【閑話7】カトリーナが王宮をクビになったわけ
更新は7/8の予定でしたが、閑話なので7日に更新してしまいます。
私はカトリーナ。王宮の元文官。それが今は無職で休職中だった。でも王宮勤めを辞めた経緯から、私を雇いたいという貴族や商人は、アラン様が誘ってくれるまで、ただの一人も見つからなかったわ。王宮の文官は、勤め続けていればいずれ騎士爵と同様に一代限りの爵位が与えられて、貴族の一員になれるはずだった。でも、それも今は叶わないの。なんでそんなことになったかって?じゃあ少し身の上話しを聞いてくれるかしら。
……ふぅ、このお茶、少し淹れ方が荒いわね。気が立っているからお茶すら美味しく入れられないわ。次からは茶葉が完全に開くまで、もう一呼吸置かなくちゃ。……誰かに怒っているわけじゃないの。自分に腹を立てているだけよ。
私の過去、ね。……アラン様にも誰にも、まだ話していなかったわね。私がどうして、あの堅物な王宮の法務官をクビになったのか。
一言で言えば、私が「折れなかった」からよ。
中央の法務局にいた頃、ある大規模な大理石の採掘権を巡る利権争いの裁判があったの。表向きは地方の豪商同士の小競り合い。でも、提出された契約書の数々を精査していくうちに、私はある妙な「数字の不一致」に気づいたわ。私は細かいことが気になる質で、法規と書類の矛盾を見つけるのは得意なの。私の悪い癖。
裏の裏まで突き詰めたら、何のことはない。王宮の最高法務責任者――つまり、私の当時の上司だった伯爵が、偽造した王命の捺印を使って、採掘権を丸ごと自分の息のかかった商会に横流ししていたのよ。正当な権利の持ち主を陥れて。そしてキックバックを得ていた。法を司る最高峰の人間が、法を泥靴で踏みにじって私腹を肥やしていたのを見つけちゃった。
当然、私は告発書を作って伯爵のさらに上、宰相様宛に提出したわ。若かったのね、正義が勝つと信じていた。
でも、次の日の朝、私のデスクは綺麗に片付けられていたわ。出勤した私を待っていたのは、上司からの冷え切った言葉だった。
「カトリーナ・エヴァンス。お前のデスクはもう無い。それどころか、お前が夜遅くまで熱心に偽造していた、上官を貶めるための虚偽の告発書を押収した。……国家反逆罪で極刑に処されても文句は言えまい?」
ぞっとしたわ。彼らは私の告発書を宰相様へ届く前に回収して、逆に丸ごと捏造品に仕立て上げ、私を『頭のおかしい、虚言癖のある犯罪者』に仕立て上げたの。腐っていたのは直属の上司だけでなく、そのルート上に連なる人物まで彼の息がかかっていたと気づいても後の祭り。その日のうちに私は地下の監獄へ一旦は連行されたわ。ジメジメして暗くて寒く、しかも臭い監獄の中は今思い出しても怖気が震える酷さだった。いっそ死んでしまいたいとさえ思ったわ。
幸い、私の実家が地方とはいえ、それなりに中央の伝手があった。それであちこちに助命嘆願書を送りまくって、なんとか極刑だけは免れて「永久追放」という形で処理されたけれど……。釈放された時、私を嘲笑った上司たちの顔と、何より、私が何よりも大好きで一所懸命学んできた法が、権力者の胸三寸でいとも簡単に解釈を書き換えられてしまった事実が、悔しくて、情けなくて、ボロボロと涙が出たわ。
だから、アラン様が領都の役所で窓口の役人に嘘であしらわれているのを見て、我慢できずに口出ししてしまった。でもその後で、アラン様が「商売で影響力を拡大して、資金力と知識で利権をひっくり返す」って言った時、私、本当に胸の奥がスッとしたのよ。
王宮の法は、彼らの都合で解釈が変られてしまう。でも、私たちが一度紙に印刷して世界中に配ってしまった『真実』は、彼らの権力をもってしても、二度と消すことはできない。法で捌けなくても世間が裁いてくれる。例の男爵家の跡取り騒動のようにね。
……ふふ、ちょっと話しすぎちゃったわね。さあ、アラン商事の設立登記の書類、最終チェックを終わらせてしまいましょう。今度は私たちのルールで、あの煙たい奴らの鼻を明かしてやるんだから。見てなさいよ!
通常エピは予定通り8日に更新します。




