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浪費家聖女は、今日も絶対働きたくない!  作者: 夏目八作


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第三話 こんな能力なんかほしくない!


「……ん……ぐっ。」


大きな窓から、朝日が私の目を焼き払うかのように

強い光を浴びせてくる。


布団を引っ張り上げ、防御を試みる。攻防戦。



「まだ起きてやらない……。」



ベージュの寝癖がフヨフヨと揺れる。

時計がこの世界にあるのかわからない。

毎朝の癖で手に取った携帯に表示されていたのは、

朝の六時半。電池残量は85%。


昨日案内の人、八時とか言ってたっけ……。


心は意地でも寝たいが、頭が冴えてきてしまっていた。

自分を恨んでいた……。


ナメクジのようにベッドから這いずり出し、

なんとかにっくき窓まで転がり

片手で少し窓を開けた。


五月のようなスッキリとした風が窓から入ってくる。


ゆっくり窓枠に腰を据え、朝のひと息を始めようとポケットへ手を入れた。

ふと、中庭を見た。


キィン!キィン!と今日も力強い衝撃音。


あ、まだやってたんだ……。


朝の光で鮮明に見える。

赤みを帯びた栗毛は、寝起きのようにふわふわと跳ねている。

肩幅は広く、百八十センチくらいのしっかりした体躯。

二階からでも分かるしっかりとした上腕。

ずっと岩に剣を打ちつけていた。


「……ぎ、儀式?あれ。」


好奇心がまさって、ポケットに伸ばした手を引っ込め

朝の一服をおあずけにして部屋を抜け出した。

宿泊棟をウロウロと歩き回り、下へ続く階段を見つける。

円柱状の宿泊棟に沿うように、石で作られた階段を降りていく。

石壁の上部には、松明が淡いオレンジを放っていた。

熱さも煙もない。


……魔法だったりして。



一階へ降り立つ頃には、


ブンッ!キィン!

ブンッ!キィン!


と衝撃音が耳に入ってくる。

中庭が一望できる一階の渡り廊下へ移動する。

肌が震えるくらい音が近くなっていた。


近づくほどに、汗だくの表情が鮮明に見えてくる。

はっきりした目鼻立ち、まっすぐな瞳。

岩しか目に入っていない。



楽しそうだなぁ……いいなぁ。



「……ねぇ!」



気づいた時にはもう声をかけていた。

同時に、空気中に浮かび上がる緑色の蛍光文字。



―鑑定―

―第三王子殿下 テオドール・アクレアス―

―四人兄弟の三男。性格は、真面目で勤勉。一つのことを成し遂げるまで諦めない男。好きな食べ物は、ヌゥトゥの肉。―



何これ……。



男が手を止める。

「……なんだ。貴殿は何者だ?」



「えっと……異世界召喚とかされた、異世界人?」


困ったように頬を掻く。


「……あぁ。……そうか。不憫だな。」


少しばかり悲しそうにまた岩に目を向ける。


「……テ、テオドール……アクレアス……?さん?」


男が目を見開いた。

コロコロ表情が変わる。


「何故名前を……?!面識などないはず!!」


「あ……えっと、あの、その、ここになんか書いてる!」


空中を指差しながら、あたふた解説を始める。


「だ!第三王子殿下、テオドール・アクレアス……」

「四人兄弟の三男……性格は…真面目で勤勉。一つのことを成し遂げるまで諦めない男。好きな食べ物は、ヌゥトゥの肉……ほら、ここ!」


一息に読み上げる。


「何も、書いてないぞ……」

「へ?」


見えてないの……?


