【77-2】元暗殺者〜スカウトする〜傭兵ギルドで脅された!?
斧を持った男が名乗り出て来ました。さアランはこの男を雇うのでしょうか?
「おいおい、景気のいい話じゃねえか、雇い主様よぉ! だったら、まずはその『二割増し』の金に見合う器かどうか、俺が力を見せてやろうかぁ!?」
巨漢が威圧するように大斧を床に叩きつける。凄まじい衝撃音に、ブランシュが「ヒッ……!」と息を呑んでアランの後ろに隠れた。
しかし、アランは内心は恐怖を感じ必死でいながら、眉一つ動かさないで耐えた。そして、目の前の大男を見つめ返した。
「腕力に自信があるのは結構だけど、僕が欲しいのはただの力自慢じゃないんだ。雇用主を守り、その秘密も守れる頭が欲しい。……君じゃ、うちの商品の秘密を守れそうにないな」
「んだと、コラァ!!小難しいことばっかり言いやがって、俺をバカにしてんのかぁ?」
激昂した大男が拳を振り上げテーブルに叩きつけた瞬間――。
酒場の隅、一番薄暗い席から、一本のナイフがヒュンと風を切り、ゴンッとテーブルの上の大男の拳の前に突き刺さった。
「――おいおい、豚ゴリラ。みっともない真似すんじゃねえよ。そこの坊主の言う通り、お前じゃ一日で雇い主の秘密を酒場で喋り散らすのがオチだろ」
鈴の鳴るような、だが低く冷ややかな声が響く。そこに座っていたのは、全身を黒い軽装の防具で包み、目元を深くフードで隠した、敏捷そうな一人の傭兵だった。まるで忍者のようだ。
アランはそのナイフの軌道と、声の主の佇まいを見て、ニヤリと口元を笑みを浮かべた。
「……見つけた。ブランシュ、やっぱりここに来て正解だったよ。うちの護衛候補の筆頭だ!」
「え、ええ……? あ、アラン様、あの人、強そうな感じはしないんですけど……本当に大丈夫なんですか……!?」
「うん、心配しないでも大丈夫だよ」
アランは、先ほどの大男の脅しにまだ震えているブランシュを優しく宥めながら、ナイフが突き刺ささったテーブルを通り過ぎ、ナイフの出発点の、暗がりに佇む黒ずくめの傭兵から目を離さずに立ち上がり一歩踏み出した。
アランは迷いのない足取りで、薄暗い奥の席へと歩みを進めた。激昂していた大男はナイフの主の放つ迫力に気圧され、舌打ちをしながら引き下がっていった。
フードの影からは、アランを値踏みするような鋭い視線が注がれた。ナイフの主の手元には、すでに二の矢となる暗器が滑り込んでいた。普通の平民なら足をすくませる緊迫感の中、アランは親しげな笑みを浮かべて、その正面に腰を下ろした。
「いい腕だね。その正確な投擲と、一瞬で場を支配する間合いの取り方。僕の目に狂いはなかったようだ」
アランは懐から、先ほど不動産屋で交わしたばかりの、ブラン地区の事務所の契約書をテーブルに滑らせた。
「僕はこの事務所と僕自身と僕の商会員の護衛を探しているんだ。これから僕たちが始める事業には敵対する人間が多く出てくるに違いない。だから、嫌がらせを受けたり、場合によっては命を狙われるリスクもある。だから、並の頑強さだけが取り柄の大男じゃなく、影に潜んで一撃で脅威を排除できる、君のような本物のプロが必要なんだ。それに君は女の人だよね。それならブランシュを安心して任せられる」
ブランシュが意外そうな顔をした。
傭兵の女性は、フードの奥で小さく鼻で笑った。子どもの商人が語る大言壮語が、世間知らずの絵空事に聞こえたのかもしれない。けれども、アランが次に提示した条件を聞いた瞬間、明らかに彼女の雰囲気が変わった。
「報酬は、通常の旅商人護衛任務の倍を保証する。それだけじゃなくて、ブラン地区にあるこの事務所を夜間警備してもらう代わりに、二階に君が住む部屋を提供するよ。これからはうちの専属として、自分の部屋を自由に使ってくれていい。部屋代は不要だ」
生活環境の提供と、破格の報酬。特に個室が与えられるという条件は宿屋に泊まるか野宿をして生きる女性の傭兵にとって、かなり魅力的な提案だった。
アランはそう言ってテーブルに、前金としてきらりと光る金貨を一枚置いた。
「これは契約の証としての前金だよ」
アランの口説き文句に、フードの奥の美しい唇が、降参したように小さく弧を描いた。彼女はフードを取ると名乗った。
「元暗殺者のシャノアだ」
ブランシュが暗殺者の響きにヒッと小さく息を飲んだ。浅黒い肌に映える銀髪を短く切り揃えた眼光の鋭い切長の眼をしていた。その迫力を薄めたら美人と呼べるだろう。軽々しくいい女だなんて口にできそうもない雰囲気だ。
「よろしく、シャノア。この前金は報酬とは別にとってもらっていい。事務所への引っ越しが済んだらこのギルドに連絡するから来てよ。もしかしたらその前に護衛任務を頼むかもしれない」
「承知した」
フードをかぶり直したその奥の暗がりで、シャノアの美しい唇が不敵に吊り上がった。彼女は無言のまま、金貨を指先で目にも留まらぬ速さで弾いて懐へと収めると、先ほどのテーブルのナイフを引き抜いて立ち去った。
傭兵ギルドを後にするとブランシュが心配そうな顔で言った。
「アラン様、シャノアの詳しい経歴を聞かないで即決しても良かったのかしら?」
「傭兵ギルドに登録する時点で、どうしようもない連中は弾かれているよね。その上で、あの投擲の技術と寡黙だけど脳筋ではない話し方で彼女の頭の良さもわかった。その上あの豚ゴリラが彼女に一目置いて引き下がったことをみても、彼女の強さは本物さ。第一元暗殺者なのだから姿を隠すのも得意だろうし、色々役になってくれると思うよ。雇ってみて、もし僕たちと合わないと思ったら、その時は解雇すればいいのだし」
「わかりました。アラン様がそうおっしゃるのなら、もう何も言いません」
こうしてアラン達は、美しき黒豹のような護衛をその陣営に迎えることにした。
なんとアランが雇うことにしたのは元暗殺者=アサシンでした。でも腕は確かみたい。さて次のエピソードは思案中なので予告ができません。更新は元のペースでの予定通り7/10です。




