第5話 魔導理論の講義
第1章 5/6 疑問
魔導学院・第三講義室。
教師が杖を振ると、黒板に幾何学的な魔法陣が浮かび上がった。
淡く光る二つの魔法陣。
「今日は魔力干渉について説明する」
学生たちがノートを開く。
「複数の魔導士が同時に魔法を発動した場合、魔力は互いに影響を受ける」
教師は二つの魔法陣をゆっくり近づけた。
重なった瞬間、片方が弾かれるように崩れた。
「基本的には――」
教師が静かに言う。
「強い魔力が弱い魔力を消す」
教室のあちこちで頷きが起きた。
カインが腕を組む。
「まあ、そうだよな」
教師は続ける。
「魔導戦闘ではよく起きる現象だ。出力の差がそのまま結果になる」
そのとき、前の席の学生が手を上げた。
「質問いいですか」
「何だ」
「もし、同じくらいの魔力だったらどうなるんですか?」
教室が少し静かになる。
教師は黒板の魔法陣をもう一度重ねた。
今度は二つの魔法陣が揺れ、歪み、やがて両方とも崩れた。
「互いに干渉して構造が乱れる。結果として威力は落ちる」
教師は淡々と説明する。
「魔力は本来、安定した構造を保とうとする。複数の魔力が混ざると不安定になる」
シオンが隣で小声を出した。
「じゃあ協力して魔法使うのって、あんまり意味ないの?」
教師は頷いた。
「理論上はな」
「だから普通の魔導士は個別に魔法を使う」
講義はそのまま続いていく。
だがその話を聞きながら、リシアの視線はふと横へ向いた。
オリオンは授業内容ではなく、自分のノートに何かを書いていた。
リシアは何気なくそのページを覗く。
そこには、乱れた文字で短いメモが書かれていた。
夢を見た
魔法陣が重なっていた
でも崩れなかった
むしろ強くなっていた
……そういう干渉もあるのか?
リシアの眉がわずかに動く。
(夢……?)
魔法陣が重なる。
普通なら崩れるはずだ。
教師もさっきそう説明していた。
それなのに――
強くなっていた?
リシアはもう一度そのメモを見る。
そこには仮説というより、思いつきのような短い言葉しかない。
オリオンはペンを止めて、首をかしげていた。
「……なんでこんなこと書いたんだろ」
小さく呟く。
まるで自分でも理由が分からないようだった。
リシアは何も言わず視線を前に戻す。
教師の講義は続いている。
だがリシアの頭の中では、さっきのメモが引っかかっていた。
(夢の話……)
(ただの思いつき?)
そう結論づけようとして――
なぜか、できなかった。




