第18話 見えた影
第3章 6/6
学院。
報告室。
調査隊が戻っていた。
空気が重い。
教師が報告する。
「森の奥で暴走個体を確認」
「通常個体とは明らかに異なる挙動でした」
机の向こう。
学院の上層部が黙って聞いている。
「加えて」
教師が続ける。
「現場には広範囲の魔力異常」
「自然発生とは考えにくい」
静かなざわめき。
一人が言う。
「……人為的、か」
リシアが前に出る。
「可能性ではありません」
はっきりと言う。
「人為的です」
視線が集まる。
リシアは続ける。
「魔導波の流れが歪められていました」
「局所的に」
「意図的に」
短く、確実に。
部屋が静まる。
別の教師が口を開く。
「だが、そんなことが可能なのか」
リシアは首を振る。
「通常の魔法では不可能です」
「ですが」
少し間を置く。
「何らかの手段で歪められていると感じました」
その言葉が重く落ちる。
カインが小さく呟く。
「どういう手段でできるんだ」
オリオンは黙っていた。
森で感じた波。
弱いがまだその感覚が残っている。
その時。
別の報告が入る。
扉が開く。
慌ただしい足音。
「報告します!」
全員が振り向く。
「北方領域にて同様の魔物暴走を確認!」
空気が変わる。
さらに続く。
「西部でも魔法暴走が発生!」
「複数地点で同時に異常が確認されています!」
沈黙。
重い。
一人が低く言う。
「……広がっているのか」
リシアが答える。
「はい」
迷いなく。
「これは局所的な問題ではありません」
「魔導波そのものに影響が出ています」
教師が問う。
「原因は」
リシアは一瞬だけ考える。
そして言う。
「現時点では不明です」
「ですが」
視線を上げる。
「誰かが関与しています」
断言。
部屋が静まり返る。
オリオンは目を閉じる。
感じる。
遠く。
見えない場所。
魔導波。
揺れている。
歪んでいる。
それは。
誰かの意志。
その感覚が、はっきりしてきていた。
――その頃。
暗い空間。
石の床。
巨大な空間。
深淵魔団の拠点。
玉座の前。
一人の男が立っていた。
ヴァルド。
静かに座る。
その前に。
ゼクトが跪く。
「報告を」
低い声。
ゼクトが笑う。
「実験は順調です」
「各地で反応を確認」
「魔導波は確実に乱れています」
ヴァルドは目を細める。
「そうか」
短く言う。
ゼクトは続ける。
「ただし」
わずかに口角が上がる。
「やはり“再現”では限界があります」
「本物には及ばない」
ヴァルドは動じない。
「問題ない」
静かな声。
「いずれ手に入る」
その言葉。
確信に満ちている。
その時。
気配。
空間の奥。
一人の影。
静かに立っている。
長い髪。
揺れる衣。
セレナ。
何も言わない。
ただ、そこにいる。
ゼクトが視線を向ける。
興味深そうに。
「……鍵は彼女か」
小さく呟く。
セレナは反応しない。
ただ。
遠くを見る。
その瞳。
どこか空虚。
そして。
わずかに。
揺れた。
――学院。
オリオンが目を開ける。
胸の奥。
何かが引かれる。
遠く。
見えない誰かに。
「……今」
小さく呟く。
カインが振り向く。
「どうした?」
オリオンは首を振る。
「いや……」
言葉にできない。
だが確かに感じた。
同じもの。
自分と似た何か。
リシアが見る。
「何か感じたの?」
オリオンは少し迷う。
そして言う。
「……分からない」
だが。
確信だけはあった。
魔導波は確実に歪みつつある。




