第19話 邂逅
第4章 1/6
夜。
静まり返る学院。
風が止まる。
空気が重い。
リシアは窓辺に立つ。
「……来てる」
短く言う。
背後で扉が開く。
カインだ。
「気づいたか!場所は?」
「学院内」
即答。
空気が張り詰める。
カインが低く言う。
「随分と踏み込んできたな」
リシアは窓の外を見る。
「しかも精度が上がってる」
「前よりも……歪みが安定してる」
カインが舌打ちする。
「制御してやがるのか」
リシアは頷く。
「ええ」
「実験段階ではなさそうね」
その一言。
重く落ちる。
その時。
空気が震える。
廊下の奥。
歪みが走る。
カインが構える。
「来るぞ」
リシアも魔力を展開する。
——侵入者。
空間が裂ける。
黒い亀裂。
そこから現れる。
一人の少女。
静かに立つ。
長い銀髪。
淡い瞳。
その姿を見た瞬間。
カインが低く言う。
「……おい」
リシアの目が見開かれる。
「……あの時の」
学院試験。
突如現れたS級魔導士。
名も告げず去った存在。
少女は周囲を見る。
だが——
気配が違う。
以前よりも儚い。
カインが一歩前に出る。
炎が灯る。
「何の用だ」
少女は答えない。
ただ。
視線が動く。
廊下の奥。
足音。
オリオンが現れる。
眠気の残る表情。
だが。
次の瞬間。
止まる。
「……」
記憶が繋がる。
あの時の少女。
名乗らなかった存在。
視線が交わる。
その瞬間。
——共鳴。
空気が震える。
魔力が引き寄せられる。
リシアが息を呑む。
「また……!」
カインが歯を食いしばる。
「リシアの時と同じ……いや、違う……」
密度が違う。
規模が違う。
オリオンは動けない。
胸の奥が反応する。
強く。
明確に。
少女が一歩踏み出す。
魔力が膨れ上がる。
暴走ではない。
だが制御もしきれていない。
リシアが叫ぶ。
「距離を取って!」
遅い。
——共鳴が発生する。
光。
衝撃。
一瞬で収束。
静寂。
オリオンと少女。
向き合ったまま。
カインが低く言う。
「……完全に繋がってやがる」
リシアの声が震える。
「同質……あり得ない……」
オリオンが口を開く。
「……君はあの時の」
少女はわずかに反応する。
「……そう」
短い肯定。
だが。
わずかな遅れ。
リシアが観察する。
(記憶はある……でも意識が不安定)
オリオンが続ける。
「名前、言わなかったよな」
少女は少しだけ間を置く。
「……セレナ」
静かな空気が漂う。
カインがつぶやく。
「以前と全然違う人みたいだな」
リシアが問う。
「何しに来たの」
セレナは答えない。
視線はオリオンに向いたまま。
そして。
ぽつりと。
「……分からない」
カインが顔をしかめる。
「は?」
セレナは続ける。
「来る必要があると思った」
「でも理由が……ない」
沈黙。
リシアの思考が走る。
(干渉……もしくは本能的行動)
その時。
空に黒い波紋。
リシアが振り向く。
「……複数接近」
カインが構える。
「本命か」
空気が変わる。
重圧。
意志を持った魔力。
中庭側の空間が歪む。
闇が広がる。
そこから現れる影。
ローブ姿。
異質な存在。
その一人が口を開く。
「セレナ」
低い声。
セレナの体がわずかに反応する。
初めて。
明確に。
視線が揺れる。
「……こっちに」
短い言葉。
セレナは動かない。
だが。
一歩。
遅れて踏み出す。
オリオンが言う。
「待て」
セレナの足が止まる。
完全には止まらない。
揺れている。
カインが低く言う。
「連れて行かれるぞ」
リシアは冷静に判断する。
「ここで衝突するべきじゃない」
オリオンは動かない。
ただ。
見ている。
「……君は、そっちなのか」
問い。
セレナは答えない。
小さく。
「……分からない」
だが。
足は止まらない。
一歩。
また一歩。
闇へ向かう。
その途中。
一瞬だけ。
振り向く。
オリオンを見る。
その目。
微かに揺れている。
次の瞬間。
空間が閉じる。
闇が消える。
セレナの姿も消える。
静寂。
カインが吐き出す。
「……連れてかれたな」
リシアは目を細める。
「確定ね」
「彼女は敵側」
オリオンは動かない。
視線はセレナが消えた場所のまま。
胸の奥に残っている。
共鳴の感覚は消えない。
リシアが静かに言う。
「オリオン」
「判断を誤らないで」
オリオンは答えない。
ただ。
小さく呟く。
「……違う」
何が、とは言わない。
言えない。
だが。
確かに残っている。
あの一瞬。
視線が交わった時の感覚。
敵ではない。
そう断定するには弱い。
だが——
切り捨てるには、強すぎる。
オリオンは目を閉じる。
そして。
何も言わなかった。




