第24話 選択
第4章 6/6 第4章完
巨大魔法陣が光る。
森全体が震えた。
地面の下を流れる魔導波が乱れる。
オリオンは思わず顔をしかめた。
今まで感じたことのない違和感。
流れそのものが悲鳴を上げている。
リシアが叫ぶ。
「止めないと!」
ゼクトは笑う。
「止まりませんよ」
「これはもう始まっている」
巨大魔法陣の中心。
黒い光が集まり始める。
周囲の魔力が吸い寄せられていた。
カインが前へ出る。
「なら壊す!」
炎が放たれる。
だが届かない。
魔法陣の周囲で弾かれる。
ゼクトは肩をすくめる。
「無駄です」
「この術式は完成しています」
リシアが歯を食いしばる。
「そんな……」
──
その時。
セレナが前へ出た。
全員が息を呑む。
ゼクトだけは落ち着いていた。
「ようやくその気になりましたか」
セレナは答えない。
巨大魔法陣を見つめる。
その表情は苦しそうだった。
オリオンが声をかける。
「君は何を知ってるんだ」
セレナの肩が震える。
沈黙。
そして。
小さく呟く。
「……壊れる」
リシアが反応する。
「何が?」
セレナは空を見る。
「世界の流れ」
短い言葉。
だが重い。
ゼクトが笑った。
「少々大げさですね」
セレナは首を振る。
「違う」
「本当に壊れる」
その声には迷いがなかった。
──
オリオンはセレナを見る。
敵として戦ってきた。
だが今。
嘘を言っているようには見えない。
リシアも同じだった。
カインが低く言う。
「どうする」
リシアは即答できなかった。
だが。
オリオンは一歩前へ出る。
「止める」
短く言う。
ゼクトが目を細めた。
「理由は?」
オリオンは巨大魔法陣を見る。
歪んだ魔導波。
苦しむような流れ。
そして。
胸の奥にある感覚。
「これは違う」
それだけだった。
だが十分だった。
──
ゼクトがため息をつく。
「残念です」
次の瞬間。
複数の魔法陣が展開される。
リシアが叫ぶ。
「来る!」
無数の魔弾。
カインが前に出る。
炎が広がる。
迎撃。
だが数が多い。
押し切れない。
リシアも障壁を展開する。
それでも足りない。
その時。
オリオンがリシアを見る。
リシアも気づく。
一瞬だけ。
視線が合う。
言葉は要らなかった。
オリオンが頷く。
リシアも頷く。
──
魔力が重なる。
共鳴。
オリオンの魔力がリシアの術式へ流れる。
障壁が広がる。
密度が増す。
魔弾を押し返す。
リシアが叫ぶ。
「今よ!」
巨大な光の術式が展開される。
中心へ向かう。
一直線。
ゼクトの表情が初めて変わった。
「まずい」
光が直撃する。
巨大魔法陣に亀裂が走る。
森が揺れた。
魔導波の流れが変化する。
ゼクトが舌打ちした。
「ここまでですか」
──
その時だった。
セレナが目を見開く。
何かを感じ取ったように。
遠くを見る。
誰も見えない方向。
だが。
その表情は凍りついていた。
「……まだ」
小さく呟く。
「まだ終わってない」
オリオンが振り向く。
「どういう意味だ」
セレナは答えない。
代わりに。
苦しそうに額を押さえる。
断片。
記憶。
何かが浮かんでいる。
「もっと……大きい」
「もっと奥に……」
ゼクトの目が鋭くなる。
「それ以上は思い出さない方がいい」
セレナが顔を上げる。
初めて。
明確な敵意を向ける。
ゼクトへ。
ゼクトは静かに笑った。
「なるほど」
「影響が出始めていますか」
──
空間が歪む。
転移陣。
ゼクトの足元に広がる。
カインが叫ぶ。
「逃がすか!」
炎を放つ。
だが届かない。
ゼクトの姿が薄れていく。
最後に。
オリオンを見る。
そして笑った。
「いずれ分かります」
「あなたが何者なのか」
その言葉を残して。
ゼクトは消えた。
静寂。
森に風が吹く。
──
巨大魔法陣は崩壊していた。
周囲の歪みも弱まっている。
だが。
消えてはいない。
リシアが静かに言う。
「終わってない」
誰も否定しなかった。
セレナも。
オリオンも。
同じことを感じていた。
もっと奥。
もっと根深い場所。
本当の原因がある。
──
セレナが振り返る。
オリオンを見る。
その瞳は以前と違っていた。
迷いがある。
そして。
どこか懐かしさも。
「……オリオン」
初めて。
名前を呼ぶ。
オリオンが目を見開く。
セレナは続ける。
「思い出して」
その言葉だけを残し。
転移陣が広がる。
オリオンが手を伸ばす。
「待って!」
届かない。
セレナの姿は光の中へ消える。
静寂。
残されたのは謎だけだった。
だが。
一つだけ確かなことがある。
魔導波の異常は終わっていない。
そして。
セレナは敵ではない。
少なくとも。
オリオンにはそう思えた。
──
世界の奥底で。
忘れられた真実が。
静かに目を覚まそうとしていた。




