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―― 日没前、元ガンデロ領、ミナミの村近く ――
魔王エヴと骨パン、近衛騎士団、騎士団は、王宮を守る重装備兵団と魔導師団を残して、ミナミの村の近くまでやってきていた。
魔王エヴは双眼鏡で村の状況を覗くと、村にはまだ村人たちが暮らしていて、1人のネクロマンサーと思われる人物が屍の熊を従えて指示しているのが見えた。
魔王エヴは側にいた骨パンに相談した。
「骨パン殿。村にはネクロマンサーが居るようだ。熊を3頭従えているように見える。村人はそれに脅されて働かされているようだがどう思うか」
すると骨パンは村のほうを見ながら答えた。
「もしそれが本当ならば、我らが攻め込んでも村人を人質にとって抵抗するだろうな」
「うむ。それでは村人に被害が及ぶな」
「ならばオレが帰ってきたふりをしてネクロマンサーを騙し、屍の熊たちをこちらに連れてこよう。そしてここで倒せば問題ない」
「おお、それは名案だ。頼む」
「任せておけ」
骨パンは村の入口に向かって歩き出すと、それを見た近衛騎士団長が骨パンを止めた。
「パンチ殿。魔王殿はあなたを味方だと言ったが我らは信じていない。パンチ殿もネクロマンサーが蘇らせた屍。ネクロマンサーの近くに行って寝返るのではないのか」
しかし骨パンはアゴをカクカクと鳴らして笑いながら答えた。
「はっはっは! 信用がないのは仕方がない。しかし信用しろとしか言えぬ。他に良い方法があるのか?」
「……」
近衛騎士団長は黙り込んでしまうと、骨パンは近衛騎士団長に理解を示すように言った。
「お前がオレを信用できない気持ちは分かる。だが、オレはネクロマンサーの手下ではない。まあ見ていろ、オレはあのネクロマンサーを騙して熊たちを連れてくる」
すると近衛騎士団長は会釈をして骨パンに言った。
「分かった、信用しよう。よろしく頼む」
それを聞いた骨パンはスッと右手を差し出して近衛騎士団長に握手を求めた。
近衛騎士団長はそれに驚いたが、骨パンの紳士的な態度を信頼して握手をした。
◆
ミナミの村のネクロマンサーは屍の熊3頭を操って村人たちに強制労働をさせていた。
「おい! 熊に殺されてぇのか! 殺されたくなかったら働け!!」
ネクロマンサーは大声をあげて村人たちを強制的に働かせていると、そこへ骨パンがやって来てネクロマンサーに声をかけた。
「お前はネクロマンサーだな。オレはネクロマンサーに蘇らされた英雄だ。道に迷ってここまで来てしまった。皇都にはどうやったら帰れるのだ」
その声を聞いたネクロマンサーは突然ヘコヘコしながら骨パンに答えた。
「え、英雄様ですか!? お、驚きましたよ、このな辺鄙なところに英雄様がいらっしゃるなんて。道に迷われたのですか?」
「うむ。稽古をしようと森に入ったら道がわからなくなってしまってな。……そうだ。話は変わるが、村から人々があちらの方角へ向かって逃げているように見えたが火事でもあったのか?」
それを聞いたネクロマンサーは慌てて聞き返した。
「それは本当ですか!? あちらの方向ですか?」
「うむ。あちらだ」
「くそ、あいつら逃げるつもりか! 逃さねぇぞ!」
ネクロマンサーは熊を3頭、骨パンの指差すほうへ走らせ、ネクロマンサーも熊を追いかけていった。
◆
その頃、進軍してくる英雄のスケルトンたちの動きを偵察してきたガーゴイルは、その状況をマコ王に報告していた。
マコ王は、状況を把握するとガーゴイルに尋ねた。
「ガーゴイルよ、状況は理解した。しかし、そのスケルトンたちだけで我が国への進軍が終わりということはなさそうだな」
「かもしれません。一国へ攻め込むにしては数が少なすぎます」
「そうだな。ではまずマツリ王とデウ王に連絡だ。動かせる兵を前線へ送り守りを固めろと伝えてくれ」
「はい」
「そしてメロナッカ王には兵站(戦いのための食糧)を用意させ、ヤクウィー王にも北へ進軍するように伝えてくれ。コラナッカ男爵はヤクウィーの兵と合流するよう、伝達鳥を出す」
「はい」
「では頼んだぞ」
「承知しました」
ガーゴイルはマコ王の部屋から出てテラスへ出ると、素早く羽ばたいていった。
◆
その頃、ミナミの村ではパンチがネクロマンサーを取り押さえ、近衛騎士団長と騎士団長が屍の熊を軽々と倒していた。
パンチはネクロマンサーを取り押さえながら近衛騎士団長と騎士団長の鮮やかな剣さばきを見て思わず声をあげた。
「おお。お前たちは、なかなかの手練れではないか。事が収まったら手合わせ願いたいぞ」
それを聞いた近衛騎士団長は剣を納めながら骨パンに答えた。
「パンチ殿、是非お願いしたい。……それと、先ほどは疑って申し訳なかった。だが私も近衛騎士団を率いる身。我が近衛騎士団を思うがこその事だとご理解願いたい」
「はっはっは! オレも兵を率いていたから気持ちは分かる。心配するな!」
骨パンがそう言って笑うと、その隙を見て取り押さえられたネクロマンサーは骨パンを全力で振りほどいて逃げ出した。
タタタタタタタタ……!
しかし骨パンは笑いながらネクロマンサーに言った。
「おいおい、逃げるほうが危ないぞ! 帰ってこい!」
ネクロマンサーは骨パンの言うことを聞かずに走り続けると、なんと、ネクロマンサーを遮るように村人たちが現れた。
ネクロマンサーは村人たちを見つけると大声をあげた。
「おい、どけ! 邪魔するな!!」
しかし、熊が3頭とも倒されたのを見た村人たちはネクロマンサーを取り囲んで口々に言った。
「おまえ……、熊を操れないんだろ?」
「散々、嫌な思いをさせてくれたなぁ」
「わたしの子どもたちを散々叩いて!」
「これでも喰らえ! 痛い思いをしろ」
村人たちはネクロマンサーに石を投げつけ始めると、その石の数はどんどんと増え、ネクロマンサーは出血するくらいに痛めつけられた。
すると近衛騎士団長が前に出て村の人たちに言った。
「みな聞いてくれ! わたしはガンデロ帝国、近衛騎士団長のエノエルブ! このミナミの村の出身だ! まずは石を投げるのをやめてくれ!」
エノエルブがそう言うと、村の人々は石を投げるのをやめて近衛騎士団長を歓迎した。
「おお! エノエルブが帰ってきたのか!」
「我らの英雄が帰ってきた! おかえり!」
「両親を呼んでくるよ! 待っててくれ!」
骨パンはその隙にネクロマンサーを再び捕獲し、村の人々は英雄の近衛騎士団長エノエルブの帰還に喜んだ。




