第20話 追跡
第4章 2/6
朝。
学院の空気は重いまま。
昨夜の余韻が残っている。
リシアは資料室にいた。
机の上には記録が広がっている。
魔導波の観測データ。
歪みの分布。
時間軸の変化。
「……昨夜の歪みと、観測データの位置が一致してる」
小さく呟く。
扉が開く。
カインとオリオンが入ってくる。
「もう調べてたのか」
カインが言う。
リシアは顔を上げる。
「ええ。状況は悪いわ」
紙を一枚差し出す。
「これ、昨夜の波形」
カインが覗き込む。
「……異常だな」
リシアが続ける。
「歪みが収束してるの」
「自然な流れじゃない」
カインが腕を組む。
「意図的に動かしてるってわけか」
リシアは頷く。
「ええ」
「しかも移動してる」
オリオンが反応する。
「移動……?」
リシアは別の資料を広げる。
「昨夜の発生点は学院」
「でも今は少し外にずれてる」
カインが眉をひそめる。
「逃げたか」
「違うわ」
リシアはすぐに言う。
「動かしてる」
沈黙。
オリオンが静かに言う。
「……セレナ」
その名で空気が変わる。
カインが視線を向ける。
「まだ気にしてるのか」
オリオンは答えない。
リシアが冷静に言う。
「可能性は高い」
「本人か、関係してるか」
カインが舌打ちする。
「どっちにしろ厄介だな」
オリオンが低く言う。
「……追えるか」
リシアは頷く。
「たぶん追える」
「でも精度は高くない」
カインが即答する。
「十分だ。やるしかない」
リシアはオリオンを見る。
「あなたはどうするの」
短い問い。
オリオンは少しだけ目を伏せる。
昨夜の光景がよぎる。
セレナの視線。
共鳴の感覚。
まだ残っている。
オリオンは顔を上げる。
「行く」
迷いはない。
カインが笑う。
「だろうな」
リシアも小さく頷く。
「決まりね」
「すぐ出るわ」
学院外。
森の入り口。
風が吹く。
だが空気は重い。
リシアが足を止める。
「この先」
「反応が強い」
カインが周囲を見る。
「気配はないな」
リシアは首を振る。
「隠してる」
「かなり上手い」
オリオンは一歩前に出る。
目を閉じる。
微かだが、魔導波の流れを感じる。
そして、歪み。
「……こっちだ」
目を開ける。
迷いはない。
リシアが少し驚く。
「分かるの?」
オリオンは頷く。
「昨日のが……残ってる」
カインが息を吐く。
「便利なもんだな」
リシアは表情を引き締める。
「行くわ」
三人は森に入る。
木々の間。
光が遮られる。
静かだ。
だが奥へ進むほど空気が歪む。
カインが低く言う。
「……来てるな」
リシアも頷く。
「ええ」
オリオンは止まらない。
引かれるように進む。
やがて開けた場所に出る。
地面が黒く変色している。
中心に小さな装置。
魔法陣が刻まれている。
リシアが息を呑む。
「……これ」
慎重に近づく。
観察する。
「人工の干渉装置」
「魔導波を歪ませてる」
カインが眉をひそめる。
「やっぱりか」
リシアが続ける。
「しかも持ち運びできる」
沈黙。
オリオンが装置を見る。
違和感がある。
昨日の感覚とは違う。
薄い。
「……違う」
リシアが振り向く。
「何が?」
オリオンは言う。
「セレナじゃない」
カインが顔をしかめる。
「は?」
オリオンは続ける。
「これは弱い」
「昨日のはもっと……深かった」
リシアが理解する。
「本体じゃない」
「これは補助」
カインが舌打ちする。
「本命は別か」
その瞬間。
装置が光る。
リシアが叫ぶ。
「下がって!」
魔法陣が展開する。
空間が歪む。
影が滲み出る。
人影。
ローブ姿の男が現れる。
カインが構える。
「来たな」
リシアも魔力を展開する。
「迎撃する」
オリオンは一歩前に出る。
視線は敵ではない。
その奥。
感じる。
あの気配。
微かに。
だが確かに。
オリオンが呟く。
「……いる」
戦いが始まる。
だがオリオンの目的は別にある。
視線は揺らがない。




