【72】神殿教室〜提案する〜文字と計算の教室を開きたい
なろう系ぽくサブタイトルを突けてみました。
ブランシュの母校に九九の表を認められたアランは、それなら学校がない平民向けの教室を開きたいと考えます。まず神殿に働きかけるつもりのようです。
「ブランシュの母校での講演会での参考にしたいんだけど、少年探偵団の読み書き計算能力はどのくらい進歩したのだろうか?」
「そうですね。この世界での商家に生まれた同い歳の子どもと同じくらいの実力はあると思いますよ。文字は読めますし、一桁同士ならたし算・ひき算・かけ算もできます。わり算はこれからですが、九九の表を見ながらなら今ですぐでもできるでしょう。余りについては教えないとだめですが、この世界の平民として生きていくには十分すぎる実力ですよ」
そうなのか。もしも前世の小学生レベルだったら天才児になってしまうじゃないか。けれども、この世界の文明レベルを上げるためには、どうしたって平民の能力の底上げが避けられない。いよいよ学校を作る準備をする時が来たようだ。
例の笛を吹いてルークを呼び出した。彼が来るまでの間、バスティアン宛に今日面会したいという旨、木札に記しておいた。
「ルーク、これを神殿に届けて欲しいんだ」
「ボス、わかりました」
うん、最近はルークの言葉遣いもだんだんと丁寧になってきたな。
小一時間雑務をしてから僕は言った。
「ブランシュ、僕と一緒に神殿へ行ってくれないかな?」
「あら、珍しい。神殿ですか?もしかして魔術に進展があったとか?」
「いや、そうじゃないんだ。平民向けの学校というか教室を試験的に一つだけ作ろうと思うんだ。一つくらいなら援助できる収入はあるからね」
「それを神殿でなさるおつもりなんですね。わかりました。お供します」
分かりみが早い。二人でミュゼット号に乗って神殿へと向かった。
◇
神殿の入り口近くの塀の脇にミュゼット号を駐めて門番の所に行くと、面会の話が通っていてバスティアンを呼び出してもらえた。神殿の建物の入り口で待っていると彼が来てくれた。
「アラン様よくお出でくださいました」
「バスティアン様、突然のご訪問を受けていただき嬉しく存じます」
僕の代わりにブランシュが言ってくれた。神官見習いに対してどの程度の敬語を使えばいいの、いつも悩んでいたので助かった。
「では、中へどうぞ」
前に来て魔術の件で相談したのと同じ部屋に通された。
「それでご用件はどのようなものでしょう?」
僕は探偵団のことも含めて全て正直に話すことにした。
「実は私は仕事の連絡などで町の孤児をその都度雇って使っています。そうした仕事をする上で、文字の読み書きや数の計算ができたら役に立つので、孤児たちにそれを教えたのです」
「孤児に読み書き計算をですか。それはとても慈悲深いことです」
「いえ、必要に迫られてですからそれほどでも。その際に、私が考案した教材を使ったところ、孤児たちは遊びながら楽しく、読み書き計算の初級をマスターしてしまいました」
「それはどの程度のレベルを、どのくらいの期間でですか?」
「文字を読めて一桁のたし算・ひき算・かけ算ができます。期間は子どもによって個人差がありますが、一月から二月ほどでしょうか」
「それは随分と短期間ですね。他の人の言葉なら信じられませんが、他ならぬアラン様がおっしゃることなので事実なのだと思います」
「それで、この成果を私の身近な孤児たちだけに留めておくのはもったいないので、どこかで平民向けの教室を開いて教えることはできないかと考えました。しかしながら、私はまだ自分の力で部屋を借りて私塾を開くほどの財力はないので、どちらかで場所の提供をお願いできないかと考えた次第です。教材は私が用意しますし、教師はこちらのブランシュが担当します」
僕はブランシュに視線を向けると、彼女はニコリと微笑んだ。
「なるほど、その教室を神殿で開くことをお望みなのですね」
「ご理解が早くて助かります。おっしゃる通りです。もちろん幾ばくかのご寄付はさせて頂きます」
「私の一存ではとてもお返事できかねますので、上司のエドモンに話を持っていきます。今のお話を要望書として私宛に手紙で送っていただけますでしょうか?」
「わかりました。戻ってそのように致します。本日はお時間をとっていただきありがとうございました」
そう言って僕とブランシュは立ち上がり神殿を後にした。
◇
戻って直ぐに要望書を書いてバスティアンに送った。三日後に神官のエドモン・ヴァランタンから返事が来た。要約すると、神殿は神の教えを説くところなので、読み書き計算を教えるために神殿の施設を使わせることはできないというものだった。ブランシュは
「このエドモンという神官はアラン様のことをご存知ないのかしら。ミュゼット号を作り領主様に献上し、領の技師長の職につかれているのに」
「あはは、想定内だよ。僕のしたことが神様のためになると思わなければ当然の反応さ。それに彼らは平民が愚かなままでいてくれた方が、教会の権威を保てるからね」
「それにしても、まったく歯牙にもかけないこの文面はなんて失礼なんでしょう!」
ブンブンという音が聞こえてきそうな勢いで、彼女は手紙を振った。今にも飛んでいってしまいそうだ。
「まあ、すぐに教室を開くプランがうまく行くとは思っていなかったから、次の手を考えようか」
ブランシュが何やら意味ありげに僕を見た。
「私の母校から講演の依頼が来てそれを受けることにしましたよね?でしたらその際に院長先生に放課後の教室をお借りできないかご相談されてはいかがかしら?あそこなら、実業に必要な学問の大切さを、誰よりも理解してくれるはずですわ」
「うん、そうだね。神殿がダメなら、次教育のプロと組むことを考えよう。そしてもし実業院も受け入れてくれなかったら、領主様にお願いしてみようかな」
「アラン様の予定が見通せなかったので、実業院へのお返事がまだでした。平民の子どもの教室の件もそれとなく手紙に書いておきますわ。詳しくは実際にお会いしてお願いした方がいいに決まっていますもの」
「うん、お願いするね。頼りにしているよ」
そう言うとブランシュは嬉しそうに自分の机に座って手紙を書き出した。
神殿には断られてしまいました。でもアランには想定内だったようです。ブランシュの母校に提案を持って行こうと考えました。それは少し先のこととなるので、その前にすることとは…。次回は6/28に更新予定です。