「他になんて書いてある……?」

「えっと……鑑定?」



「鑑定……?!」

琥珀色の瞳がぐんっと開いた。

大股で中庭から渡り廊下に向かって距離を縮めてくる。

両肩を掴まれる。


「鑑定って……書いてあるのか……?」


「おっと!!……そ、そうだけど……?何?」


ハッとした顔で、すかさず両手を離し頭を下げる。


「女性に対して、大変無礼を働いた。許してくれ。」

「いいって、いいって!あはは」


「話を戻そう。道具はどうしたんだ。通常、鑑定には水鏡や水晶……何かしらの道具が必要だ。」


「……ない、けど?」


また空中を指差す。


「……な!そんなはずっ!バカな!」

「文字、浮かんでるの!ヌゥトゥの肉って何?美味しいの?」


テオドールが頭を抱える。


「ありえない。名前も身分も出る鑑定?!道具が要らない?!ユニークスキルか……。」


空を見上げ、高らかに叫んだ。

「今日の天気!気温!湿度!」


何も浮かばない。

「なぁんだ。Mohoo!天気のが正確じゃん!別にいらないかなぁ。」

カラカラ笑った。


「待て、俺の名前が出ているんだろう?」

「うん、出てる。あ、次のページある。【剣術:S】。《諦めの悪い剣豪》。諦めの悪い……」


そっぽ向いてクスクス笑う。


「何が言いたいんだ……!」

顔を真っ赤にする。


「別になんでもないよ。でも、この能力って、説明見るだけでしょ?」


「……なっ?!」


テオドールの開いた口が塞がらない。


「……私は、お酒とタバコのが重要……。酒屋とか地図出してくれるのかな?あはは。」


テオドールは奥歯を噛み締めるように、拳を握っていた。


「……ねぇ、じゃあこのスキル、お兄さんにあげるからさぁ……?私にも、あれさせてよ♡剣♡昨日の夜もしてたでしょ?」


「……か!鑑定だぞ?!ダメだ!よく考えろ!」


「いーのいーの!出来るのかな?……テオドールくんに、要らないスキルあげたーい!!」


空に向かって叫んだ。


緑色の蛍光文字が浮かんだ。


―警告―

―スキルの譲渡―

―譲渡対象:譲渡者が認識済みの人物に限る。―

―生涯一度限り譲渡が可能。スキルの返却は不可能。それでも譲渡しますか?―

―YES? NO?―


おぉ。


「じゃあ、剣……振らせてね〜♡っと!」


人差し指がYESを押した。

テオドールは、見知らぬ女が空気を人差し指でつついたのを見て、顔を引きつらせていた。


あまりにも軽率。


その瞬間、テオドールの足元を中心に、直径一メートルほどが白い光に包まれた。

直後、全身がエメラルドグリーンに光った。



「……わぁ、朝からパレード……」


「……なんだ、これ?!」


テオドールが、本を読むように、何もない空中へ

何度も視線を往復させている。

私がさっきまで見ていた緑色の蛍光文字が見えているらしい。


「……っぐっ。」


テオドールの指が、空中で忙しなく動いていた。


「ぺ……ペナルティ……?!譲渡を拒否すると……鑑定スキルが消滅。その上、あなたが次にスキルを授かる資格まで失う……だと?!冗談じゃない!!」


「え?そんなこと書いてるの?」


テオドールが苦い顔で、私を見た。

「……本当に、いいんだな?」


「……え?いいよ!受け取っちゃってー。次は《酒が湧き出るスキル》かもしんないじゃん♡」


(心の中でガチャを回し続ける。)


「……あとで文句、言わないでくれよ?では、ありがたくいただく。」


「おっけー。」


震える指で、テオドールは空中をつついた。



「……なっ?!【鑑定:S】?!」


「……ねぇねぇ、譲渡できたの?なんも見えなくなった!まぁ、いいや。約束でしょー?剣振らせて。」


テオドールに剣を渡すよう手を差し出した。

動揺した手つきで、剣を手渡してくれた。


「……重っ!!」


両手で剣を引きずるように、中庭まで持ち運び

待望の岩に剣を振り下ろす。


ビィィィイイン!!!


鈍い音と共に全身に振動が駆け巡り、脳が揺れる。


あのテオドールって人、なんて力なんだ!すっごい!


一回で満足した。

手が痛くてもう一度する気にもならなかった。


草むらに重い剣をゆっくり寝かせて、

テオドールのいる渡り廊下に小走りで戻ってきた。


「……テオドールさん、すごいね!私もう満足した!見て!手痛い!」


手を揉み合わせ、赤くなった両手を見せ困ったように笑う。


「ありがとうね!もうすぐしたら案内の人呼びにくるかもだから、その前に一服しに帰らなきゃ!楽しかった♡またね!」


バイバイとテオドールに手を振り、宿泊棟へ踵を返した。


幾歳千尋(いくとせちひろ)……か。」


背後から、テオドールの声が聞こえた気がした。


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