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【71】淑女実業院からの手紙〜招待される〜講演依頼とドアチェーンの製造着手

ドアチェーンの試作品を持ってメートル・トマの工房へ製造の打診に行ったブランシュ。さてメートルからの返事はいかに?そして、ブランシュの母校の女学校から手紙が届きました。一体何の要件なんでしょうか。アランにも関係あるのかな。

 ブランシュが工房から戻ってきた。

「メートルの話ではうちの工房で作るのも、多分難しくないだろうということですが、アラン様のお話を聞きたいって言っていますよ」

「それじゃ行ったり来たりで悪いけど、もう一度一緒に工房へ行ってくれるかな?」

「はい」

 ブランシュの返事は元気が良かった。

 メートル・トマの工房へ顔を出すのは久しぶりだ。最近はカイルの所ばかり行っていたから。


「坊ちゃん、お久しぶりです」

 開口一番メートルが言った。目の端が少し上がっていたので(「坊ちゃん、このところお見限りでは?」)という心の声が聞こえた気がした。

「そうかな。木製トランプの打ち合わせをしたのはそんなに前じゃなかった気がするよ」

「ハハハ、そうでしたな。それでこのドアチェーンっちゅう物の目的と使用する状況について詳しく知りたいんでさ。一応お嬢様からは聞いたんですがね」

「これは防犯グッズなんだ。不意の客、それも好まざる客が来た時に、ドアを開けて押入れられないようにするためのものだ。ドアをわずかに開けて相手を確かめて、入れても良い人間なら一旦ドアを閉めてフックを外し、ドアを開け入ってもらうんだ」

「なるほど、よくわかりやした。するってぇと、ドアを無理やり引っ張られても壊れない強度が必要だってことでんな。それから外から簡単にフックを外せないようにしておかなくちゃならない」

「うん、大正解!」

「それに合う材質を選ぶのと、留め具は釘だと金具が抜けちまうから、太くてある程度長い木ネジを用意しなくちゃいけんね」

「そう、チェーンも細過ぎないように強度が大事だよね」


 僕は一緒に来ていたレイモンに尋ねた。

「これは他の遊び道具のようには売れないと思うんだけど、発売時にはどれくらいの数を準備すれば良さそうかな?」

「そうですね、台車やネコ車の顧客には売れそうですが、一般には説明が必要な商品なので、五十もあればいいのではないかと思います。まずは商店や事務所向けですね。後は一人暮らしの平民でしょうか。貴族や大商家は護衛がいるでしょうから」

 そうか。前世のように防犯が気になるほどの平民の数は多くないもんな。盗まれるものがある家は少ないか。

「うん、在庫が切れそうになったら追加で製造するのでいいかな。値付けはお任せします」

「はい、メッキをした高級品は高く、鉄のまんまのやつはそれなりの値段にします」

「じゃあ、そういうことでお願いしますよ」


 ◇


「アラン様、今回は爆発的なヒット商品とはいかないみたいですね。」

 ブランシュは残念そうだ。

「そうだね。家に守るべき物を持っている人が買ってくれればそれでいい」


 執務室に戻ると、ブランシュ宛の手紙がどこからか届いていた。ブランシュは封蝋を確認してから封を切り手紙を取り出すと、何故か背筋を伸ばしてアランに向き直った。

「私の母校である『聖マルタ淑女実業院』の新院長、マダム・クラリスから、私宛てに直筆の書簡が届きました。要件は……アラン様が考案された『九九の表』についてです。あの表についてお知らせしたのは、アラン様の家庭教師となってすぐでしたから、何年も経って今頃どうしたのでしょうね」

 ブランシュが手紙を朗読しだした。

 ーーーー

 親愛なるブランシュ嬢

 新緑の候、貴女におかれましては領都ロックシュタッドにて、ご実家のレイモン商会で新たな事業を進められ、大いにご活躍のことと拝察いたします。また、我が校の誉れ高き卒業生である貴女が、ご父君の元で立派にその手腕を発揮していると聞き、大変嬉しく思っております。


 さて、本状をお送りいたしましたのは、数年前に貴女が送ってくださった『九九の表』を見つけ、今更ながら折り入ってお願いがありご連絡いたしました。例の表の重要性に気付かずに、何年も前院長が埋もれさせておりましたことをまずはお詫びいたします。


 我が実業院は、貴族の皆様にお仕えする執事や侍女頭、あるいは大商会を支える有能な事務員を育てるべく、礼儀作法と「正確な算術」を重んじて教育を行ってまいりました。

 しかし、貴女が送ってこられた『九九の表』は、我が校がこれまで生徒に何ヶ月もかけて学ばせてきた乗算の計算時間を、ずっと短期間で習得できる、極めて有用な知恵であると確信致しました。


 現在、我が校の算術教官たちの間でもこの表の話題でもちきりであり、「もしこれが習得できれば、今後の算術教育の形が変わってしまう」と、大きな衝撃が走っております。

 つきましては、我が校の創立記念式典を兼ねました直近の役員会において、本校の卒業生であるブランシュ嬢を、特別講師として本校へお招きしたく存じます。


 貴族の皆様へ不敬を働かぬためのマナー、そして商売の最前線で必要な教養を教える我が校にとって、この『九九』は生徒たちの未来を明るくする鍵になると確信しております。

 不躾なお願いとは存じますが、近いうちにぜひ我が校の門を叩いていただけることを、教職員一同、心よりお待ち申し上げております。


 敬意を込めて

 聖マルタ淑女実業院 院長

 マダム・クラリス・ヴァロワ

 ーーー

 ブランシュは手紙を読み上げると一息ついた。

「つまり、九九について教えに母校へ来て欲しいというブランシュへのお願いだね?」

「でも、あの表はアラン様が考案されたのですし、アラン様の実績とされるべきですわ」

 日本じゃ誰でも知っているし、そんな大層なもんじゃないんだけどな。どうするべきか。

「かけ算だけじゃなくて、わり算への応用や筆算のやり方もあります。そちらの説明はアラン様にしていただいた方が間違いないと思いますわ」

「全校集会とかじゃなく役員会でって言っているんだよね?それなら一緒に行ってみようか」

「はい、そのようにお返事を書きますね!」

 なんだかブランシュは嬉しそうだ。また僕の株を上げようと画策してるんじゃないかろうね。



ブランシュの母校から接触があったけれども、まずは地元で学校を開きたいアランが動きます。次回は6/26更新予定です。

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