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―― 夕方 ――
マルちゃんたちはワブとヤナも連れてリムリンの街に到着すると、突然エルフのケイジャが声を漏らした。
「これは……、ジャスコウの香り……。まさか……」
それを聞いたマルちゃんは不思議に思いながらケイジャに言った。
「ジャスコウ? それって、ダーク・エルフがつけてるっていう匂いだよな?」
するとケイジャは鼻をヒクヒクさせながら答えた。
「そうだ、間違いない。ダーク・エルフが通ったようだ」
それを聞いたイケオジも鼻を動かすと、少し遠くを見ながら皆に言った。
「ワブの血のにおいも微かにするな。おそらくワブと戦った相手に付着した返り血……。そしてジャスコウのにおいも同じ方角から流れてくる」
ケイジャはイケオジの言葉を聞くと、眉間にシワを寄せながら呟いた。
「そうか……。繋がったぞ……」
マルちゃんはケイジャの言っていることが分からなかったのでケイジャに尋ねた。
「繋がったって、何が?」
ケイジャは険しい表情で答えた。
「我らエルフとダーク・エルフはかつて仲良く暮らしていた。しかし、我らがモーモの実と引き換えに人間の街で鉄の鏃などを購入し始めると、敵対してきてな」
「え? なんで?」
「おそらくダーク・エルフは我らエルフが人間から得た強力な『鉄の鏃』という武器を脅威だと思ったに違いない」
「え、そうなの? でも、そのダーク・エルフだって人間から鉄の鏃を買えばよかっただけの話じゃないの?」
「いや。我らは運良く人間が欲しがるモーモの実を売ることができた。しかし、ダーク・エルフたちは岩場に住み、人間が欲しがるものを持っていない」
「あー、なるほど。だからダーク・エルフもモーモの実を……」
マルちゃんがそこまで言うと、再びメチャツが感心したようにマルちゃんに言った。
「マルちゃんさん、その通りです。ですから我々が探すべきは、リムリンの街でその大きな取引を取り仕切っている組織となるのです」
しかしマルちゃんはメチャツの言っている意味が分からず再び日和った。
「そ、そそ、その通りだなメチャツ! だ、だけどさ、メチャツが言っている意味が分からないヤツもいるかも知れないから、ええと、その、皆に説明してやってくれないか?」
マルちゃんはただ単にダーク・エルフがエルフからモーモの実を奪って鉄の鏃を買いたかったんだろうなぁ……、という軽い気持ちで考えていたので、冷や汗を流しながらメチャツに振った。
メチャツはマルちゃんの言葉にうなずくと、皆に説明し始めた。
「ダーク・エルフはエルフからモーモの実を奪って鉄の鏃を減らしたい。そして、モーモの実を王族に献上して太い繋がりを持ちたい組織の存在。その両者の利益は一致しています」
メチャツはそう言うと腕を組んで説明を続けた。
「とすれば、その組織にダーク・エルフが加担している可能性があります。ワブさんの血の匂いとジャスコウの匂いが同じ方角から来るのならば、そこが拠点かと」
そこまで聞いた元兵士の仲間たちは合点がいったように口々に言った。
「なるほどな! そういうことか!」
「なんだ、そこへ行けば良いんだな」
「案外あっさり見つかるもんだな!」
しかし、マルちゃんはやっぱり意味がわからずメチャツに尋ねた。
「あ、え、ええと、メチャツ……。じゃあ単純に、においのする方へ行けば良いのか? でも、そんなに簡単なものなのか?」
マルちゃんがそう言うと、メチャツはハッとした表情でマルちゃんに言った。
「さ……、さすがですマルちゃんさん……。僕はなんて愚かなことを……。敵はすでに我らを察知していたか……」
メチャツは眉間に人差し指を立てて反省したように考え込んだが、マルちゃんは意味がわからず動揺した。
「え? え? メチャツ、どういう事?」
それを聞いたメチャツはマルちゃんに答えた。
「……申し訳ございません。どういう事? と叱責を受けても仕方がない提案をしてしまいました……。わざわざ意図的に残されたジャスコウの匂いを追跡するなど、敵の術中に自ら飛び込むようなものでした……」
するとメチャツはマルちゃんにひれ伏して話を続けた。
「マルちゃんさん、僕は少しマルちゃんさんを軽く見ていたかもしれません! さすがは国王として生まれし者! どうか、我らにご指示を!」
ひれ伏すメチャツにドン引きしたマルちゃんだったが、そこに居た全員が少しだけ尊敬の眼差しでマルちゃんの回答を待っていたのが分かった。
しかし、マルちゃんはメチャツが言っていた事がまるで分からなかったので、苦し紛れに皆に言った。
「と! とにかく! 匂いのする方へ行こうぜ!」
するとそれを聞いたワブは両手を挙げてマルちゃんを称えるように言った。
「さすがは国王陛下! メチャツ殿が警告したにもかかわらず正面突破とは! それでこそ我らが国王! このワブ、誇りに思いますぞ!!」
そしてケイジャも、はにかんだ笑顔を見せながら少し頬を赤らめてマルちゃんに言った。
「お前、ダーク・エルフの罠に正面から戦いに行こうなんて、なかなかの男前じゃないか。その心意気、嫌いじゃないぞ」
さらにメチャツもひれ伏しながらマルちゃんに言った。
「僕が間違ったにもかかわらず、僕の名誉を気遣って頂いたのですね……。わかりました。そのご厚意、僕の全身全霊、そして全魔力を持ってお答えしましょう」
メチャツはそう言って全身に魔力を滾らせながら立ち上がると、仲間たちも拳を握りしめてマルちゃんにうなずいた。
しかしマルちゃんは、メチャツたちの言っている事が全く分からず、ただただ動揺しながら答えた。
「お、おう! と、とと、とにかく、匂いのする方へ行こうぜ!」
「「おおぉぉぉぉおおお!!!」」
こうしてマルちゃんは意味も分からず尊敬され、全員で匂いのする方へ正面突破することになったのだった。




