第23話 揺らぐ立場
第4章 5/6
壊れた装置から火花が散る。
刻まれていた魔法陣も徐々に消え始めていた。
だが。
魔導波の歪みは消えていない。
リシアが周囲を見回す。
「装置を壊しただけじゃ終わらない……」
地面に残る魔力の流れを確認する。
「もっと大きな何かがある」
カインが炎を維持したまま前へ出る。
「なら本人に聞けばいい」
視線の先。
セレナ。
セレナは動かない。
逃げる様子もない。
だが戦う様子もない。
その姿にカインが眉をひそめる。
「敵なら敵らしくしろよ」
セレナは反応しない。
代わりに小さく呟く。
「……時間がない」
リシアが聞き返す。
「何の時間?」
返答はない。
沈黙。
森を吹く風だけが通り過ぎる。
──
オリオンが一歩前に出る。
「君は何を止めようとしてるんだ」
セレナの肩がわずかに揺れる。
「……言えない」
「言えない?」
オリオンが問い返す。
セレナは目を伏せる。
「言ったら……」
言葉が途切れる。
苦しそうだった。
まるで何かを思い出そうとしているようにも見える。
リシアはその様子を見逃さない。
(やっぱりおかしい)
敵なら説明は不要。
黙って排除すればいい。
だが目の前の少女は違う。
迷っている。
明らかに。
カインもそれは感じていた。
だからこそ苛立つ。
「結局どっちなんだよ」
セレナは答えない。
答えられない。
そんな表情だった。
──
その時。
空気が震えた。
リシアが顔を上げる。
「……っ!」
嫌な予感。
森全体が揺れている。
地面の下。
魔力が動いている。
オリオンも感じ取る。
今までとは違う。
大きい。
深い。
セレナの表情が変わる。
初めて。
明確な焦り。
「もう始まってる……」
小さな声。
だが全員に聞こえた。
リシアが鋭く問う。
「何が始まってるの!」
セレナは答えない。
代わりに森の奥を見る。
その視線を追う。
さらに奥。
歪みの中心。
まだ何かある。
──
突然。
地面が光る。
巨大な魔法陣。
森全体を覆うほどの規模。
カインが目を見開く。
「おいおい……」
リシアも言葉を失う。
さっきの装置とは比較にならない。
本命。
そう理解した。
オリオンは魔法陣を見る。
胸騒ぎ。
嫌な予感。
魔導波そのものが引っ張られている。
流れが変わる。
無理やり。
強引に。
セレナが呟く。
「間に合わない……」
その声は震えていた。
──
次の瞬間。
空間が裂ける。
黒い亀裂。
その向こうから現れる人影。
長いローブ。
細身の体。
不気味な笑み。
リシアが息を呑む。
「誰……?」
男は周囲を見渡す。
壊れた装置。
倒れたローブたち。
そして。
セレナ。
「これはこれは」
穏やかな声。
だが気味が悪い。
「予想以上に早かったですね」
セレナが睨む。
男は楽しそうに笑う。
「そんな顔をしないでください」
「あなたは十分役目を果たしていますよ」
カインが炎を強める。
「誰だてめぇ」
男はゆっくりと頭を下げる。
礼儀正しく。
だが不快だった。
「失礼」
「私はゼクト」
その名。
リシアの表情が変わる。
アビス。
幹部の一人。
魔導研究者。
学院でも名前だけは知られている。
カインが舌打ちする。
「幹部か」
ゼクトは微笑む。
「ええ」
「そして、この計画の研究担当です」
──
オリオンはセレナを見る。
セレナはゼクトを見ている。
明らかな警戒。
仲間を見る目ではない。
その違和感に気づく。
リシアも同じだった。
ゼクトが続ける。
「ですが残念」
「まだ完成前だったのですが」
視線が壊れた装置へ向く。
「少し予定が早まりました」
カインが前へ出る。
「何をするつもりだ」
ゼクトは笑う。
そして。
森の奥を見た。
「簡単ですよ」
「魔導波を固定します」
静寂。
誰も理解できない。
ただ一人。
リシアだけが青ざめる。
「……そんなこと」
「できるわけがない」
ゼクトは楽しそうに笑う。
「普通なら」
そして。
巨大魔法陣が脈動する。
森が揺れる。
空が震える。
魔導波が悲鳴を上げるように乱れる。
オリオンの胸の奥がざわつく。
本能。
警告。
これは危険だ。
比べ物にならない。
今までの事件とは。
規模が違う。
──
ゼクトは両手を広げる。
「さあ」
「実験を始めましょう」
その瞬間。
巨大魔法陣が眩く光った。




