第26話 神の欠片
第5章 2/5
セレナの言葉に誰も動けなかった。
遺跡全体が低く唸っている。
魔導波が乱れていた。
いや。
怯えているようにも見えた。
「世界が滅ぶ理由……?」
リシアが呟く。
セレナは静かに頷いた。
「オリオンは世界の核」
「それはもう知ったはず」
オリオンは黙っていた。
先ほど見た記憶。
古代文明。
世界の誕生。
そして自分自身。
全てが現実とは思えない。
だが否定もできなかった。
「ならなぜ世界は壊れる」
オリオンが問う。
「俺が傷付いているからか」
「半分は正解」
セレナは答える。
「でも本当の問題は別にある」
──
セレナは祭壇へ視線を向けた。
巨大結晶が淡く輝いている。
「世界は二つの存在によって支えられている」
「循環を生む核」
「流れを整える調律者」
オリオンは静かに聞く。
答えは分かっていた。
「核が俺」
「調律者が君か」
「そう」
セレナは頷いた。
「本来なら」
その言葉に違和感があった。
オリオンは眉をひそめる。
「本来なら?」
セレナは少しだけ視線を伏せた。
「私はもう完全な調律者じゃない」
静寂。
風が止まる。
リシアが息を呑んだ。
「どういうこと?」
「私の記憶が失われたあの日」
セレナは遠くを見る。
「私は神の力の大半を失った」
オリオンの胸がざわつく。
古代の少女が言っていた。
彼女もまた壊れかけている。
その意味が少しずつ繋がっていく。
「今の私は欠けている」
「本来の役目を果たせない」
「だから魔導波は乱れ続けている」
セレナの声は静かだった。
だが。
そこには諦めが混じっていた。
──
その時。
リシアが前へ出る。
「待って」
「話がおかしいわ」
全員の視線が集まる。
研究者の顔だった。
「オリオンが核」
「セレナが調律者」
「なら二人が揃えば解決できるはず」
セレナは少しだけ笑った。
「普通ならね」
「普通じゃない?」
「欠けた力は戻らない」
リシアは首を振る。
「そんなはずない」
「証明は?」
「証明?」
「魔法理論なら必ず痕跡が残る」
セレナは黙った。
リシアは続ける。
「あなた自身も確信していない」
「違う?」
セレナは返事をしなかった。
それが答えだった。
オリオンは初めて気付く。
セレナ自身も迷っている。
自分が何者なのか。
何を失ったのか。
本当は理解できていない。
──
突然。
空気が震えた。
黒い魔力。
嫌な気配。
遺跡の奥から流れてくる。
カインが身構えた。
「来るぞ」
轟音。
祭壇の奥が崩れる。
巨大な魔法陣が出現した。
紫色の光。
異様な圧力。
リシアの顔色が変わる。
「これは……」
「転移陣か」
オリオンが呟く。
違う。
もっと大きい。
もっと危険だ。
セレナが目を見開く。
「まさか」
次の瞬間。
魔法陣から人影が現れた。
黒いローブ。
長い銀髪。
細い身体。
狂気を宿した瞳。
深淵魔団幹部。
ゼクト。
「やあ」
楽しそうな声。
「素晴らしい」
「実に素晴らしい」
彼は拍手した。
「世界の真実」
「神の欠片」
「全部揃ったじゃないか」
カインが怒鳴る。
「貴様!」
ゼクトは笑う。
心底嬉しそうに。
「知っているかい?」
「僕はずっと探していたんだ」
「世界を壊した本当の原因を」
オリオンの目が細くなる。
「何を知っている」
ゼクトは不気味な笑みを浮かべた。
「全部だよ」
「だから確信した」
その視線がセレナへ向く。
「君は失敗作だ」
空気が凍った。
セレナの表情が固まる。
「……何?」
「神を分割した結果生まれた不完全体」
「それが今の君だ」
オリオンが一歩前へ出る。
「黙れ」
「事実さ」
ゼクトは肩をすくめた。
「昔の人類は神の力を奪おうとした」
「その結果」
「神は砕けた」
リシアの顔が青ざめる。
オリオンも息を呑む。
ゼクトは続ける。
「世界を支える核」
「流れを整える調律者」
「そして」
彼は笑った。
狂気そのものの笑みだった。
「失われた第三の欠片」
セレナの瞳が揺れる。
初めてだった。
彼女がここまで動揺したのは。
「第三の……欠片?」
「そう」
ゼクトは指を立てた。
「神は二人じゃない」
「元々は一つだった」
世界が静止する。
誰も言葉を発せない。
「オリオン」
「セレナ」
「そしてもう一人」
ゼクトはゆっくり告げた。
「その欠片が見つからない限り」
「世界は救われない」
轟音。
遺跡全体が激しく揺れる。
巨大結晶に亀裂が走った。
一本。
また一本。
魔導波が悲鳴を上げる。
オリオンは結晶を見る。
胸の奥が痛む。
嫌な予感。
確信に近い予感。
世界は今。
限界へ近付いている。
そして。
失われた第三の欠片。
その存在が。
全ての鍵になる。




