第28話 観測者の目覚め
第5章 4/5
蒼白い光が空を貫く。
遺跡全体が震えていた。
誰も言葉を発せない。
世界中の魔導波が一つの方向へ流れている。
それは自然現象ではない。
何者かの意思だった。
「観測者が目覚めた……」
リシアの声が震える。
ゼクトは興奮を隠せなかった。
「ついにだ」
「ついに始まった」
「長かった」
狂気にも似た笑み。
だがその笑みを遮るように。
バルガが前へ出た。
「ゼクト」
「もう十分だ」
巨大な拳が握られる。
凄まじい圧力。
戦闘は避けられない。
──
バルガが地面を蹴った。
爆発音。
一瞬で距離を詰める。
カインが反応した。
「来るぞ!」
炎が噴き上がる。
火球が放たれる。
しかし。
バルガは止まらない。
炎を正面から突き破る。
「なっ!」
拳が振り下ろされる。
轟音。
地面が砕ける。
カインは間一髪で回避した。
だが衝撃だけで吹き飛ばされる。
壁へ激突する。
「ぐっ……!」
「カイン!」
リシアが叫ぶ。
バルガは追撃しようとする。
その瞬間。
無数の魔法陣が展開された。
「そこまでよ」
リシアだった。
拘束魔法。
重力制御。
結界魔法。
学院でも屈指の複合術式。
青い光がバルガを包む。
巨体が一瞬止まった。
「ほう」
バルガが低く唸る。
「研究者にしてはやるな」
だが次の瞬間。
全ての魔法陣が砕け散った。
純粋な魔力で押し潰されたのだ。
リシアの顔が強張る。
「そんな……」
──
オリオンは前へ出る。
胸の痛みは続いている。
それでも。
今は戦うしかない。
魔力を集中する。
周囲の流れが見える。
世界中を巡る魔導波。
そして。
セレナの魔力。
自然に感じ取れていた。
「セレナ」
オリオンが呼ぶ。
セレナが振り向く。
「力を貸して」
短い言葉。
だが。
二人の間で何かが震えた。
共鳴。
これまでとは違う。
遥かに深い繋がり。
セレナの瞳が揺れる。
記憶の奥底。
忘れていた感覚。
懐かしさ。
温かさ。
「……ええ」
自然と返事が出た。
──
蒼い光。
白い光。
二つの魔力が重なる。
魔導共鳴。
遺跡全体を包むほどの光が広がる。
カインが目を見開く。
リシアも息を呑む。
今までの共鳴とは別次元だった。
魔力が増幅しているのではない。
互いを補完している。
欠けた部分を埋めるように。
ゼクトの笑みが消える。
「まさか……」
初めて焦りが見えた。
「まだ完全じゃないはずだ」
オリオンは手を掲げる。
セレナも同じ動きをする。
二人の魔力が一つの魔法陣を形成した。
見たこともない術式。
誰も知らない魔法。
だが。
二人だけは知っていた。
本能で。
「行くよ」
「ええ」
光が放たれる。
轟音。
バルガを中心に大地が弾け飛んだ。
巨大な爆発。
遺跡全体が揺れる。
──
土煙が晴れる。
バルガは立っていた。
だが。
鎧は砕けている。
口元から血が流れていた。
「見事だ」
低い声。
戦士としての賞賛だった。
「これが神の力か」
オリオンは構えを解かない。
バルガも動かない。
しばらくの沈黙。
やがて。
バルガは拳を下ろした。
「目的は果たした」
「何?」
カインが眉をひそめる。
バルガは空を見る。
光の柱はまだ続いている。
「観測者は目覚めた」
「もう俺たちの役目は終わりだ」
ゼクトが顔をしかめる。
「おい」
「まだ研究が――」
バルガはその言葉を無視した。
「撤退する」
黒い転移陣が開く。
ゼクトは不満そうだった。
だが従うしかない。
去り際。
ゼクトが振り返る。
その視線はオリオンではなかった。
セレナだった。
「君は思い出すよ」
不気味な笑み。
「全てをね」
光が消える。
二人の姿も消えた。
──
静寂。
戦闘は終わった。
だが誰も安堵できなかった。
空の光は消えない。
むしろ強くなっている。
オリオンは胸を押さえる。
まただ。
誰かが呼んでいる。
遠くから。
強く。
はっきりと。
「来い」
声が聞こえた。
知らない声。
だが。
どこか懐かしい。
「オリオン?」
セレナが不安そうに見る。
オリオンは空を見上げる。
光の先。
世界のどこか。
そこにいる。
第三の欠片。
観測者。
──
その時だった。
セレナが突然膝をつく。
「っ……!」
苦しそうな声。
頭を押さえる。
大量の記憶が流れ込んでいた。
古代文明。
神の分裂。
そして。
一人の男。
白い祭壇の前で微笑む人物。
その顔が。
初めて見えた。
セレナの瞳が大きく見開かれる。
「そんな……」
震える声。
オリオンが駆け寄る。
「セレナ!」
セレナは青ざめていた。
信じられないものを見た顔。
そして。
かすれる声で呟く。
「観測者は……」
「生きている」
静寂。
誰も動けなかった。
セレナの瞳には確信があった。
失われた欠片。
神の第三の存在。
それは封印でも残滓でもない。
今もなお。
世界のどこかで生き続けている。
そして。
こちらを見ている。




