第22話 深部
第4章 4/6
森のさらに奥。
空気が重い。
魔導波の流れそのものが歪んでいる。
リシアが顔をしかめる。
「……濃すぎる」
「ここまで乱れてるなんて」
カインが周囲を見る。
「魔物の気配もないな」
「逆に気味悪い」
オリオンは止まらない。
迷いなく奥へ進む。
胸の奥に残る感覚。
微かだが、まだ消えていない。
──
木々が途切れる。
開けた空間。
地面一帯に巨大な魔法陣が刻まれている。
中心には複数の装置。
黒い魔力が脈動している。
リシアが息を呑む。
「……こんな規模」
「学院周辺だけじゃない」
カインが低く言う。
「完全に拠点じゃねぇか」
オリオンは魔法陣を見る。
流れが不自然だった。
本来循環しているはずの魔導波が、無理やり留められている。
リシアが慎重に近づく。
「魔導波を局所固定してる……?」
「あり得ない……」
カインが眉をひそめる。
「そんなにヤバいのか?」
「ヤバいなんてもんじゃない」
リシアは即答する。
「本来、魔導波は循環してる」
「無理に固定したら周囲との均衡が崩れる」
オリオンが小さく呟く。
「だから各地で異常が……」
リシアが頷く。
「たぶん、これが原因の一つ」
──
その時。
空気が震える。
カインが即座に構える。
「来るぞ」
気配。
複数。
木々の奥から人影が現れる。
黒いローブ。
前に戦った連中と同じ。
だが数が違う。
五人。
リシアが小さく舌打ちする。
「多いわね……」
ローブの一人が前へ出る。
「侵入者を確認」
感情の薄い声。
「排除する」
次の瞬間。
魔法陣が一斉に展開される。
カインが前に出る。
「またこれか!」
炎が爆ぜる。
真正面から突っ込む。
複数の魔弾が飛ぶ。
だが止まらない。
炎で強引に弾き飛ばす。
一人へ接近。
拳を叩き込む。
直撃。
ローブの男が吹き飛ぶ。
だが同時に左右から魔法が迫る。
リシアが障壁を展開。
「下がって!」
衝撃が響く。
地面が揺れる。
カインが後退する。
「チッ、連携してやがる」
──
リシアが魔法陣を見る。
「……術式が繋がってる」
「この装置そのものが補助演算をしてる」
カインが顔をしかめる。
「つまり?」
「相手の魔法精度が上がってる」
リシアはすぐに答える。
「普通に崩しても押し切れない」
その間にも魔法陣が展開される。
次々と魔弾が放たれる。
障壁に衝撃が走る。
リシアが歯を食いしばる。
「……出力が足りない」
カインが前に出ようとする。
だが魔法の密度が高い。
踏み込めない。
その時。
オリオンが前へ出る。
リシアが振り向く。
「……ん?」
オリオンは何も言わず、リシアの横へ立つ。
そして静かに言う。
「……やってみる」
一瞬。
リシアの目が止まる。
次の瞬間、理解する。
「——っ」
リシアが魔力を展開する。
同時に。
オリオンの魔力が重なる。
──
共鳴。
空気が震える。
リシアの術式が一気に増幅される。
展開された障壁が拡大。
密度が変わる。
押し込まれていた魔弾を弾き返す。
ローブの男たちが初めて動揺する。
「出力上昇……?」
リシアが目を見開く。
「これ……!」
魔力の流れが違う。
術式そのものが安定している。
オリオンが低く言う。
「今ならいける」
リシアは即座に切り替える。
「……分かった!」
障壁を解除。
新たな魔法陣を展開する。
複数の光陣。
高速演算。
カインが笑う。
「やっと突破口か!」
リシアが前を見る。
「中央装置を崩す!」
魔法陣が収束する。
光が一点へ集中。
放たれる。
直撃。
中心装置に亀裂が走る。
次の瞬間。
周囲の魔法陣が乱れる。
ローブの男たちの動きも止まる。
カインが踏み込む。
「遅ぇ!」
炎が爆発する。
複数のローブが吹き飛ぶ。
戦線が崩れる。
──
その時。
森の奥。
空気が変わる。
全員の動きが止まる。
重い魔力。
質が違う。
闇が揺れる。
ゆっくりと現れる影。
銀の髪。
セレナ。
静かに立っている。
リシアの視線が鋭くなる。
「……来た」
カインも炎を強める。
「今度は逃がさねぇ」
セレナは答えない。
ただ周囲を見る。
壊れた装置。
乱れ始めた魔法陣。
そしてオリオン。
その視線が止まる。
オリオンが口を開く。
「……君がやってるの?」
短い問い。
セレナはすぐには答えない。
わずかに目を伏せる。
そして小さく呟く。
「……止めないと」
リシアが眉をひそめる。
「何を?」
沈黙。
周囲の魔導波がわずかに揺れる。
セレナは壊れた装置を見る。
「もう、崩れ始めてる」
カインが低く言う。
「何の話だ」
セレナは答えない。
ただ苦しそうに目を閉じる。
その姿を見て、オリオンは違和感を覚える。
敵として立っている。
だが——。
どこか追い詰められているようにも見えた。




