険しい表情になってアーチャーデーモンたちに言った。
「そうだな。あのミノタウロス、おれを出し抜いて大将になりやがって。実力はおれの方が上だってのによ!」
ボワッ!
イフリートは怒りをあらわにすると大きな炎の塊を出現させて話を続けた。
「きっとミノタウロスは魔王様に汚ねぇ賄賂でも渡してたに違いねぇ。じゃなけりゃ、このイフリートが大将になってるはずだろう? なぁ、そうだろう!?」
それを聞いたアーチャーデーモンたちは嬉しそうに答えた。
「そのとおりです、イフリート様!」
「間違いねぇ! 大将でしたぜ!!」
「ミノタウロスがなんだってんだ!」
アーチャーデーモンたちが歓喜すると、イフリートは満足したように言った。
「さて……。どうやら聞いた話によると、ミノタウロスと炎を使う魔導師が仲良くダンジョンの奥へ向かってるらしいな」
イフリートがそう言うと、アーチャーデーモンの1人が跪いて答えた。
「はい! その炎の魔導師は厄介かと。ヤツの炎の魔法は正確なうえに強力で……」
アーチャーデーモンがそこまで言うと、イフリートは瞬時に炎の槍を作り出して、そのアーチャーデーモンの首元に突きつけた。
「おい。炎の魔導師が厄介だと? バカにしてんのか? おれは炎を司る大精霊だぞ? このイフリートに厄介な炎なんて存在しないだろ? ああ?」
「ひっ!! イフリート様、お、お、お助けを!」
「ったくよぉ。言葉には気をつけろよ? 死にてぇのか」
「も、申し訳ございません!」
アーチャーデーモンが慌てて答えるとイフリートは舌打ちをして炎の槍を消した。




