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浪費家聖女は、今日も絶対働きたくない!  作者: 夏目八作


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第二話 聖女なんかになりたくない!


―あ、死ぬのか。短い人生だったな。




思い残すとしたら、ちょっと高めの日本酒に……



出会いた……かっ……た……。




「……ょ様!」



……なんだろ、天使か……

もう、生まれ変わりとか転生とか要らないからな。

めんどくさい。



「聖女様!召喚成功しました!」


……へ……。


「五人目召喚成功しました!」


……五人……目……

眩しい……瞼が……重い……もう寝たふりしてていい?

なんか…めんどくさそう。


「……何ここ?」

「なんだここ、俺どうして……」

「私学校帰りに……」

「ぼく……どうして……」


男女二人ずつの声がする……

みんな分かってないのか。

マジかぁ。デスゲームに参加させられてるのか……。

なら、寝たまま参加しない。動かない。それでいこう。


「あの、あなた達は……」


鈴の音のような若い女性の声が聞こえてきた。

学校帰りにさらわれた子か。可哀想に。


「聖女様!聖人様!こちらによくぞお越しくださいました!」



こ。怖ぁ。何人いるんだ。

たぶん囲まれてる!一斉に跪いた気がする!

鉄が擦れる音がそこかしこからする。めっちゃするぅ。


「私はアクレアス王国の聖職者、サミュエと申します。召喚魔法で才ある方々を、こちらの世界へ召喚させていただきました。」



―聖女召喚か!くそったれー!!聖水(ビール)がぁあ!

うっすらと、瞼をあける。


「みなさまには、これより魔王討伐の手助けをしていただきたく存じます。」



やだやだやだやだぁ。

(心の中で床をゴロゴロと転げ回る。)



「……ね、このお姉さん。生きてる?」

「お姉さん……?」

「召喚失敗……してないよな?」

「息は、あるみたいよ……。」


誰かが私の口に手をかざした。


死んでる!もう死んでるよ!社会的にも!精神的にも!

どんな世界でも使い物にならなくていい!

頼む!


狸寝入りを決め込む。


「改めて、国王への謁見並びに鑑定を明日執り行います。」


ゆさゆさと、誰かに揺さぶられる。


分かってる。分かってるから。

あーん、加熱式タバコでチルさせてくださいぃ。


「お姉さん?ちょっと。ねぇ。起きて!」


物語が始まっちゃうでしょうが。

聖女召喚とか一番つまんなそうな話じゃぁん。


「この聖女は召喚失敗か……。

安置所で生死確認のため一時保管の後、

聖教会にて炎魔導士により丁重に聖焔葬とする。」


せい、えん、そう。

何かは分かんない。

分かんないけど……燃やす気?

燃やすのは話が違うだろ!タバコじゃないんだから!


「……ん……っ……、あいたたた……。」


わざとらしく、打ち身でもあるかの様に額を押さえて起き上がる。


「お姉さん大丈夫?」


お、可憐なセーラー服姿。かわいい。


「大丈夫。で。ここは?」


「異世界です。聖女、聖人召喚で……」

「魔王討伐のために……俺たち集められたみたいだぜ。」

「明日鑑定と国王に謁見があるみたいよ。」


知ってた。聞いてた。余すことなく。

起きなかったら燃やされるとこまでバッチリ。

見た目年齢は、

女子高生に、少し我の強そうなお兄さん、オシャレカフェにいそうなメガネの青年、キャリアウーマン……


あー、成功した人生を送ってそう、羨ましい。



「今日のところは皆様お休みください。各お部屋、お着替えをご用意しております。」


個人部屋か……ありだなぁ。

小豆色のジャージで召喚って、めちゃくちゃ嫌だ。

恋リアで登場の方が恥ずかしくなかった。


おもむろにポケットに手を入れた。

―スッ


あ、ポケットに……あぁ。神よ!

加熱式タバコの本体じゃないか!充電は十分。

未開封のスティック箱!ラッキー!

貴重、とても貴重。

……電池残量を無駄にしないようにしよう。


召喚者達が今夜の寝室へ案内される。

召喚部屋を出て渡り廊下へ差し掛かると、

辺りが妙に明るい。空を見上げた。


大小二つの三日月が互い違いに向き、逆S字のように上下にぶら下がるヘンテコな二枚月。


……時計みたい。



「本当に異世界……なんだ。」


一人、また一人と案内され、召喚者が部屋に吸い込まれていく。

みんな平静を装ってはいるけれど、目が不安げ。

最後に残ったのは、私だった。


「こちらが聖女様のお部屋です。それでは、また明日八時にまいります。おやすみなさいませ。」


「あ、どうも。」


なんだか、恥ずかしくて軽く会釈した。


クイーンサイズのベッドに天蓋、ドレッサーに、朝日が全面攻撃を仕掛けてきそうな大きな窓が四枚、分不相応とはこの事だった。


築43年1Rとは違う。

ビール缶を転がしても缶蹴りになりそうな広さ。

ベッドがフカフカだぁ……ちょっと感動。


悪いとは思いながらも、窓を開け、窓枠に腰を据え加熱式タバコのスイッチを押す。一吸い、もう一吸い。

この世のものと思えない開放感。


「明日から……どうしよっか。」


しゅるしゅると煙が二枚月に吸い込まれていく。ポケットには財布と携帯。珍しい月をカメラに収めてみる。 


電波ゼロ。携帯もお金も使えないんだなぁ。


キン、キンと硬いものに金属が打ち付けられる音がして、建物の二階から中庭の方に目をやった。

目を凝らすと、月明かりに何かへ剣を振り下ろし続ける男の後ろ姿が、ぼんやり目に入った。


「……けっこうなこった。」


最後の一息をその影に吹きかけて、携帯灰皿に吸い終わったスティックを入れて窓を閉めた。

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