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マルちゃんたちが偽りの自己紹介を終えると、イケオジが小声でマルちゃんに耳打ちした。
「マルちゃん。この家にはしっかりとした作りの金属製の鍋や高度に織られた布がある。少し気になることをあの少女に尋ねたいのだが、ワブだけを外に出すことはできないか?」
「えっ? あの爺さんだけを?」
「ああ」
「……ううん」
マルちゃんは少し考え込むと、再び姿勢を正してワブに言った。
「ワブ。お主を勅命を受けた騎士と見込んで頼みがある。引き受けてくれるか」
するとそれを聞いたワブは姿勢を正して敬礼をしながら答えた。
「はっ!! 何なりとお申し付けください!!」
「この村を幌馬車が通ったと聞いた。知っているか?」
「はっ! リムリンから精霊様への貢物を持ってきたと言っておりました!」
「そうか。実はわたしはその幌馬車が怪しいのではないかと考えている。幌馬車について村の者たちから情報を聞き集めてくれないか?」
「はっ! お任せくださいませ!」
ワブはそう言うと走って家の外へ飛び出していった。
するとすぐさま、イケオジが家に残された少女に尋ねた。
「そういえば、名前をまだ聞いていなかったな。名前は?」
「はい。ヤナです」
「教えてくれてありがとう。ではヤナ、お前の両親は出稼ぎに出ているのではないか?」
それを聞いたヤナは少し下を向いて静かに答えた。
「はい……」
「それはリムリンの街だな?」
「……はい」
「では、リムリテイル王国が滅びた事は親から聞いているな」
「……はい、聞いています。今、この村はマデマメヤ国のマコ王様が統治している事も知っています」
「……そうか。お前は優しいのだな。祖父のために……」
「いえ、おじいちゃんは私にとても良くしてくれますから。私もおじいちゃんの誇りを嬉しく思っているんです。あの古い鎧も先代王様から頂いたおじいちゃんの誇りで、毎日あの鎧を着て村の周りを警備しているんです」
「なるほど。それで1人で村の外に居たのか……」
「はい。でも、そのおかげで狼や熊も村に近寄らないので、村の人たちはおじいちゃんに感謝をしていて、リムリテイル王国が滅びた事も言っていないんです」
「なんと優しい村の人々なのだ……」
するとその時、メチャツが我慢しきれずにヤナに尋ねた。
「も、申し訳ないです! 僕にも教えてもらえませんか?」
「あ、は、はい」
「お祖母様から魔法を教わったと聞きましたが、睡眠魔法の他には何か教わりませんでしたか?」
「あ、ええと、はい。筋力強化と、回復魔法を……」
「おおお、さすがハイランド人の魔法ですね! 人体の能力に影響を及ぼす禁忌の魔法! ぜひ僕に筋力強化の魔法をかけてくれませんか!」
しかしヤナは骸骨姿のメチャツを見て何と答えてよいのか分からず困ってしまった。
それを見たマルちゃんはメチャツを軽く肘で小突きながら言った。
「おいおい! メチャツは骨しか無いんだから筋力強化も何もないだろっ! 筋肉、ないじゃないか」
メチャツはその言葉にハッとしながら少し恥ずかしそうに声を漏らした。
「そ、そうでした……。僕に筋力強化の魔法をかけたところで、何が強化されるのやら……」
「はっはっは! まぁ、そう落ち込むなってメチャツ。だったら、わたしに筋力強化の魔法をかけてもらえば良いんじゃないか?」
「あっ! それは興味あります! ぜひ観察したいです!」
メチャツは嬉しそうにして、ヤナにお願いした。
「ヤナさん。では、僕ではなく、マルちゃんさんに筋力強化の魔法をかけてもらってもいいでしょうか」
「あ、はい。それなら……。ですが、この魔法は習っただけで実際に使ったことがないのです。なので少し怖いというか……」
しかしそれを聞いたマルちゃんは嬉しそうにヤナに言った。
「でも、その魔法をかけると筋肉が強化されて強くなるんだよな?」
「はい、そのように聞いています」
「じゃあ、その魔法かけてみてよ! わたしも筋肉隆々になって男らしくなってみたいし!」
「……はい、わかりました。では、やってみます」
ヤナは返事をするとマルちゃんに筋力強化魔法をかけた。
「イディヒ ルディヒ メディヒ ルゥ。 バビディ ビビディ ダビディ ドン!」
ボワァァアアア……
するとマルちゃんの体は光り出し、マルちゃんは体の奥から力が溢れ出してくるのを感じた。
「おおおお!! こっ、これは凄いぞぉぉぉおお!!!」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!
マルちゃんの髪はどんどんと金色に変わって逆立ち、そして全身の筋肉が一気に肥大して服を破り捨てると、それを見ていた仲間たちは驚きを隠せずに声をあげた。
「おお! やべぇぞマルちゃん!」
「すんげぇマッチョじゃねぇか!」
「こりゃムキムキ王の誕生だぜ!」
「ほう、まさかこのような……」
「おぉ! このように作用するのですね! 素晴らしい!」
「この類の魔法は初めて見ます……」
しかしその瞬間、
「ぎゃぁぁああああ! 痛たたたたたたた!!」
突然マルちゃんは頭を抱えながら床をゴロゴロと転がり始めた。
そしてなんと体のあちこちから血を吹き出し始めた。
「体が! 体が痛いよぉぉぉおおお!!!」
ゴロゴロゴロゴロ……
その様子を見ていた仲間たちは驚きながら声をあげた。
「おいおいおい! マルちゃんヤベぇぞ!」
「ってか、耳からも血が出てんだけど!」
「いやいや、このままじゃ死んじまうぞ!」
「お、おい! マルちゃん大丈夫か!」
「ヤナさん、魔法の解除はできますか!?」
メチャツの言葉で我に返ったヤナは慌てて回復魔法をかけて傷を癒し、そして筋力強化魔法を解除する詠唱を唱えた。
「ヒイデ フルデ ラメデ ルゥ。 ディバ ディビ ディダ ダン!」
スゥゥ……
「ぐはぁ……」
魔法を解除されたマルちゃんはグッタリと床に転がると、血まみれの顔でメチャツに言った。
「あの魔法……、ダメ、ゼッタイ……」
マルちゃんはそう言い残すと気を失った。




