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【61】続・襲撃~跳ね返す~安全対策を練る

前エピソードの続きです。新聞が狙われて配達の少年が怪我をしてしまいました。さてまだ安全ではありません。対策を講じることになります。

 新聞社の階段をドスンドスンと駆け上がると、ガストンが警棒を構えて身構えていた。明らかに警戒している。だがアランの顔を見てふっと警戒を緩めた。

「なんだアラン 坊ちゃんですかい。社長は奥にいます。どうぞお入りください」

 前回の対面時より応対がずいぶんと丁寧になっていた。

 編集部に入ると奥の編集長の机、いわゆるデスクにユリアが両手で顔を押さえてデスクに肘をついていた。


「ユリアさん大丈夫ですか?」

 ブランシュが声をかけるとユリアはゆっくりと顔を上げた。目の下に隈ができていて髪もボサボサだ。昨晩からちゃんと休んでないに違いない。

「私は大丈夫なんだけど配達員が怪我をしたの。傷の手当をして打撲跡を濡れタオルで冷やして一晩経ったら、もう大丈夫だと本人が言うのでガストンに付き添わせて返したわ。脳震盪とか頭に大きなダメージがないといいのだけれど。この世界ではCTもMRIもないし、本人の申告を信じるしかないわ」

「確かにそうですね この世界の医療技術は そこまで進歩していないですから」

 アランも同意した。


「犯人の目星はついているんですか?それから官憲は動いてくれているんですか?」

「誰が差し向けたかは推測はできてるわ。相手が孤児なので官憲は動かないわ」

 ユリアは悔しそうに言った。

「新聞が燃やされたのにですか」

 アランが不思議そうに言った。

「この世界ではまだメディアの役割が理解されていないから、単なる紙の強奪事件として見られているの。しかも孤児からのだと」

「そうなんですね。それで犯人の手がかりはありますか」

「ユリアは一枚の新聞を差し出した」


 アランとブランシュは、その一面記事を読んで同時にふーっと深いため息をついた。

「なるほど。貴族の跡目争いの暴露記事ですか」

「この記事が広まれば大騒ぎになって当然ですわ。この話が広まる前に手を打ちたかったのでしょうね」

 アランとブランシュ もその記事の重大性にうなづいた。

「さて、これからの新聞はどうするんですか」

「もちろん続けるわよ。こんな圧力になんて負けてられないわ」

 ユリアは拳を握って言った。

「では 一緒に 安全対策を考えましょう」

「ガストンにもそう言われているのよ」


「現在の配達先、つまり燃やされてしまった部数はどれくらいですか?」

「固定のお客様は四十部よ。後は街売りね」

「配達と街売りの両方の安全対策が必要ですね」

 アランはここで

「ガストンにも会議に加わってもらいましょう」「ガストンさん!」

 入り口の警備をしているガストンに呼びかけた。

「俺が今ここを離れるのは危険じゃないか?」

「それなら入り口に鍵をかけてしまいましょう。そうすれば万が一侵入者が来てもドアを叩くのでわかるでしょう」

 ガストンは渋々会議に参加した。


「私の書いた記事のせいで、罪のない下町の少年が血を流したわ……。でも、ここで屈して新聞の発行を止めてしまえば、それこそ彼ら悪徳貴族や闇組織の思う壺でしょ。安全が確保できるまで、私が家の馬車に乗って新聞を配るわ!」

 ジャーナリストとしての強い使命感と、仲間を傷つけられた激しい憤りが彼女を突き動かしていた。


 すかさずガストンが、現実的な視点からユリアの言葉を遮った。

「社長、そいつは無茶だ。貴族の馬車が下町の路地裏に入ってみろ、格好の標的ターゲットになるだけだ。それに、今回は運よく殴られただけで済んだが、次は本物の刃物が出てくるかもしれない。下町のゴロツキどもは、金を積まれりゃ平気で人を殺す。社長をそんな危険な目にはあわせられない!」

 かなり強い口調だった。


 ブランシュは商人の娘らしい冷静な算盤をはじいて発言した。

「ガストンさんの言う通りよ。これ以上怪我人が出たら、新聞の発行自体を難しくしてしまうわ。力で敵わないなら、商売の仕組みを使いましょう。私の実家の繋がりや、懇意にしている下町の商店、露天商の流通網に新聞を『紛れ込ませる』のはどう? 荷馬車に隠して運べば、ゴロツキたちも手出しできないはずよ」

 武力ではなく、「商人の流通網と隠蔽」で被害を防ごうとする、彼女ならではの現実的な提案であった。


 三人の意見を聞いていたアランが、ブランシュの提案に頷きつつ、自身のアイデアをさらに重ねた。

「ブランシュの言う『隠す』という方向性は、大賛成だよ。大人の流通網を使うのもいいけれど、それだと怪しい貴族の監視の目に留まりやすい。そこでブランシュの案を、僕の『少年探偵団』で実行させてほしいんだ」


 アランは前世のスパイ的な流通知識を応用し、具体的な作戦を提示した。

「下町の路地裏を熟知している僕の探偵団(子どもたち)に配達を任せる。彼らには新聞をそのまま持たせず、普通の買い物袋や、ただのボロ布に包んで運ばせるんだ。一見、ただの小間使いの子どもが歩いているようにしか見えないようにね」


「ガストン、専門家の意見を聞きたいです。配達ルートの安全はどうしたら守れるかな?」

「配達するルートを毎日同じではなく、複数設けてくじ引きで変えるんだ。」

「なるほどそれなら待ち伏せを防げる」

「さらにこういうのはどうだろう。ブランシュが言ってくれた下町の信頼できる商店や酒場の片隅に『荷物』として置いておき、読者にはそこへ取りに来てもらう形にする」

 アランは前世のコンビニ引き取りを思い出して言った。


 皆の意見を黙って聞いていたユリアは静かに言った。

「みんな、色々と考えてくれてありがとう。私が自身で配るのは止めにするわ。アラン君の少年探偵団にも協力してもらって、新聞の配達と思われない方法で配ることにするわ。それと商店に置いてもらうのは今後の販路拡大にもつながるし、いいアイデアだと思うわ。これなら襲撃されにくいでしょうね」

 ユリアの目には涙が滲んでいた。ユリアがそう言ったので、アランは一抹の不安を覚えながらも喉まで出かかっていた言葉を飲み込んだ。(「襲撃の根本原因を取り除くまでは安心できないんだよな」)


「それでは燃やされた分を再度印刷して、新規ルートで配達することとしよう!僕は少年探偵団に説明するために戻るよ。ユリアさんは印刷を頼むね」

 アランは優しげな声でそう言った。


「アラン君、ちょっと待って」

帰ろうとするアランをユリアが呼び止めた。

「昨夜、配達員の手当をして気づいたのだけれど、この世界に消毒用アルコールってないのよね。お酒がつくれるんだから、アラン君の手でアルコールが作れない?消毒が不十分で傷口が化膿する人がいるんじゃないかしら?」

「そうですね。考えてみます」

こんな時でもユリアはこの世界を少しでも良くしようと考えているんだなとアランは感心した。

次のエピソードは襲撃事件の対策実行編です。本エピと続けた方がいいので次回更新は明日6/2です。

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