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その頃、おじいさんたちが滞在するベベの村を含め、辺境地域を統治しているヤクウィー辺境伯は頭を抱えていた。
というのも、仕えている王宮からはベベの村を支配して回復薬を買い占めるように言われているものの、ベベの村の後ろ盾になっている強大な反発勢力も知っていたからである。
強大な反発勢力とは腐敗した王族の政治に反発する「貴族連合」で、公爵や侯爵も名を連ねるほどの大連合だった。
貴族連合は王族が回復薬を買い占めることを恐れ、ヤクウィー辺境伯に圧力をかけていたのだった。
ヤクウィー辺境伯は邸宅の自室でブツブツと独り言を呟いていた。
「ああ……、私はどうすれば……。それにしても、どうしてあんなにも回復薬を量産できる? レシピは簡単だが成功率は僅か。やはり噂の魔道士が……」
ヤクウィー辺境伯はおばあさんがゲームの世界で獲得した調合スキルが役に立っている事は知る由もなく、魔法の力だと思い込んでいた。
ヤクウィー辺境伯は、今度は自室をウロウロと歩き始めると眉間にシワを寄せながら呟き続けた。
「だが、このまま何もしなければ王宮から圧力が…。いやしかし、王宮の指示に従って村を支配すれば、間違いなく貴族連合から傭兵団が……」
コンコン……
するとその時、扉を叩く音が響いた。
それを聞いたヤクウィー辺境伯は少し我に返ると、冷静になって扉を叩いた者に言った。
「誰だ」
「父上。エルジョルートでございます」
「おお、息子よ。入るが良い」
「はっ」
ガチャ……
エルジョルートは部屋に入ると、姿勢を正して話し始めた。
「父上。失礼とは思いながらも扉の向こうで父上の言葉をお聞きしておりました」
「なっ……」
「父上、ここはベベの村を支配すべきかと」
「……。いや、だが貴族連合が黙っていない。傭兵団をよこし、わがヤクウィー兵団を壊滅させた上、ベベの村を開放するだろう。そうなれば当家は……」
「はい。当家の兵力は200あまり。傭兵団を送り込まれれば一溜りもありません。ですがもし、当家の兵を貴族連合の傭兵団と偽って村を支配したら……」
「なに?」
「村は貴族連合の傭兵団に襲われたよう見えます。そこでその事実を伝える使者を王宮と貴族連合へ派遣します。そうなればまず、王宮はどう動きますでしょうか、父上」
「ふむ。王宮は貴族連合にベベの村を取られたと思って騎士団をベベの村へ進軍させるだろうな」
「その通りです。では、貴族連合はどう動くでしょうか」
「高潔を気取る貴族連合の事だ。名誉を汚されたと考えて傭兵団をベベの村に送るだろう」
「はい。そうなれば王宮の騎士団と貴族連合の傭兵団はベベで直接対決となります。当家の兵はその前に村を脱出します」
エルジョルートはそう言ってニヤリと笑うと、ヤクウィー辺境伯は息子の策に少し胸をなでおろしながら言った。
「なるほど。直接対決となってくれれば当家はベベの村の問題に関わらなくて済むようになるな。だが、そんなにタイミングよく騎士団と傭兵団が蜂合わせるだろうか」
「それは簡単です。王宮からの騎士団はベベの村まで約2日。貴族連合の傭兵団には当家の使者を道案内として先導させ、回り道をしながら時間を調整します」
「おお、それなら大丈夫そうだな。傭兵となれば、この地域の地理には詳しくないはず。道案内は必要になるだろう」
「はい。これで父上の悩みはお消えになるでしょう」
「おお……。私はなんという優秀な息子を持ったのだ。感謝するぞエルジョルート。お前は次男だが、当家を継がせることも考えなくてはならないな」
するとエルジョルートは片膝をつきながら答えた。
「勿体無いお言葉です。ですが、土いじりばかりしている兄上よりはお役に立てるかと。さあ父上、ベベの村に今すぐ兵を出しましょう。私が指揮を執ります」
エルジョルートはそう言うと不敵な笑みを浮かべた。
―― 夜 ベベの村 おじいさんたちの家 ――
哲夫と和代と合流したおじいさんたちは、家の居間で楽しく談笑をしていた。
「いやぁ、商売を始めてしまったら時間も忘れて楽しくなってしまいましてな。ははは」
哲夫がそう言うと和代も少し恥ずかしそうに言った。
「まさか、死んでからも夫婦で商売できるなんて。うふふ」
2人の嬉しそうな表情を見たおじいさんはも釣られて笑顔になったが、おじいさんは少し気になって2人に尋ねた。
「ところでお二人も大天狗様に?」
「はい、大天狗様に私の商才を存分に振るってほしいと頼まれましてね。いやぁ、大天狗様もよく分かっていらっしゃる。はっはっは」
「哲夫さん、すっかり煽てられてその気になっちゃって。それに、みなさんがいらっしゃるって聞いたものだから、すぐに行くだなんて言い出して」
二人の相変わらすの仲睦まじさを見たおばあさんは、笑顔で哲夫に言った。
「でも、やっぱり哲夫さんだわ。今日の売上はいつもの1.5倍だそうよ」
それを聞いた哲夫は嬉しそうに答えた。
「いやぁ、1.5倍でしたか。出だしとしてはまずまずですね。しかし、村で情報を集めましたら、回復薬は専売のようですね」
黒猫は哲夫の言葉を聞くと、スッと背筋を伸ばして進言した。
「哲夫殿。回復薬は他の場所では少量しか作れません。しかしこの村では洋子殿の調合スキルによって大量に作られますので、この村の専売に近いかと」
「ほう、専売ですか」
哲夫は表情を少し険しくした。




