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リッチは倒れているネクロマンサーたちの首に何の変哲もない細い麻のヒモを結びつけると、ネクロマンサーたちの顔を軽く叩いて目を覚まさせた。
ペチペチ
ペチペチペチ
「みなさん、起きてください。……ええと、起きてくれませんと、……燃やしちゃいますよ?」
リッチがそ言うと、ネクロマンサーたちは慌てて目を覚ました。
「や! やめて!」
「たすけて!」
「ごめんなさい!!」
するとリッチはウンウンと頷いて、ネクロマンサーたちを反抗させないために嘘をついた。
「みなさん、良く聞いて下さいね。みなさんの首には魔法のヒモを着けました。このヒモは私の強力な魔力が込められていて、引きちぎれば炎が全身を包んで即死します」
それを聞いたネクロマンサーたちは恐怖の表情を浮かべて静かに首のヒモを手で確認した。
その様子を見たリッチは説明を続けた。
「それとですね、もしみなさんがミノタウロスさんを操ったり、私に攻撃したりしたときも自動的にヒモから炎が吹き出しますので、ご注意くださいね。ご理解いただけましたか?」
リッチがそう言うとネクロマンサーたちは涙目になりながら静かに頷いた。
「わかった……」
「は、はい」
「分かりました」
「ご理解いただけたようですね。ちなみに、みなさんが階段を崩落させたということで正しいでしょうか。となれば、他に出口があるということでしょうか」
するとそれを聞いたネクロマンサーの1人がリッチに答えた。
「いえ、あれは……。しかし……」
「しかし?」
リッチが聞き返すと、突然横にいたミノタウロスがリッチに説明を始めた。
「簡単に話そう。このダンジョンに新しく出来た最深部は地上とつながっている。しかし最深部は私のようにネクロマンサー蘇らされた古参の魔族の巣窟になっているのだ」
「……。なるほど、そうでしたか」
「そして最奥には強大なネクロマンサー、ネイクがいる。私を蘇らせた張本人だ。ネイクは人間たちに監禁されているというネイクロとネイクラという孫を取り返すために魔族を蘇らせ、手下のネクロマンサーに操らせているのだ」
「えっ!? ネイクロさんとネイクラさんですか!?」
「なに? お主、知っているのか」
「はい。元ネクロマンサーのネイクロさんは、ひろしさん……、あ、ええと私の知人の元で干物の練習をしていますし、ネイクラさんはコラナッカ男爵の家に勝手に住み着いてお手伝いをしています。お2人とも監禁されてはおりませんが……」
「な、なんだと!? ではネイクが勘違いをしているのか!?」
「ええと……。そういう事になりますかね。ははは」
リッチが苦笑いをすると、近くにいたネクロマンサーの3人も自分たちの存在価値を全否定されたように感じてお互いに顔を見合わせた。
◆
その後、リッチは炎の壁を解除して子供たちと合流し、ミノタウロスを友だちという事にして「ミノおじさん」と紹介した。
そしてネクロマンサーの3人はダンジョンを探索していた冒険者という事にして、案内人として一緒に地上への出口がある最深部へと進むことにした。
◆
リッチとミノタウロスは子供たちを連れてお互いの事情を話しながら最深部へと進んでゆくと、1人の男の子が笑いながらミノタウロスに言った。
「ねぇ、ミノおじさん。お腹から何か出てるよ?」
それを聞いたミノタウロスは自分の腹を確認しながら慌てて答えた。
「お、おう! これは……、なんだろう。大腸かな? はっはっは、ちょっと出ちゃってたな!」
ミノタウロスはそう言いながら腹の外に出ていた大腸を腹の中に仕舞い込むと、今度は小さな女の子がミノタウロスに言った。
「ミノおじちゃん! お目々が片っぽブラブラしてるよ!」
ミノタウロスは慌てて自分の片目を確認すると、眼球が飛び出してブラブラとしていた。
ミノタウロスは慌てて眼球を戻しながら子供に言った。
「おっと! ちょっと、お目々が出ちゃってたね! さっき、クシャミしちゃったからかなぁ? はっはっは!」
ミノタウロスが必死に子供たちを怖がらせないように振る舞っているのを見たリッチは少し不思議そうに小声でミノタウロスに尋ねた。
「あのう……。ミノタウロスさんはネイクに蘇らされたとお聞きしましたが、スケルトンで蘇るのではなくて体があるのですね。しかもネクロマンサーは魔族も蘇らせるとは」
「いや、ネイクは特別だ。やつは魔族や肉体を持っていた精霊をも蘇えらせるという特殊能力を持っている。そしてネイクが魔族や精霊を蘇らせると、持っている魔力に比例して体が再構築されるようなのだ」
「おお、なるほど」
「私は魔力が少なく力で戦う魔族であったから、不完全な体になってしまったようだ。魔力のある者は体が完全なのだが……」
「そうでしたか……。しかしミノタウロスさんは魔族の大将という事でしたので少しだけ心配していたのですが、あなたが人間の子たちに優しくて安心しました」
それを聞いたミノタウロスはフッと笑うと静かに答えた。
「人間であろうと魔族であろうと、獣や鳥たちであっても子供たちは可愛い。私はそんな可愛い子供たちに優しくしてやりたい」
ミノタウロスはそう言って少しだけ恥ずかしそうにすると、リッチは嬉しそうな声色でミノタウロスに答えた。
「ミノタウロスさんは子供好きなのですね。きっとこの子たちもミノタウロスさんの事を好きになりますよ」
「それが本当ならば嬉しい限りだ。はっはっは!」
ミノタウロスがそう言った瞬間、ミノタウロスとリッチは異様な殺気に気づいて足を止めた。
「……」
「凄まじい殺気ですね……」
するとミノタウロスはリッチを制止してダンジョンの奥へと1人で歩み出た。
その様子を見ていた子供たちは屈託のない笑顔でミノタウロスに言った。
「ミノおじさん、どうしたの?」
「どっか行っちゃうの?」
「ミノおじちゃん!」
子供たちの声を聞いたミノタウロスは笑顔で振り返ると、優しく子供たちに言った。
「はっはっは! どうやら敵が来たみたいだ。だが、心配はいらないぞ。ミノおじさんは強いからな!」
ミノタウロスは力こぶを作りながら子供たちにそう言うと、小声でリッチに言った。
「リッチ殿。敵は恐らくベヒーモス……。ネイクが私と同じ牛の成れの果てを送り込んで来たようです。……ここは私が戦います。子供たちをお願いします。ベヒーモスとは因縁もあるゆえ」
それを聞いたリッチは魔法の杖を出現させて答えた。
「分かりました。この子たちは任せてください。必ず守ります」
ミノタウロスはリッチの言葉を聞くと肩の荷が降りたように笑顔を見せ、奥へと進んでいった。




