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【70】お尻の痛さを解消するために動く〜縮む〜スプリング・クッションの発注と防犯グッズ

油紙もまだできていないのに、もう次の商品を思いついいてしまうアラン。振り回されるカイルも大変だ〜。

 実家からの帰りに尻が痛くなり、さらにテオの所から紙の改良の話し合いの際に出た、サスペンションについて僕は考え続けていた。やがてもっとずっと簡単な解決策を思いついたのだ。発想の転換だってばよ!馬車に乗って尻が痛くなるのが問題なのだから、なにも馬車の乗り心地そのものを改善しなくてもいいのではないかな?今でも大商人や貴族は、座席の上に綿や鳥の羽根入りのクッションを使っていたりする。だったらこのクッションを改良すればいいのではないかい。その方が馬車にサスペンションをつけるより何倍も楽チンだ。


 そこで僕は考えたのだ。コイルスプリングを使ったマットレスのようなクッションを開発すれば目的は達せられるんじゃないかと。とは言ってもこの世界の技術でコイルスプリングは作れるのだろうか。思いついたら吉祥寺じゃなくて吉日。僕はミュゼット号を駆ってすぐにカイルの所へ向かってしまった。下町の職人街の路地は狭いので、路地の入り口に駐車した。駐車違反がある世界じゃないので駐め放題だ。しかし、こんなところに駐めたら分解されそうな気もする。路地の入り口近くにいた孤児を呼び止め小遣いをやるからと見張を頼んだ。


「カイル!相談がある」

 カイルの工房の戸をバシッと開いて入りながら言った。

「ボス、慌ててどうしたんですかい?」

 僕はコイルスプリングを描いた絵を見せて説明した。

「これは細い針金を螺旋状に巻いたものだ。ただの円筒形ではなくて中央が太くなっている樽型だよ。こうすると良いことがあるけれど、今はそれは気にしないでいい。この形が必要だということ」

「はあ」

 納得していないようだけど、スプリングが縮んだ時に隣のスプリングと干渉しないためだ。僕は先を続ける。


「針金ってあるのかな?鉄を糸のように伸ばしたものなんだけど」

「やわい鉄線ならありまさぁ」

「柔らかい鉄じゃダメなんだよな。硬さが必要なんだよ。どうしようか?」

「鉄には二種類あるから、硬い鉄からその針金ってやつを作るか、柔らかい針金を硬くするかどっちかだねぇ」

 カイルがすかさず二択を示した。銑鉄と鋼鉄ってことか。


「うーん、鉄の硬さは炭素の含有量による。スプリングの炭素を増やすにはどっちが楽なんだろう?」

 僕は独り言を言いながら思案した。硬い鉄、即ち鋼鉄から鋼を作るのはこの世界では大変そうだ。鋼鉄を熱してダイスの穴を通して押し出したり引き出したり。それなら針金の炭素を増やす方が簡単かな?いや、それでも酸素の遮断と高温を維持しないといけないな。


「柔らかい針金をさっきの図の形にして、高音でも溶けない箱の中に木炭の粉と木灰を詰めて、その中に形を崩さないようにして埋めるんだ。その上で空気に触れないように密閉して高音で数時間熱することができれば、硬い針金のスプリングができる」

「スプリングですか。話を聞くと面白そうでんな。ボスの言う手順はかなり面倒そうだけど。空気に触れないってのと高温を維持するってところがどうにかできるかなぁ…」

 カイルの目がキラキラと輝いている。チャレンジできるのが楽しいのだろう。

「どうだい?挑戦してくれるかな?」

「他へ持って行ってもこんな難題を引き受ける工房はねぇでしょう。やってみますよ。だけんど油紙の改良と並行してになるので、少し時間をもらいたいんでさ」

「うん、わかった」


「それでそのスプリングっちゅうのは何個必要なんです?」

「そうだなぁ…試作では三十個は欲しいかな。試作はどんな作り方をしてもいい。でも最終的には試作だけじゃなくて、継続的な製造方法まで作り出して売り出したいんだ。狙い通りにできれば、これは世の中を変える発明になるよ」

「そいつは職人冥利に尽きるってもんでさぁ」

「資金は出すから頼んだよ」

 当座の資金として金貨二枚を渡して工房を後にしようとしたらカイルに呼び止められた。


「ボス、頼まれたチェーンはできてるよ」

 おっとそうだった。すっかり忘れていた。

「どれ、見せてくれるかい?」

 カイルは工房の奥から細長いものを持って僕に渡した。うん、ドアチェーンそのものだ。

「こいつは僕の想像通りのものだよ。ちゃんと片端はドアに釘かネジで止めるための穴が空いた金属プレートになっていてもう一方はフックになっているし。いい出来だよ」

「鎖は出来合いの物があるので、両端のプレートを作っただけでさ。フックを掛けるためのプレートがこれです。これは安上がりにできまっせ。んでも簡単に真似できるのが難点でさぁ」

「そうだね。でも王宮に登録すれば一年間は先行利益が期待できるさ」

 僕は銀貨三枚を渡して、今度こそカイルの工房を後にした。


 ◇


 事務所に帰ると、ブランシュにドアチェーンを手渡した。

「アラン様、これはなんでしょうか?」

「なんだと思う?当ててみて」

「鎖なんですけれど、ただの鎖ではないですね。片端に小さな板がついています。それに穴が空いている。反対側は引っ掛ける形に……もしかして、どこかにこれを取り付けるのですか?」

「いい線いっているね。これはドアチェーンと言って、ドアとドア枠の間に取り付けるんだ。そうするとドアが少ししか開かなくなる。一旦ドアを閉めてフックを外すとドアは全開にできる」

「随分と面倒なことをするんですね。どうしてかしら?」

「招かれざる客が来たときに、家に入られないためさ」

「なるほど、最初は小さく開けて来客を確かめて、知人ならば入れるし、知らない人ならそのままドアを閉めてしまえばいいのですね」

「ユリアさんが狙われていた時にガストンが、ドアを小さく開けて僕を確かめてからドアを開いたので思いついたんだ」

 もちろん、前世にあったから思い出しただけなんだよな。これは黙っておこう。

「防犯のための商品ですね。これは大ヒットとはいかなくても、小金を貯めている平民とか商人の自宅用とかの需要が見込めます。商品化しましょう!」

「ブランシュならそう言ってくれると思ったよ」

 カイルは今忙しいんだけど、下の工房で作れるかな?鎖は出来合いのものを調達すればいいんだけど。

「確かめてきますので、これをお借りしますね」

 ブランシュはそう言って階下へ降りて行った。



前世知識で今世に使えそうな物を次々作り出しています。それが先々何につながるんでしょうか。ライバルや敵対勢力に目をつけられなければいいんだけど。次回は6/24更新予定です。

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