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【68】色々あって薄い紙ができた〜延ばす〜圧延ローラーと薄い紙

心配事はあっても、目の前のやることが山積みなので、一つ一つクリアしていかなくてはなりません。まずは薄い紙を作ります。

 カイルから木札が届き、紙を薄くする手回しローラーが完成したという知らせが届いたので、早速ブランシュと僕はミュゼット二号機に乗り下町のラスト地区へと向かった。ブランシュもミュゼット号に乗るのは慣れたもので、領都内だったらどこへでもついてくるようになった。


「ローラーというのはぐるぐる回る二本の棒で、紙を薄くするためのものでしたね。先日アラン様から説明していただいた物ができたんですね」

 ブランシュが助手席から問いかける。

「うん、今よりも紙が薄くなれば、蝋原紙をもっと早くたくさん作れるし、油紙を作るのにも使える。待ちに待った物なんだ」

 そのために印刷機の改良が止まっているのは内緒だ。

「どれくらい薄くできるのか楽しみです」

「カイルの所では紙づくりはできないから、実際に薄い紙ができるかどうかはテオの所に持っていかないとわからないんだ。今日はそれを引き取るために来たんだよ」

「あら、それなら私が乗ってこない方が良かったかしら」

「後ろの荷台に乗る大きさだから大丈夫さ」


 ◇


 ラスト地区に着いた僕たちはカイルの工房の入り口の戸を開けた。

「カイル、儲かりまっか?」

「ボチボチでんな」

 お決まりの挨拶をして、早速本題に入る。

「ローラーを見せてもらおうかな」

「ボス、これでっせ」

 うん、予想通りの洗濯機のローラーに見た目がそっくりだ。違いはゴムじゃなくて金属であることだ。

「このレバーを回すんだね…おっ、扇風機と同じで力がそれほど必要ない。これも扇風機と同じようにギアを使っているんだね?」

「全く同じじゃないですが、扇風機の経験が生きやした。ほいで、ここのネジを回すと隙間の調整ができて、一応目安のゲージをつけてあるんですよ。ローラーの掃除などで必要だと考えて、一ディギット以上開けられるようにしています。」

「それは気が利いている。同じ条件を出すのにメモリを記録しておけてクリーンアップもできるね。カイル、良い仕事だ」

 僕が褒めるとカイルは油汚れがついた頬を赤くした。


「今更なんだけど、カイルはどうやって蝋原紙を作っていたんだい?薄い紙は無かったろう?」

「今の紙を濡らしてから木槌で叩いて延ばしていたんでさ。その後溶かした蝋を刷毛で塗っていやした」

「それは手間がかかるね。薄い紙は出来そうだから、次はこのローラーを使って蝋引きの工程を改善しなくちゃね」

「ボスの発想力には負けまっさ」

 カイルはボサボサ頭の後ろを掻いた。 


「ほら、これが今回の代金だ。材料費を含めてこれで足りるかな?」

 僕はブランシュから財布を受け取り金貨二枚を渡した。

「四人家族が二ヶ月暮らせる額ですぜ。十分です」

「それなら良かった。少ないと思ったらちゃんと言ってよ」

「へい!」

「早速リヴェルトにこのローラーを届けるよ」


 ◇


 僕は布で丁寧にくるんだローラーが入った木箱を、ミュゼット号の荷台に積んでブランシュを乗せレイモン商会へと戻った。ブランシュを下ろして代わりにブルーノを乗せ、そのままリヴェルトへと出発した。昼過ぎにウッドワークス工房へ着いた。昼飯も食べずにテオを呼び出して、まだすき上がったばかりの濡れた紙をローラーにかけてみた。

「うまくいかないな」

 テオが呟いた。濡れた紙を挟んでローラーを回すと、紙がローラーに張り付いてしまうのだ。表面の滑らかさが仇になったようだ。


「うーん、紙をできるだけ平らでツルツルに仕上げようと思ったけど、それじゃダメみたいですね。紙製トランプのイメージだったんです」

「ローラーの表面に何か貼り付けて紙がくっつかないようにしないといけないな」

「ツルツルは諦めるか。前世のコルクみたいなものはどうでしょうね?」

「コルクだと潰れ切らないから紙があまり薄くならないんじゃないか?」

「そうですね。じゃあ何でしたっけ、あれ、あの手芸用品に使われている柔らかい生地」

「あーフェルトか?」

「それです!それ!」

「うん、あれならそれほど弾力がないから良さそうな気がするよ」

「この世界にフェルトってあるんですかね?」

「どうだろう」

「なかったら作るしかありませんね。僕はどこかでフェルトの作り方を読んだ覚えがあります。今、思い出しますね。フォトメモリー!」

「何じゃそれは?」

「ちょっと静かにしててください」


「思い出しました。この言葉は思い出す時のきっかけの呪文のような物です。ええと手順を言います。羊毛をほぐして縦横に並べて積層していきます。何層か重ねたら五十度くらいの石鹸水をかけて圧力をかけるんです。手工業的には麺棒のようなものに巻いて体重をかけながら転がすんですけれど、ここではこのローラーが使えます。麻布にでも挟んでローラーを何度も通せばフェルトの原型が出来上がります。後はそれを冷水で洗浄してください。乾燥させたらフェルトの完成です」

「今言ったことを箇条書きにして渡しますね」

 僕はテオから紙とペンを受け取って、手順を箇条書きにして渡した。


「わかった。それは俺一人でもできるだろう。フェルトができたらローラーに巻き付ければいいんだな。やってみよう」

「よろしくお願いします」

 ブルーノは僕たちの会話についてこられずただ黙って側に立っていた。そして暗くなる前に帰るため、急いでリヴェルトを発った。ブルーノ共々何も食べていなかったので、パンだけ買って齧りながら走った。


 ◇


 数日後にテオから手紙が届いた。僕が渡した手順のまんまではなく多少試行錯誤が必要だったけれど、ほぼあの通りの手順でフェルトが完成したそうだ。そして念願の薄い紙の試作も折り畳んで封筒に入っていた。おお、これは中々のものだね。

「ブランシュ、これを見てくれない?」

 帳簿と格闘している彼女が僕の手元を見た」

「薄い紙ができたよ。手間がかかるので、まだ作るのに時間がかかるけれど、枚数がまとまったら送ってくれるそうだ」

 僕は試作品を彼女にそっと手渡した。

「これは本当に薄いです。良かったですね。蝋原紙の方の分はカイルさんに渡すのですよね?油紙は私たちで試作するんですか?」

「いやインク用の亜麻仁油を使うから、油紙もカイルの所で作るよ」

「食品に使うなら、もっと綺麗な工房で作らないといけないですよね」

「いい所に気がついたね。専用の工房を借りることになるかな」

「ええ、ここでもできないですし、メートルの工房でも油の臭いが充満するのは困るでしょうし」

「僕の工房や事務所が必要になりそうだね」


 そろそろレイモン商会に間借りしているのも潮時かなと、その時僕は思った。

次のエピソードでは油紙を作ろうとするのですが、そう簡単にはできないみたいです。次は6/20更新予定です。

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