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その頃、マルちゃんたちがいる西の外れの難民の町ではイケオジが狭い自分の部屋で腕に嵌められたブレスレットを見つめながら呟いていた。
「魔王エヴめ。こんなブレスレットで私の力を封印するとは……」
しかしイケオジは笑みをこぼすとベッドに腰を降ろしながら笑った。
「ふっ。しかし、皇帝だった者が農夫に成り下がるとはな。だが、なんと平和で充実した日々か。朝起きて畑を耕し、夕方には皆で酒を飲んで笑い合う。こんな日常があったとは」
イケオジはベッドに寝転がると、優しくしてくれた町の人達を思い出しながら目を閉じた。
「仲間たちに酒場のみんな、私が追放したリッチまでもが私に優しくしてくれる。……そうだ、朝、卵をくれた隣の家の男の子には驚いた。2つしか持っていないのに1つを私にくれるとは……」
イケオジは薄い掛け布団を引っ張り上げると、横を向いて眠りにつこうとした。
「この町の人たちには感謝が絶えない。弱くなって初めて分かる感情だ。この町の人たちには幸せになって欲しい」
イケオジはそう言って静かに笑うと、突然、町の危機を知らせる鐘が鳴り響いた。
カンカンカンカンカン!!
バッ!!
イケオジはその音に飛び起きると、鐘のある櫓から男が大声で叫んでいた。
「みな逃げろー! スケルトンが来るぞー!! 逃げろーー!!」
その声を聞いたイケオジは部屋から走り出た。
◆
イケオジが町の大通りまで走り出ると、不格好な鎧を装備したマルちゃんとゲゲロっち、そして元兵士の仲間の3人と輝く魔石を首からさげたリッチ、さらにはメチャツが戦闘準備を整えていた。
その時、走ってき来たイケオジを見つけたマルちゃんが笑いながらイケオジに言った。
「おおイケオジ、お前も来たのか。けど、ここは任せてイケオジは町の人たちを避難させてくれよ」
「大丈夫なのか!?」
「ああ! この間の狼に懲りて中古の鎧と剣を買っといたんだ。リッチとメチャツに魔法で戦ってもらて、抜けてきたスケルトンを剣を使える仲間で抑える作戦だ。イケオジはとにかく避難してくれ!」
それを聞いたイケオジは魔王エヴのブレスレットを睨みつけながらマルちゃんの言葉に答えた。
「わかった。だが、くれぐれも気をつけてくれ」
「ああ! まぁ、私が死んだら墓に一杯供えてくれよ! もちろん酒場で一番高いやつな!」
イケオジはマルちゃんの言葉に少しイラつきながら答えた。
「死んだら墓に小便をしてやる! だから生きて帰ってこい!」
それを聞いたマルちゃんはペラペラで傷だらけの中古の盾を構えながら笑って答えた。
「そうだな、小便プレイはゴメンだからな! じゃあ生きて帰るから一杯おごってくれよ!」
マルちゃんはそう言うと、兜の面を下げて迫りくるスケルトンたちへゆっくりと歩いていった。
◆
その頃、スケルトンたちの侵攻を見ながらリッチとメチャツは迫りくるスケルトンたちを分析していた。
「メチャツさん。あのスケルトンの軍勢はやはり……」
「間違いなくネクロマンサーの兵ですね」
「しかしスケルトンの数はそれほどでもありません。首尾よく戦えば切り抜けられそうですね」
「はい。スケルトンはざっと100。しかし、先頭にいる黄色い布を首に巻いているのはバブロオだと思われます。そこが厄介ですね」
「バブロオ!? あの教科書に載っていた黄色の破戒僧バブロオですか!?」
「ええ、私と同じ時代に生きていました。バブロオは僧侶として最高位の防御魔法と回復魔法を体得しながらも、魔族と契約して魔族の攻撃魔法を体得した破戒僧。後世で教科書に載っていたとは……」
「メチャツさん。と言うことはスケルトンの兵もバブロオの回復魔法で回復するのでしょうか」
「はい。バブロオは魔族との契約によってアンデッドをも回復します。ですのでスケルトン兵を一撃で倒せるような強力な全体魔法が有効です。しかし、バブロオを倒しておかなければ防御魔法で防がれてしまうでしょう」
「なるほど、今回はなかなかの相手ですね」
「はい」
メチャツは今まで持ったことのなかった魔法の杖を出現させてクルリと回すと、リッチに言った。
「リッチさん。バブロオの防御魔法は単体の属性魔法では破れません。リッチさんのヘルファイア・アンド・ブリムストーンと僕の雷魔法を合わせてみましょう」
「わかりました。今、私の魔力と首飾りの魔力を使えばかなり強力な一撃を放てます」
リッチがそう言うと、メチャツは不思議に思ってリッチに尋ねた。
「リッチさん、その首飾りからは膨大な魔力を感じますが、それは……」
「これは私の師匠ともいうべきダリンダさんという方から頂いたものです。この首飾には膨大な魔力が込められていたのですが、なぜか全て使った後も毎日魔力が増えるのです」
「おお、そのような貴重な魔道具を」
「はい。毎日魔力が増える理屈はわかりませんが、今は準備万端です」
「わかりました。ではバブロオの防御魔法に挑みましょう」
「はい!」
リッチは魔法の杖を構えた。
◆
その頃、魔王エヴから逃げた英雄の剣聖は、なんと重装備兵と魔術師団が残る元ガンデロ帝国の城に忍び込んでいた。
そこは魔王エブと補佐役のアカネが拠点としている城だった。
英雄の剣聖は見つからないように馬を走らせて城の地下から忍び込み、アカネが留守番をしている謁見の間の手前までやって来ていた。
「ふっ。やはりシーフの能力は役に立つ。私が剣聖と呼ばれたのも、皆が予想もしていないシーフの技と剣技の合せ技だったからな」
英雄の剣聖はそう言いながら謁見の間に見事忍び込むと、玉座で寝ているアカネを見つけて笑いながら呟いた。
「なんだあの女は。玉座で眠るとは、なんと恥知らずな」
英雄の剣聖は玉座の後ろから玉座に忍び寄ると、いびきをかいて寝ているアカネを見て落胆しながら呟いた。
「なんと、だらしない寝顔なんだ。魔王の側室か?」
英雄の剣聖はそう言いながら静かに剣を抜くと、アカネの首をめがけて剣を振り下ろした。




