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【64】新商品3種類〜思いつく〜襲撃事件で渋滞していた手廻し扇風機・ドアチェーン・油紙

大きな事件が終わってホッとして、そのままになっていたあれこれを片付けにかかります。ちょっと長めなエピソードです。

 新聞社の事件も解決してひとまず平穏な日々を過ごしている。ブランシュは少年探偵団の子どもたちに読み書き計算を教えている。みんな読み書きと簡単な計算ができるようになった。漢字がなくて良かったね。これで将来平民向けの学校を開く際の経験を積んだと言える。教材もX文式か算盤の導入も考えてはいるんだけど、その野望はまだブランシュには話していない。


「アラン様、ミュゼット二号機の組み立ての方はルナール商会長の援助もあって順調のようですわ。メートルが言っていました。トランプの鼻薬が効いたようですよ」

「ははは、商売人というのは現金なものだね」

「我が家も含めてそうですわ」

ブランシュがちょっと不満そうに言った。

 しまった、商売人と一括りにしてレイモン商会も一緒に貶めてしまったことになるのか。気をつけよう。


 ブランシュとそんな会話をして昼前のお茶を飲んでいると木札を持ったピエール店長が執務室に入ってきた。

「使いの者がこれを」

 彼が差し出した木札を読むとカイルからのものだった。

「やった!手廻し扇風機ができたんだって!」

 僕はブランシュの方を見て笑顔で言った。

「早速見に行きますか?」

「うん、行こう!」

 僕たちは通りへ出て辻馬車を拾って急いで下町へ向かった。


 ◇


 職人街はゴチャゴチャとしてはいるが活気がある。決してゴミで散らかっているわけじゃなく、材料や部品が工房の外にも積まれているだけだ。


「カイル、調子はどうだい?」

「ボチボチでんな」

 お決まりの挨拶を交わして工房の奥へと進む。ブランシュはスカートの裾を引っ掛けないように注意しながらやって来た。


「これが手廻し扇風機です」

 僕が想像していた前世の扇風機と同じくらいの大きさの羽根が付いた機械があった。この世界には安全性の概念がほとんど浸透していないので、羽根の前後のガードは存在しないが、用途が限られているのでこれで十分だろう」

「うん、予想通りの出来だ。羽根を回してみてくれないか?」

 カイルは羽根の後ろのクランクを回して見せる。グルグルと羽根が回り始めるとそこそこの風量の風が起きる。これなら紙の乾燥には十分な風の強さだろう。


「ちょっと交代してくれるかな」

 そう言って自分でも回してみる。思ったよりも軽い。

「カイル、あまり力は要らないようだね」

「私も試してみてもよろしいかしら?」

 さっきから触ってみたくてウズウズしている様子だったブランシュが取っ手を掴んで回した。

「まあ、本当に軽いわ!これなら女性でも回せますね」

ニッコリして彼女が言った。


「そこが苦労したところなんでさぁ。ギアの組み合わせを色々試して、風量と力のバランスを考えたんでっせ」

「うん、気に入った!採用決定!買わせてもらうよ。残りの三台は?」

「初号機を気に入ってもらってからなんでこれからでさぁ。でも部品はあるから一週間で揃えまっせ」

「わかった。配送料を置いていくから完成したら届けて欲しい。代金は今日支払うよ」

「ええっ、いいんですかい?そりゃ助かります。今月もカツカツなんで」

「カイルのような高度な技術を持つ者にはもっと存在価値を認めてやらなくちゃね。改良版の印刷機は高値で買い取らせてもらうよ」

「ありがてぇ」

 カイルは肩を小さくして礼を言った。



「そうだ、ついでと言っては何だけれど簡単な仕事を頼めるかい?」

「何でっか?」

「ちょっとした衝撃では切れないチェーンを7.5ディギス位の長さに切ってドアとドア枠を繋いで渡す。そしてそれをドア側では取り外しできるようなフックを設けておくんだ。目的は見知らぬ人間が訪ねて来た時に、ドアを全開しないで相手を確かめるためだ。それ以上開けられないので押し入ることを防げるだろう。入れても構わない相手なら一旦ドアを閉めてフックから外せばいい」

「なるほど、そいつは簡単な安全確保の道具になリまっせ」

「実はユリアさんの発案なんだ」

「へえ、あの人もやっぱり珍しい発案をする人でんな」

「わかりやした。合間に作ってみやす」

 うん、これでドアチェーンのことは忘れても大丈夫。


「それから僕以外の客が来ることがあったら僕の名前を出しても構わない。どんどん宣伝に使ってくれ」

「何から何まですんません」

「それじゃあ僕たちはこれで」

 ブランシュと僕はカイルの工房を出た。


 ◇


 僕たち二人は、しばらく歩いて昼食ができる場所を探した。そして賑わう下町の広場で、僕らは香ばしい匂いに誘われ屋台のパンとスープを購入した。二人は近くの木製ベンチに腰掛け、温かい食事を口へと運び始めた。パンは焼きたてで香ばしいけれど、スープは味が薄いんだよな。この国のデフォルトだと思うけれど。前世でも出汁をしっかり取るのは日本とイタリアくらいだったっけ?料理の魔改造も必要かもね。


 そんなことを考えながら、硬いパンを器代わりにし、スープを吸わせて柔らかくしながら、ボロボロこぼれる具材と格闘するブランシュ。それを見た僕はひらめいた。


「……そうだ、ブランシュ。この国のパンは硬くて、サンドイッチにしても具が溢れるよね。なら、手も汚さずに具もしっかり保持できる『包装紙』があればいいんだ。確か水を弾く『油紙』があったな。あれなら、カイルが使うインクの油(アマニ油)を使って、僕たちの印刷所で余った試作紙で作れるんじゃないか……?!)」

「油紙ですか?羊皮紙では聞いたことがないんですけれど、植物紙ならできるのでしょうか?」

「そうだね。もう少し薄い紙が必要だけれど」

「でもそれがあったら大変便利ですね」

 ブランシュの目に、商売の芽を見つけた時のキラっとした輝きを見た。


 この「食品用油紙」の開発は、下町の屋台の便利さを変えてしまうかもしれないな。後々レイモン商会の新しい販路(テイクアウト用包装紙としての販売)」や、雨の日でも新聞が濡れない「防水配達袋」としての応用など、新しい商機になっていきそうだ。商魂逞しいブランシュもその可能性に気づいたのだろうか。


「油紙の応用範囲は広そうに思わないかい?」

「ええ、まっことそう確信しますわ!」

 やっぱりかい!


油紙なんて昔のものを引っ張り出してきましたね。でも樹脂とかコーティングなんてないこの世界にはちょうど良い技術なのかもしれません。次のエピソードではいよいよアランの自家用車が手に入りますよ。次の更新は6/7の予定です。

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