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その頃、魔王エヴとスパーリングをしていた骨パンは大笑いしながらズレた頭蓋骨をなおしていた。
「魔王殿、なかなかの腕前だな! 危なく頭蓋骨が割れて死ぬところだったぞ」
魔王エヴはグローブを外しながら笑顔で答えた。
「いや、骨パン殿。茂雄先生以外でこんなにも強いファイターに出会ったのは初めてだ。しかも骨パン殿は拳闘だけでは無いのだろう?」
すると骨パンもグローブを外しながら答えた。
「うむ。私のスタイルは総合格闘技とも言うべきか。拳闘はもちろん、キックに寝技、投げ技も使う。そうでなければ最強の称号パンチは得られん」
「ほう、それは興味深いな。拳闘だけでもこの強さだ。本気になられたら全く勝てそうにないな」
「はっはっは! アカネから聞いたが、魔王殿は魔法を使うのだろう? その拳闘の技と魔法で攻められれば私も苦しいかもしれぬな」
それを聞いた魔王エヴは少し驚いたように骨パンに言った。
「骨パン殿は清々《すがすが》しいお人だ。たいていの人間は自分のほうが強いと言い張る。しかし骨パン殿はそれほど強いのに謙虚で驚く」
「ほれほどでもない。だが、自分の実力を見誤る者ほど滅びゆく。自信を過信にしないよう、己の心を鍛えるのも格闘家だ」
「なんという名言を……。ありがとう、私もその言葉を胸に刻ませてもらおう」
するとその時、謁見の間の扉が開いてガーゴイルが飛び込んできた。
「魔王様! ネクロマンサーの国に動きがありました! 金属兵の鎧を纏った兵士数名と大量のスケルトンが、ここ王都へ向かっています!」
「なんだと!?」
「今夜遅くにも到着する見込みです!」
「そうか。その速さでは援軍を呼ぶのは難しいな。分かった、ここはガンデロの兵士たちと迎撃する。お前は急いで五王に連絡を頼む」
「はっ! 魔王様、お気をつけて!」
ガーゴイルはそう言うと謁見の間を走り出た。
するとアカネは心配そうに魔王エヴに尋ねた。
「ねぇエヴっち。敵が来るんだよね? ガンデロ帝国の兵士だった人たち本気で戦ってくれるかなぁ。だって、この王都ってガンデロ帝国の兵士たちと関係ないじゃん?」
「うむ、その通りだ。彼らは負けたので仕方なく我らの配下になった。そして、ここ王都は彼らが必死に守るべき土地でもない。士気は上がらぬだろうな」
「だよね……」
すると、2人の会話を聞いていた骨パンが魔王エヴに言った。
「ガンデロ帝国とは、今ネクロマンサーたちに支配されている国なのであろう? ならば簡単なことだ。ガンデロの兵士たちにはガンデロを取り返すと言えば良い」
「取り返す?」
「うむ。どんな辺境の土地でも良い。村を1つ取り返すだけでも士気は上がるものだ」
「なるほど、確かに一理あるな。しかし五王の許可なく攻め入るのは難しいかもしれぬ」
「はっはっは! それは問題ない。敵を撃退するために村に要塞を築いたと言うのだ。我らの時代には良くあった事だが、今は難しいのか?」
「ほう、それならば言い訳できそうだ。ありがたく使わせて頂こう」
魔王エヴはそう言うと、策を巡らせながら考え込んだ。
◆
しばらく後、元ガンデロ帝国の近衛騎士団長、騎士団長、魔導師団長、重装備兵団長が魔王エヴに呼ばれ謁見の間に参上していた。
魔王エヴは玉座から立ち上がって団長たちに言った。
「現在、ネクロマンサーの国から、ここ王都へ兵が向かってきている」
それを聞いた団長たちは表情を変えずに黙っていた。
魔王エヴはそれを見ると力強い口調で話を続けた。
「そこで我らは敵を待つのではなく、ここから一番近いガンデロ帝国の領地にあるミナミの村へ進軍して奪還。ミナミの村を起点に展開し、敵の侵攻を阻止する」
魔王エヴの言葉を聞いた近衛騎士団長は驚きながら魔王エヴに言った。
「魔王様! ミナミの村を奪還するというのは本当ですか!?」
すると魔王エヴは冷静に答えた。
「うむ。ミナミの村は今回の戦いのために奪還するつもりだ。誰かミナミの村の地理に詳しい者はいるか?」
すると近衛騎士団長が拳を右胸に当てて答えた。
「私はミナミの村出身です! そして隣の騎士団長は隣村の幼馴染み! 我らが力になりましましょう!」
近衛騎士団長がそう言うと騎士団長も拳を右胸に当てた。
それの様子を見た魔王エヴは偶然の事とはいえ、2人のただならぬ思いを感じ取り指示を出した。
「承知した。では近衛騎士団長、騎士団長、お主ら2人に先導を任せる。皆、今から用意し、日が落ちるまでにミナミの村へ入る。よいか」
「「はっ!!」」
ガンデロ帝国の兵士たちは一斉に返事をすると謁見の間から退出し、戦闘準備を整えるために走った。
◆
その頃、ネクロマンサーの国を南下しながら魔王エヴの居る王都へ向かっている英雄たちは余裕の雑談をしていた。
「やっと暴れられるな」
「ああ、本当にな。剣聖さん、あんたも楽しみなんだろ?」
「ふっ、剣聖か。呼ばれるたびに懐かしいものよ。だが、槍の鬼神と呼ばれたお主も楽しみなのだろう?」
「え? まぁな。鬼神の二つ名は伊達じゃねぇ。何人串刺しにできるか今から楽しみだぜ」
「はっはっは! さすがは鬼神殿。それよりもパンチ殿は何も言わないが緊張でもしているのか?」
するとパンチと呼ばれた英雄は静かに答えた。
「僕は何も言うことが無いだけです。ですが、お2人はもう少し敵に敬意を払うべきです」
しかしそれを聞いた剣聖は笑いながら答えた。
「お前の言う事は真っ当だが、強い者が弱いものを殺すのがこの世界だ。殺した敵の数だけの慈悲は背負いきれない」
そして槍の鬼神も続いた。
「なに言ってんだパンチよぉ。強ぇやつが弱ぇやつの心配する意味がないだろ? 神はおれらに力を与えたんだ。って事はおれらが神といっても間違いじゃねぇだろ?」
しかし英雄のパンチは静かに前を見て歩き続けた。




