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その頃マルちゃんたちは、ワブが馬で村を出ていったという話を聞き、ヤナも連れて村から東へ馬を走らせていた。
すると突然イケオジがみんなに言った。
「新鮮な血の匂いがするな。それもかなり新鮮な……」
それを聞いたマルちゃんは笑いながらイケオジに言った。
「おいおいイケオジ、なんか美味いモンでも見つけたみたいに言うなよ。ヴァンパイアじゃないんだから」
「お、おお。すまん。だが、これは間違いなく人間の血の匂いだ。ワブに何かあったのかもしれん。急ごう」
マルちゃんたちはイケオジの言葉に頷き、馬を急がせた。
◆
その頃、拘束していた魔道具が外れたワブは傷を負った体で馬に乗っていた。
しかもなんと、村に引き返すのではなく、モーモの実を持ち去った幌馬車を追って東へと馬を走らせていた。
「はぁ、はぁ、はぁ。先代王の勅命を受けた騎士の栄誉を汚してなるものか……。エヴォとやらには不覚を取ったが、2度は負けぬ!」
しかし出血をしながら無理をしたワブは、徐々に意識が薄れてゆき、馬も足を緩めた。
そして馬は完全に足を止めると、ワブはそのまま馬の背で気を失ってしまった。
するとその時、後ろから追いついてきたマルちゃんたちがワブを見つけて馬を急がせた。
「おい! 爺さんいたぞ!」
「生きてるか!?」
「ヤナ、急いで回復魔法をたのむ」
「はい!」
こうしてワブはマルちゃんたちによって救われたのだった。
◆
しばらく後、ワブは大きな木の木陰で目を覚ました。
「はっ!! モーモの実は!?」
するとすぐ横に居たヤナがワブに抱きついた。
「おじいちゃん! 良かった!」
「くっ! モーモの実を取り戻さなければ!!」
しかしワブがヤナを振り払って立ち上がろうとすると、その様子を見ていたマルちゃんがワブに言った。
「おいおい、待てって。ヤナちゃんが助けてくれたんだぞ。まずはお礼をするべきだろ」
ワブはマルちゃんの言葉に我に返ると、マルちゃんに一礼して、心配そうに見つめるヤナに言った。
「礼を言うぞヤナ! お前のお陰で死なずに済んだ。これでまた国王陛下の任務を再開できる!」
それを聞いたマルちゃんは少し呆れたように声を漏らした。
「いやいや、もっと優しい言葉があるだろうよ……」
しかしその言葉を聞いたヤナは笑顔をこぼしながらマルちゃんに言った。
「いえ、おじいちゃんはこういう人なので。こうして元気なおじいちゃんを見られただけで嬉しいですから」
「そっか。ヤナちゃん、ほんと良い娘だなぁ……」
マルちゃんが感心していると、横で見ていたメチャツが不思議そうにワブに尋ねた。
「ワブさん。爪先が折れていたようですが、大丈夫なのでしょうか?」
メチャツの言葉にワブは折れていた爪先を動かしながら答えた。
「うむ。全く問題はないようじゃな」
「おお……。さすがはハイランド人の回復魔法……。骨折まで治癒できるのは魔族の治癒魔法だけだと聞いていましたが、これは新しい発見ですね……」
するとその時、ワブが突然大声を上げた。
「あああ! 国王陛下!! モーモの実を持ち去った犯人を見つけたのです! そして奴らはリムリンへ行くと言っておりました!!」
マルちゃんは突然の大声に驚いたが、ワブの報告にも驚いてワブに聞き返した。
「そ、それは本当か!?」
「はい! 少し手前の教会の地下に、氷魔法で作った氷室がありました! 奴らはそこへモーモの実を隠していたようです! そして、先ほどモーモの実を持ってリムリンへ向かうと!」
「リムリンか……。そっか……。リムリンね……」
マルちゃんは少し気が乗らないように声を漏らすと、それを聞いたイケオジが不思議に思って小さい声でマルちゃんに尋ねた。
「どうした? 行きたくないのか?」
するとマルちゃんはワブに聞こえないように少し離れてイケオジに答えた。
「いや……。まぁ、この身分だから全然会うことは無いと思うんだけどさぁ」
「うん?」
「たぶんこの時期、マコがリムリンに居ると思うんだよね」
「マコ? ほう、マコ王のことか」
「そうそう。ちょうど今頃は収穫祭の時期で、王族がリムリンに滞在する習わしなんだよ。たぶんマコも続けてると思うんだよなぁ……。まぁ、会っちゃっても良いんだけど、何か気まずいような……」
「ふっ。我ら平民が王族に会うことはあり得ぬだろうな。心配するなマルちゃん」
「だな、そうだよな」
マルちゃんは気を取り直すと、胸を張ってみんなに言った。
「とりあえずリムリンに向かおう! ちょうど収穫祭の最中だしな!」
それを聞いたメチャツは素早く察してマルちゃんに言った。
「さすがはマルちゃんさん! 素晴らしい洞察力です!」
「え? あ、お、おう。そ、それを理解できるとは……、さすがはメチャツだな……」
マルちゃんはとりあえず収穫祭を楽しみながら地道に手がかりを探そうと思って発言したが、メチャツの意見のほうが正しそうだったので日和った。
するとメチャツは感心したようにマルちゃんに言った。
「おそらく犯人は数日にわたって集めたモーモの実を教会の地下で冷やして鮮度を保ったまま在庫を確保。そして必要な日が来たら大量のモーモの実を一気にリムリンへ輸送したのでしょう。なかなか巧妙ですね」
「う、うむ」
「そして今はリムリンの収穫祭。マルちゃんさんは、あのモーモの実が収穫祭で身分の高い者たちへ振る舞われるとお察しになったのですね」
「ええっ、そうなの!? あ、いや、そ、そのとおり……、だな。さすがはメチャツだ」
「この計画をした犯人は身分の高い者たちから利権を得たい者に間違いありません。そうなると敵は思いのほか大きな組織かもしれませんね」
「そ……、そうだな」
「その上、精霊への貢物を持ってきたと嘘をついていたという事は、村の人々が精霊を大切にしていると知っていたはず。それにも拘わらず湖のモーモの実を奪うとは、よほどの悪党」
「大きな組織の……。悪党……?」
「それを察しながらも戦いを挑む……。さすがは元国王。やはりご自身が統治していた国を今でも愛していらっしゃるのですね」
「えっ? いや、ええと、も、もも、もちろんさ! あ、ああ、愛しているに決まっているだろ?」
マルちゃんは硬直した笑顔で答えた。




