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【76】元文官〜雇う〜クールビューティーの新キャラ登場

これから続々と新キャラが登場します。一人目は法律に詳しいクールビューティーです。でも一癖ありそう。

 僕は初めて子爵領の役所にブランシュと共にやって来た。油紙の使用申請だ。食品に使う場合は商業ギルドに届けるだけでなく、役所にも届ける義務があると最近知った。これは王国の規則なので子爵領の技師長という肩書の威光で、簡単に通ったりはしない。


 役所の中の大理石の床がひんやりと冷たい広大なホールには、重厚なオーク材の受付カウンターが厳かに佇んでいた。その上には、王国への届出書類や分厚い台帳、インク壺が整然と並び、格式高い雰囲気を漂わせていた。


 カウンターの向こうでは、仕立ての良い官服に身を包んだ役人が、羽ペンを走らせながら冷徹な目で訪問者を品定めしていた。許可を求める平民の商人たちが緊張した面持ちで列をなし、静まり返った空間には、書類をめくる乾いた音と、カチカチと時を刻む古い大時計の音だけが厳かに響き渡っていた。


 僕たちの順番がやってきたが、窓口の役人に「食品を包む油を含んだ紙の届出だと?前例がないな」「新規の認可手続きには数ヶ月かかる」と冷たくあしらわれた。数ヶ月もかかるというのは予想外だった。お役所仕事もここに極まれりだ。


 僕たちが困り果てていると、そこへ一人の女性が通りかかった。彼女は役人がアランたちを門前払いしようと提示した規則集を目にして、ツカツカと早足で歩み寄ってきた。彼女は、一言で表すなら「氷の彫刻のように研ぎ澄まされたクールビューティー」だ。鋭い青紫色の瞳と艶やかな濃紺の髪を一筋の乱れもなくきっちりとハーフアップにしている彼女が口を開いた。


「そこの窓口担当者。王国地方自治法第十二条第四項を意図的に歪曲して説明するのはおやめなさい。彼らの申請は、現行の特例措置に則れば即日受理されるべきものです」

「ム、ググッ。余計なことを。わかった。書類は受理するからそこに置いて行け」

 窓口の役人は受領書に判を押して返した。


 スラスラと法律を暗唱し、窓口の役人を論破して黙らせてしまう女性。しかし、そんな彼女に役人は忌々しげに吐き捨てた。

「チッ……うるさいぞ、王都を無能でクビになった前科者が。おい、邪魔をしていないでさっさと出て行け!」

 理不尽な罵声を浴びせられ、彼女は悔しげに唇を噛み締めながらも、毅然と背筋を伸ばしてその場から出ていった。


 その姿を見たアランとブランシュは、顔を見合わせた。彼女の有能さと曲がったことが嫌いな人物は、逃してはならない人材だと確信した。アランは彼女を追いかけ、路地裏で声をかけた。よく見ると彼女は、皺一つないスーツを完璧に着こなしていた。


「もしもーし、僕たちを助けてくれたそこの女性ひと、ちょっと待ってくれませんか。」

「私に何かご用でしょうか?」

 知性を湛えた青紫色の瞳の女性は立ち止まって、僕たちを怪訝そうに見た。

「先ほどは役人の間違いを指摘して、届出の後押しをしていただきありがとうございました」

僕は彼女に足早に近寄りながら礼を言った。

「いえ、役人が間違ったことを言っていたので、それを指摘したまでです。お礼を言われる筋合いはございません」

「あなたは、それだけの法律知識がありながら、役人にあんな酷いことを言われてるんですか?」

「言っても誰も信じてくれませんが……私には法を曲げる器用さが足りなかったのです。王宮の腐敗を正そうとして、逆に上役に無能の烙印を押されて放逐されました。賄賂のやり取りは公務をスムーズに動かす潤滑油のごときものだそうです。私のような堅物は、この国の組織のどこにも居場所は無いようですわ」


 自嘲気味に、しかし気高く背筋を伸ばす女性。アランは思わずニヤリとした。

「自己紹介がまだでしたね。僕はアラン。プラード男爵の三男で、ロックブリュン子爵領の技師長を拝命しています。」

「まあ、あなたがあの蒸気自動車の…私はカトリーナと申します。聞かれたと思いますが、王宮の元文官ですわ」


「既存の組織に居場所がないなら、僕が新しく作る商社に来ませんか?…僕はこの国でどこにもない物を扱う商社を立ち上げるつもりです。今はその準備段階ですが、有能な仲間を探しています。あなたはそれにピッタリだと感じました」

「私をお誘いくださるのですね。ですが私のようなスネに傷をもつ者を引き入れても大丈夫でございますか?」

「いえ、クビを覚悟で不正を告発したあなたのその生真面目さを買っているんです。僕たちのチームには法律や貴族社会について詳しい人間がいないので、あなたは是非とも欲しい人材です」


「そちらの方面は詳しいのですが、商取引の仕組みではなく商売そのものについては知識不足でして、お役に立てるかどうか」

「商売っていうのは、ただモノを売るだけじゃありません。これから事業が大きくなれば、他国の法律、関税、貴族どもが仕掛けてくる理不尽な利権争いに必ずぶち当たるでしょう。僕には誰にも思いつかないアイデアはあるけれど、この世界の複雑な法律や、汚い貴族の交渉を切り抜ける術を知らなすぎるんです。つい先日もヘラルド新聞社が貴族の配下に襲撃を受けましたし。新しいことには必ず軋轢が生まれます。ぜひ、あなたに手伝ってもらいたい」


 アランはカトリーナの瞳を真っ直ぐに見据え、逃すまいと彼女の腕を掴んだ。

「あなたの頭脳があれば、合法的に僕たちを難敵から守れるでしょう。そして僕たちの商社がやがて国を動かすほど影響力を持てば……あなたをハメた王宮の腐敗役人を見返すこともできるでしょう」


「えっ……商社の力で、王宮の権力者を追い落とす!?」

 アランの言葉にカトリーナは息を呑む。アランの隣にいるブランシュでさえも、ここまでアランがビジョンを熱く語る姿を見たことがなかったので息をのみ目を丸くしていた。僕は大風呂敷を広げたのを自覚し、ブランシュを見て軽く左目をつぶった。


「……呆れた。とんでもない大言壮語ですね、あなたは。ですが……その傲慢とさえ思えるまでの不敵さ、嫌いではありませんわ。乗りましょう、あなたのその大博打。私の融通の利かない頭脳、あなたの未来の商社に捧げますわ」

(「ヤッター!知性はのクールビューティーをゲットだぜ!」)

「ようこそ、アラン商事へ」

 僕とブランシュは順番にカトリーナと握手した。

新しい戦力カトリーナ。頼りになりそうですね。次はカトリーナが王宮を辞めた経緯を閑話で取り上げます。明日7/7(七夕)に更新します。

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