129
その頃、近くの森の中ではケイジャとキキエの決闘が始まろうとしていた。
ケイジャとキキエは距離を取りながら対峙し、ケイジャがキキエに静かに尋ねた。
「その首飾り……。お前はダークエルフの長の娘だな?」
するとキキエは表情も変えずに答えた。
「ええ、私はキキエ。そういうあなたも、その弓の紋章をつけていると言うことは、エルフの里を治める者ね?」
「ああそうだ。我が名はケイジャ。里を治める者だ」
「うふふっ……。こんなところでエルフの里を治める者と戦えるなんて……」
キキエが静かに笑うと、ケイジャは真剣な表情でキキエに尋ねた。
「1つ聞きたい。エルフの里のモーモの実が無くなった件について、何か知っているな?」
するとキキエはゆっくりと髪を掻き上げて答えた。
「ええ。私はヤジという人間の商人に嫁ぐ見返りに、エルフの里のモーモの実を全て奪うよう願ったの。これでもう二度とエルフたちは人間の鉄の鏃は買うことは出来ないわ」
しかしケイジャは少しポカンとした表情でキキエに答えた。
「ええと、キキエ……。ちょっと疑問に思ったのだが……。なぜ我らが二度と鉄の鏃が買えないと思ったのだろうか?」
それを聞いたキキエはニヤリと笑うと、ケイジャを指差しながら言った。
「あなたは知らないの? ヤジはモーモの実を全て奪って、わたしもそれを確認したの! わたしたちはエルフのモーモの実を全て奪ったのよ! 残念だったわね!!」
ケイジャはキキエの言葉を聞くと、少しだけ可愛そうになって優しく尋ねた。
「え、ええと……、キキエさん? モーモの実はまた少し待てば収穫できるんだけど……、知ってたかな……?」
しかしキキエはケイジャの言葉を聞くと、高笑いをしながら答えた。
「はーっはっは! それでも私を騙そうとしているつもりかしら! この世界では、動物も、岩場の鉱石も、川の魚でさえ、一度失われれば二度とは戻らないわ! そんな事も知らないのですか!?」
ケイジャはダークエルフの里が植物も育たない岩場だった事を思い出して、植物が実を付ける仕組みを話し始めた。
「ええと、キキエさん……。植物って知ってるかなぁ……」
◆
それから10分後。
キキエは植物の仕組みを知って愕然としながら子どものように泣いていた。
「あーあーあー! 私はそんな事も知らずに嫁いでしまったのかー! 植物というモノは何度も実を付けるだなんて知らなかったー!」
それを聞いたケイジャはキキエの背中をさすりながら言った。
「うむ。しかもエルフの里のモーモの木は温暖な気候のお陰で1年中実をつける……」
「あーん! なら、早く言ってよぉー! ダークエルフの里を出る時に『里の未来は私が守る……』なんて言って出てきちゃったのにー!」
するとケイジャはキキエの事が居た堪らなくなって優しく肩を抱いて言った。
「大丈夫だ。嫁いだって言ったって、口約束だろう? そんなもの破棄すればいいじゃないか」
しかしキキエは子供みたいな表情でケイジャに答えた。
「ううん。ダークエルフの宝玉、渡しちゃったし」
「ふぁっ!!??」
ケイジャが驚くと、キキエは涙を拭きながら再びケイジャに言った。
「ダークエルフの宝玉、ヤジに渡しちゃったの」
「はぁぁぁあああ!?」
ケイジャは驚くと、キキエの両肩を掴んでガクガクとキキエを揺すりながら尋ねた。
「おいおいおい! ダークエルフの宝玉があれば人間だって高等な魔法が使えちゃうんだぞ!? なんで渡しちゃうんだよ!!」
「だ、だって、長の娘が嫁ぐ時の習しだから……。でも、みんなは持っていかなくてもイイって言ってたけど、ケジメと思って勝手に……」
「はぁぁ!? 勝手に宝玉を持ってきちゃったのか!? お前は無駄に人間に嫁いだ挙句にダークエルフの宝玉まで渡したんだぞ! それじゃ、お前は完全に……」
しかしケイジャはそこまで言うと、キキエが目に大粒の涙を浮かべているのを見て、言葉を止めた。
そしてキキエの頬に手を当てると、やれやれといった表情でキキエに言った。
「まったく……。お前はバカ正直なダークエルフだな。いいか、お前が嫁いだ所で何も変わらない。こんなの婚約破棄するべきだ」
キキエはケイジャの言葉を聞くとウルウルと目を潤ませながらケイジャに言った。
「でも、宝玉渡しちゃったし……」
「そんなの取り返せばいい。お前はその人間のヤジというヤツに宝玉を渡したのだろう?」
「うん」
「そのヤジはどこにいる?」
「ええと、場所は分かるけど……」
「なら、今から行くぞ。案内しろ」
「え? 今から?」
「そうだ。今から宝玉を奪いに行く。それで婚約破棄だ」
「えっ! ええっ!?」
キキエが驚くと、その時ケイジャはたくさんのスケルトンの気配を感じ取ってキキエに尋ねた。
「キキエ。私たちを囲んでいるスケルトンたちは、お前の仲間か? さすがに勝てそうにもない数がいるが……」
するとキキエもスケルトンたちの気配を感じ取って小声で答えた。
「あのスケルトンの気配は知ってる……。ヤジの屋敷にいるスケルトン……。もしかしたら私を連れ返しに来たのかも……」
「そうか。じゃあ、もう一度聞く。お前は人間の商人に宝玉を渡して嫁いだ事が失敗だったと思っているんだな?」
「うん……」
「ならば、ここから逃げるぞ。そして宝玉も奪い返す」
「えっ、宝玉も……? どうやって?」
「いいから来い! それは後から考える。今は逃げるぞ!」
ケイジャはそう言うと、キキエの腕を掴んで森の奥の方へと走り出した。
そしてケイジャは走りながら鏑矢を番えると、逃げる予定の方角の空へと向かって鏑矢を放った。
ヒョォォォオオオ……
「頼むマルちゃん、助けに来てくれ……」
ケイジャは小さく呟くと、キキエを連れて森の奥へと逃げていった。




